8月22日~24日にかけて、神奈川・パシフィコ横浜 会議センターでCESAによる開発者向け大規模カンファレンス「CEDEC 2018」が開催されました。本稿では開催2日目にメインホールで行われた、「ゲームグラフィックス20年の進化とこれから」の聴講レポートをお届けします。


◆20年前から今に至るまでの据え置きゲーム機をおさらい
株式会社コナミデジタルエンタテインメントの植原一充氏がモデレーターを務めた本セッションは、20年前の据え置きゲーム機のおさらいから始まりました。今回のセッションで話題に挙げられたゲーム機は、以下のように分類されています。

・第6世代
ドリームキャスト(1998年)、PlayStation 2(2000年)、ニンテンドーゲームキューブ、Xbox(ともに2001年)
・第7世代
Xbox 360(2005年)、PlayStation 3、Wii(ともに2006年)
・第8世代
Wii U(2012年)、PlayStation 4、Xbox One(ともに2013年)、Nintendo Switch(2017年)

この20年間のゲームに関わる大きな変化として、iPhone(スマートフォン)の誕生と、テレビが地デジになったことによる液晶テレビの普及が挙げられました
登壇者は写真左から順に、株式会社セガゲームスの厚 孝氏、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの山田裕司氏、株式会社バンダイナムコスタジオの岩永欣仁氏
モデレーターの植原氏は、リアルタイムアンケートシステム「respon」を活用しながらセッションを進行
◆第6世代を振り返って
おさらいが済むと、セッションは植原氏が登壇者一人ひとりに議題を投げかけ、回答を引き出す形で進行しました。

■PlayStationからPlayStation 2への変遷を経てどう感じたか?

山田PlayStation(以下PS)はテクスチャーのパーステクティブコレクションなどがなく、"3Dをやるにはまだ微妙に足りない部分がある"マシンでした。ですが、PlayStation 2(以下PS2)ではそれらの機能が備わり、これでやっと3Dが作れるなと。PS2はシンプルな機能ながらものすごいバス幅やアクセススピードがあり、それをどう使いこなせばいいか、とクリエイターとしてすごく楽しかったハードです。

■ドリームキャストとはどのようなハードだったか?

厚ドリームキャスト(以下DC)には、今話に挙がったパースペクティブコレクションなどの機能が備わっておりまして、今日の3Dハードの原点はDCだったのではないかと自負しております! とはいえ、数値の上ではPS2に負けていた面もあります。PS2のDRAMバス幅が2560ビットあると初めて知ったときは「これは誤植なのでは?」と思ってしまったくらいです。

ただ、DCのGPUであるPowerVR2には半透明ポリゴンのピクセルソート機能があったのですが、こうした機能は、実は今日のゲーム機にも備わっていないんです。そういう意味では、夢のようなハードではあったと思っています。

■PS、PS2、DCの3ハードでゲーム制作をしてきた感想は?

岩永私が手がけた1998年稼働のアーケードゲーム『ソウルキャリバー』は、SYSTEM12という初代PSとの互換性を持つ基板でのリリースでした。後日、それをDCに移植することになりまして、何もかも作り直しました。
その後PS2の世代になって、またまったく違うハードに関わることになりました。オリジナルのアルゴリズムできれいなグラフィックスを実現するために必死にプログラムを組む……当時はそういう時代だったと思います。

ここで植原氏が「respon」で寄せられたコメントの中から「PS2は最初ハードウェアのマニュアルだけしかなく、ポリゴンを出すまでの準備は時間がかかった」というものをピックアップ。次の議題は「ポリゴン黎明期の思い出話」となりました。

山田たしかにそうでしたね。開発者には、今でいうところのグラフィックス・ドライバーが実行しているコマンドが一つひとつ書かれている本を渡されるんです。それを1ページずつ見ながら、コマンドを覚えていって……(笑)。でも当時は、その本を貰ったこと自体が嬉しくもあったものです。

岩永それが通称"黒本"と呼ばれる辞書のようなマニュアルで、コントロールするためのプログラムを必死で書いていました。覚えがいのあるハードでしたね(笑)。

厚DCはWindows CEがベースということもあり、Windowsとも互換がありました。その機能を使ってくれるタイトルはほとんどなかったのですが、今にして思えば、これ(Windows互換)ってある意味Xboxにつながる流れとも言えるのかなと。
今日のゲーム機に"血"だけは残せているのかなと思うと、感慨深いものがあります。

■PS2の世代で絵作りが一段と変わったように感じているが、当時の苦労話やブレイクスルーは?

山田ポリゴンのニアクリップなどを自分で書かなければいけないというのは衝撃でしたね……。最初はがんばって書いていましたが、後期にはコンパイラが出てきてプログラムしやすくなりました。

岩永少しでも綺麗に見せたかったので、二つの画面をα合成できる機能で上下方向にボカして擬似諧調を作り、疑似的に18万色表示できるようにしたりしていました。そういうおかしなことをやって作ったのが『ソウルキャリバーIII』でした。

■DCの色味は他のハードと違っていたような気がするが?

厚DCはすごく出力が明るいんです。RGBで接続すると起動画面は灰色に見えるのですが、でもビデオ端子でテレビに接続するとそれが真っ白に見えるくらい明るくなります。そういうところが、鮮やかな色を出すというような印象を生んでいるのだと思います。

◆第7世代を振り返って
■PS2からPS3に移行しての感想は?

山田高い計算力を何に使うのかが悩みどころでした。ピクセルシェーダーが使えるようになって、メモリが増えて、作れる幅が広がって。「こういうのは作れるか」と聞かれると、大抵のことは実現できる。だからこそ、どれを実行するかの判別・ディレクションが重要になったなと。


厚話題からは半世代前のハードのXboxでシェーダーが使えるようになったのが、この時代の一番の特徴だと思います。開発の際の自由度が全然違うんです。それまでは固定機能の組み合わせをがんばって絵作りをしていましたが、プログラマのウデで本当になんでもできるようになりました。でも、リソースに制限はあるのは変わりありませんので、その中で本当に効果的なのはなんだろうと模索していました。

岩永ひとつ前の世代のゲームの画面を最新ハードで出力してみると、違和感があるんですね。それまでは(ブラウン管の)画面がぼけて、なんとなく被写界深度っぽく見えていたものが、解像度が上がってクッキリハッキリとしたことで、まるで宇宙空間のように見えてしまうようになって……(笑)。これからはDOF(Depth of Field。被写界深度)をしっかりかけないとダメだね、と話していました。

■この頃にディファードレンダリングが流行りはじめて、それが転換点だったように思えるが、それぞれの見解は?

厚弊社はディファードレンダリングに取り組むのがちょっと遅かったのですが、PS3がなんでもできるハードであるがゆえに、初期は細かな違いでシェーダーがどんどん増えてしまう"組み合わせ爆発"の問題があちこちのデベロッパーさんで起きていたのではないかと思います。それを解決するのがディファードレンダリングでした。

山田ディファードレンダリングで、絵作りがこんなにも変わるのかと衝撃を受けました。それまでのライティングは見た目重視でやっている面もありましたが、これからは実際のライティングをきちんと意識しないといけないなと感じました。


岩永そうしてディファードレンダリングが当たり前になると、そこで独特のグラフィックを実現するにはもうひと工夫考えないといけない。そのためにはやっぱりフォワードレンダリングでやりたい……とか、いろいろ葛藤しながら過ごした時代でした。

■当時、海外タイトルでグラフィックに衝撃を受けた作品はあるか?

厚PS3末期のNaughty Dogのソフトですね。「ここまでやられちゃうと困るなぁ」と思いながら見ていた時期はありました。

山田『アンチャーテッド』はもちろん、ディファードレンダリングを採用したGuerrilla Gamesの『KILLZONE』シリーズも衝撃でした。ウチもこういうのをやっていかないといけないな、と強く感じました。

岩永最近の話になりますが『Horizon Zero Dawn』を見たときは「(もう)ムリ」と思いましたね……。でもなんとかやっていかなければと思いなおしましたが。

PS4ソフト『アンチャーテッド コレクション』(画像は公式サイトより)
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◆第8世代の現状
■PS3からPS4に移行しての感想は?

厚PS3は自由度がすごく高い一方でパフォーマンス的に厳しい面もあり、開発はトリッキーなテクニックを駆使してがんばっていました。ですが、PS4で開発する段になって、素直に組んでそのまま動く時代がようやくきたと感じました。本当の意味で、コンテンツ作りに専念できる時代になったのかなと。

山田やれることがどんどん広がって、(どこに的を絞るかの)ディレクションが難しくなりました。
グラフィックは、PBR(フィジカル・ベースド・レンダリング)をつきつめていくのがひとつのトレンドに。ゲームのジャンルとしては、オープンワールドが一層流行ってきて、開発の際の物量がものすごいことになりました。効率的なアセットの作り方、実機におとしこむまでのフロー構築などに苦心しました。

岩永ここまでくると、作り方はPCとほぼ同じになりましたね。性能の差で、さばける量がハードによって異なるくらい……という認識です。

■絵作りで工夫している点は?

厚目指すべき絵はフォトリアルで、PBRがきちんとできていることが第一目標です。そこからのポスト処理(ポストプロダクション。映像制作において、撮影が済んだ映像に特殊効果処理や編集などを施すプロセス)で、どのような方向に寄せていくかというのが弊社の方針です。フィルムと同じですね。

山田「Unreal Engine」の登場もあり、リアルな絵が作りやすくなりました。だからこそ、それをどうやって差別化するかが大きな課題です。それはポスト処理によるものか? それともカメラワークによるものか? コンテンツの力がいっそう重要になりました。


岩永日本では、脳内で思い描いた光景をゲームで表現したいという人が必ず出てきますので、PBRなどのリアリスティックなレンダリング技法を使いこなしたうえで、いかにしてそこに独自の絵作りを乗せていくか……が重要だと思っています。

■フォトリアルではなく、ノンフォトやトゥーンシェードの可能性は?

山田弊社のタイトルですと『GRAVITY DAZE』ですね。ファンが多い作品で、特に日本の方はこういう表現も好んでもらえます。ノンフォトでも、フォトリアルの技術を使って新しい表現をやっていける余地はあると思っています。

岩永ノンフォトも、あるところまではリアリスティックレンダリングの技術を使えます。そこに、どうやってひと味や手心を加えるかが大事で、ゼロからすべてやる必要はないと思っています。

厚弊社としては、トゥーンシェードというより『ジェット セット ラジオ』の"マンガディメンション"というのがいいですかね! 今日のトゥーンシェードの元祖ではと思っています。それはともあれ、最後の味付けとしてノンフォトやアニメ調に持っていくわけで、その裏で動いている素材は、PBRと共通するものです。

独自の"味付け"が多くのファンを獲得したSIEの『GRAVITY DAZE』(画像は公式サイトより)
◆これからのゲーム業界に期待すること
■8月21日、NVIDIAがレイトレーシング技術を実現させるという「GeForce RTX」シリーズを発表した。レイトレーシングについてどう感じるか?

厚今までは見えないところ(画面に映らないところ)はやりようがないと現状で満足していましたが、NVIDIAさんの発表を見て、次はレイトレーシングにいくしかないのかなと感じました。研究しないといけませんね。

山田レイトレーシングは、NVIDIAさんの発表で一気に近くなったと思います。新しいハードウェアがレイトレーシングを取り入れて業界をグイグイ引っ張っていってくれるかもしれないと思うと、開発者として楽しみです。

岩永今までもレイトレーシングに近いものはやってきているので、そこまで怖くはないのかな、と感じています。流行るのはそんなに先ではないのかもしれませんね。

■ゲームエンジンは独自のものがいいか? 既存の商用のものがいいか?

厚弊社は独自エンジンでがんばっています。"元プラットフォームベンダー"という誇りのようなものありますが、他のどこよりも先んじて何か新しいことをしようと思ったら、コアな部分の手綱は自分たちで握っておかなければな、と。もちろん、商用エンジンもとてもすばらしいので、お手本にさせていただくこともありますよ。

山田どういったゲームエンジンを用いるかは、タイトルによって決めています。ただ、技術力は高め続けないといけませんので、弊社独自のゲームエンジンも作っていきたいです。

岩永「このゲームは大改造が必要だぞ」となったら、オリジナルエンジンの出番かなと。その時にすぐ動けるように、オリジナルのエンジンは普段から作ってないといけないなと思います。既存のゲームエンジンが向かないゲームを手がけるときに、それに合ったエンジンを最短で作る。そうできればと。

独自のエンジンで制作されているセガゲームスの『龍が如く6 命の詩。』(画像は公式サイトより)
■次世代のハードウェアに期待することは?

厚グラフィックの話にかぎりませんが、とにかく作るのが楽になったらいいなと思います。PS3からPS4に移行したときはそこがすごく大きかったので、PS4は大好きです! 今後、4Kや8Kが当然になって、レイトレーシングが一般的になったりした場合に、マシンパワーが足りず苦しい……というような時代にならないといいですね。

山田PS4で開発しやすくなったというお声は多くいただいていますので、今後も、みなさんがより開発しやすい環境を保っていきたいですね。具体的にどうすればよいかは、私が知りたいくらいですが(笑)。

岩永グラフィックは相当よくなりましたので、音のような、その周りにも力を入れたいですね。Nintendo Switchの「HD振動」はそのひとつだと思います。そういう"手触り感"にもマシンパワーを割いて、よりよいものを作れればと思います。

取り上げるゲーム機をいわゆる据え置き機にしぼってなお、まったく語り足りない濃密なセッションは、あっという間に終了時間に。聴講者の中には若い人が多いということで、最後は登壇者から若い開発者たちへエールが贈られました。

厚かつてゲームの表現が2Dから3Dになったとき、若い層に世代交代したという感覚がありました。そして今後、レイトレーシングのような新しい技術が取り入れられたときにそういう波がもう一回くるかなと思っています。若い世代のみなさんはその時に備えてたくさん勉強して育ってくれていると、私が楽できます(笑)。

山田昔は20ポリゴンや30ポリゴンでキャラを作っていたのに、今は何十万ポリゴンとか、PBRだとか、おじさんは疲れてきた感があります(笑)。今はゲーム機と映像の境目がなくなってきて、技術的にも共通する部分が多くなってきました。最先端の技術が毎年開発される刺激の多いジャンルだと思いますので、どんどん(この業界に)入ってきてください。

岩永覚えることがたくさんあって大変だと思うかもしれません。でも、(技術の進歩で)楽になってることもたくさんありますので、立ち向かってきてほしい。会社としても、レンダリングができる人は引く手あまたですよ。さまざまな会社で、すばらしいものを作っていってほしいなと思います。

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