昨今は、ダウンロードという販路が定着したことで、実に多彩なジャンルや方向性のゲーム作品が数多くリリースされています。アイディア勝負のタイトルでも、価格を下げることでユーザーも購入しやすくなり、その結果多くの選択肢が生まれています。


その一方で、ダウンロードソフトと比べて流通の手間・費用も嵩み、その分価格も抑えにくいパッケージソフトでは、ブームとなっているジャンルや人気シリーズの続編などが強い傾向にあり、チャレンジ精神溢れる新規IPの割合は比較的少なめと言わざるを得ません。

しかし、ダウンロード販売がなかった(また、ごく一部のユーザー向けだった)頃には、パッケージソフトでも挑戦的なタイトルが様々リリースされていました。また、ジャンルの人気も幅広く、STGやADVは今よりも大きな勢いがありました。

そんな時代に生まれたADV『御神楽少女探偵団』も、意欲的な作品のひとつでした。本作が発売されたのは、本日2018年9月17日から遡ること、ちょうど20年前の1998年9月17日。この記念すべきアニバーサリーを祝して、『御神楽少女探偵団』の魅力や当時の流れなどを振り返ってみたいと思います。

◆ギャルゲーへの不信に立ち向かった、美少女+本格ADVな『御神楽少女探偵団』

本作のプラットフォームとなったプレイステーションが発売されたのが1994年。そこから4年弱の時を経て、『御神楽少女探偵団』が発売されました。

プレステやセガサターンでは、それまでのドット表現だけでなく3Dポリゴンを用いた立体的な表現が一気に広がり、『御神楽少女探偵団』と同年の1998年には『双界儀』や『パラサイト・イヴ』、『テイルコンチェルト』など、立体表現を活かした作品が登場。

ですが、2D表現が廃れたのかと言えば、そんなことは決してありません。プレステやサターンで向上したグラフィック能力の恩恵に与ったのは、2Dも同じこと。キャラクターなどがより美麗に描けるのはもちろんのこと、アニメーションによるムービーなどもたっぷりと取り入れられるようになりました。


2D描写も豊かになったことで、アニメ原作のゲームや、美少女を全面に押し出す作品も増加。この時代に生まれ、後々まで名作と語られるタイトルも多数リリースされました。しかし、見映えのいいパッケージや外側だけを取り繕った安易なゲームも残念ながら存在し、いわゆるギャルゲーは「クオリティの落差が激しいジャンル」と認識された一面もありました。

そんな時代に、ヒューマンが発売した『御神楽少女探偵団』は、主人公の探偵・時人と3人の助手が中心となり、大正・昭和初期の日本を舞台に様々な事件に挑む推理系ADV。助手である「鹿瀬巴」「久御山滋乃」「桧垣千鶴」はいずれも10代後半の美少女で、活発系・ご令嬢・知性派と幅広い魅力を押さえています。

新規IPで、美少女が3人も登場するADV。そのため一部のユーザーは慎重に本作の情報などを窺っていましたが、時代背景を活かした展開や、美少女がいながらもパッケージには誰一人登場しない硬派な構成など、これまでの十把一絡げの安易な作品ではないという雰囲気が伝わり始め、口コミなどでその評判が広がっていきました。

美少女要素もありながら、しかし推理系ADVとしても高く評価された『御神楽少女探偵団』。次は、そんな意欲作の魅力について触れてみたいと思います。

◆ゲームオーバーを乗り越えて真実に迫れ! 骨太なゲーム性でプレイヤーに挑戦

ビジュアル的に3人の助手が目立ちますが、本作の中核は事件の真相に迫る捜査と推理にあります。その要素をゲーム的に落とし込んだ特徴的なシステムが、「推理トリガー」です。

登場人物との会話で気になる内容や矛盾した点があった場合、この「推理トリガー」を発動させることでそのポイントに言及することが可能。
こうして得た手がかりや新情報を集めることで、捜査が発展していきます。また「推理トリガー」は、会話だけでなく、犯行現場の怪しい箇所のチェックにも使用できるので、証言や現場検証など幅広い場面で欠かせない要素になっているのです。

しかも「推理トリガー」の使用回数には制限があり、気になる発言やポイントにはフェイクも含まれています。充分な情報や証拠を集められないまま使用回数を使い切ると、残念ながらゲームオーバーに。この容赦のなさが、「推理トリガー」に重みを与え、シナリオが進行した時の手応えにも繋がります。

登場人物の発言などに注目できる「推理トリガー」は、非常に画期的で、当時は他にあまり類を見ないゲーム性でした。コマンドを総当たりすれば進展する推理ADVが多かった時代に、“推理をゲームにする”大胆な試みを行った点が、ADVファンを中心に大きく評価されました。

また本作で起きる事件の数々は、その時代背景を活かしたものが多く、江戸川乱歩や横溝正史の作品を彷彿とさせます。大正浪漫に溢れる怪奇ものといった点も、多くの推理系ADVと一線を画したポイントと言えるでしょう。

「美少女」という要素を持たせながらも独立したゲーム性を確立し、見た目に頼り切ることのない骨太な推理系ADVとして成立した『御神楽少女探偵団』。かといって美少女部分を疎かにするわけでもなく、美麗なアニメシーンも多く盛り込み、立ち絵にも動きを持たせるなど、ビジュアル面においても当時の最先端を行く作品のひとつでした。

これだけ意欲的だったせいか、残念ながら難点も存在します。
ゲームオーバーから復帰することが多いゲームながらもスキップなどはなく、やり直しに時間がかかること。UI(特にカーソル操作)が洗練されているとは言い難いこと。そして、最後の事件が途中で区切られてしまうことなど、好きならばこそ気になってしまう点がいくつかあります。

最後の事件については、続編である『続・御神楽少女探偵団 ~完結編~』に後半が収録されているので、そこまで遊べばしっかりと決着を迎えます。ですが、1本のソフトとしてキリが悪いのは、やはり小さくない問題点と言えます。

そのような面もありますが、作品が持つ個性と意欲的な姿勢、そして独自性が好評を博したことは間違いなく、ADVゲームファンの心に刻まれる作品のひとつとなりました。

◆『御神楽少女探偵団』のその後に迫る─そして今遊ぶには?

『御神楽少女探偵団』は、前述の『続・御神楽少女探偵団 ~完結編~』が1999年10月に登場。一作目はファンディスク込みでCD-ROM 4枚組でしたが、続編では本編だけで4枚組という大ボリューム。システム面での改善も行われてました。

そして、2003年12月には『新・御神楽少女探偵団』がリリースされました。こちらは、プラットフォームがPC(Windows)となり、エルフより発売。18歳未満お断りの、いわゆる成年向けゲームとしての新展開でした。


成年向けとなったことで、アダルトな描写も加わります。また、キャラクターデザインの変更なども行われました。そのため、『新』はシリーズファンにとって賛否の分かれる作品となりましたが、ごく一部を除くものの『御神楽少女探偵団』『続・御神楽少女探偵団 ~完結編~』も収録。当時、この2作品の入手はかなり難しかったため、この移植を含めて評価する向きもありました。

そして2009年10月に、『御神楽少女探偵団』のゲームアーカイブス版が配信を開始。また『続・御神楽少女探偵団 ~完結編~』も、その翌月に配信されました。PS3やPSP、PS Vitaなどで手軽に楽しめるのはもちろんのこと、1本当たり617円(税込)という価格も嬉しいところです。

当時を気軽に懐かしみたいのならば、ゲームアーカイブス版がお勧め。しかし、『新・御神楽少女探偵団』に収録された過去作は、移植の際に改善も施されているので、遊びやすさを選ぶならばPC版も選択肢に加わります。また、『新』は正式な三作目に当たるので、シリーズを通して遊びたいならば、PC版一択とも言えます。平成最後の年に、大正浪漫を求め、帝都・東京を駆けめぐってみてはいかがでしょうか。

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