2019年も残すところあとわずか。今年すべきことを忘れていないだろうかと考えたところ、1999年10月28日に発売された『アークザラッドIII』の20周年を祝い損ねていたことを思い出しました。


私は当時、あと数日で期末テストだったのに本作を買いに行く程度には『アークザラッド』シリーズ(以下、『アーク』と表記)が好きだったので期待していたのですが……。いや、本作は決して悪いゲームではないのですが、黒歴史などと言われてしまうかわいそうなところもあるのです。せっかくの年末ですし、ゆっくり本作をプレイしながら思い出していきましょう。

◆『アークザラッドIII』はどんなゲーム?
『アークIII』は1999年に発売されたPlayStation向けのRPGです。タイトルからわかるように『アーク』シリーズ三作目で、もともとこのシリーズは「光と音のRPG」なんてキャッチコピーがついていました。いまでは激しい画面演出やキャラクター音声に豪華な楽曲は当たり前ですが、スーパーファミコンの時代はボーカル入り楽曲が作中で流れるだけでも驚きでした。
つまり、ハードの進化によってそういったことができるようになってきた時期なのです。

『アークII』では大きな事件が起きて世界が崩壊してしまったのですが、そこからの復興を描くのが『アークIII』となります。主人公はさまざまな仕事をこなす「ハンター」にあこがれて村を飛び出し、仲間を増やしながら最高のハンターを目指す冒険を繰り広げていきます。

前作まではかなりシリアスな物語が展開されており、それこそゲーム開始直後に「主人公の村が焼かれたうえで誘拐されてしまう」なんて展開が起こるわけですが、『アークIII』は逆に明るい世界観が特徴です。

もちろん世界がとんでもないことになったので北スラートというスラム街があったりするのですが、一方で崖を挟んだ南スラートでは潤沢な水があるおかげで人々がそれなりに暮らしていたり、あるいは別の街には(崩壊から数年しか経っていないのに)お嬢様がいたりします。

主人公はギルドでさまざまなクエストを請け負っていくのですが、仕事のアイテムを横領したとしても「次からは気をつけてくれよな」と小言を言われる程度で済んだりと、打って変わって世界観は明るくなったのです。


◆『アーク』といえばシミュレーション形式のバトル
バトルはシミュレーションPRG風になっており、マス目で区切られたフィールドでキャラクターを動かして相手を攻撃していきます。武器は剣・ナイフ・槍・銃などさまざまで、もちろん魔法をはじめとする特殊攻撃や爆弾などの道具も存在します。

『アークIII』は前作の「戦闘のテンポが悪い」という部分を反省していたようで、とにかくスピーディーに進んでいきます。ただ、演出をカットする部分を間違えてしまい、『アークII』にあった激しい戦闘アニメまであっさり気味に。まとめて敵を倒したときに出るお金の演出などを切ってくれるだけでもよかったのですが、と思うファンもいたようです。

ゲームバランスはかなり遊びやすく調整されています。
それはいいのですが、中盤に入ると出てくる施設「デンジャードーム」がかなりバランスを壊し気味。これはアイテムを賭けて勝負すると違うアイテムが手に入るのですが、敵が弱いため少し時間をかければとにかくグレードの高い装備・アイテムを入手できる場所になってしまっています。

このほかにも強すぎる呪文「ギガ・プラズマ」なんてものもあったりするのですが、まあクリアしやすいこと自体は悪いわけではありません。『アークII』は終盤になると敵のレベルがいきなりあがったり、ラスボスのHPが文字通り桁違いになっていたり、やりすぎていた側面もありましたからね。

◆前作までのキャラも多数登場! ……することはする
『アーク』シリーズの魅力はたくさんのキャラクターが登場することです。前作『アークII』はストーリー上で加入するキャラだけでも膨大なのに、さまざまなモンスターまで仲間にできてしまいます。
おまけにレベルは1000まで上がり装備もアイテムも種類豊富で、鍛冶屋をうまく使うと鬼のようにやり込めたのです。

そしてコンバートというシステムもあり、前作で鍛えたキャラクターを引き継げるのもシリーズの特徴となっています。もちろん『アークIII』にもコンバートは用意されているのですが……、シリーズファンからすると思ったより引き継げていないのが現実でした。

もちろん『アークIII』にも過去作キャラが登場してストーリーに絡みますし、さらには一緒に戦う場面もあります。が、参戦は一部キャラのみ&一時的であるうえ前作のデータをそのまま引き継ぐわけではありません。引き継がれるアイテムも一部のみで、なくても問題ないでしょう。


そもそも『アークII』が膨大なやりこみ要素を持っているゲームなので、すべてを引き継げないのは仕方ないのです。ただ、前作キャラがほとんとポッと出でしかないのは、2019年に遊んでも寂しいですね。

◆ストーリーも大きく変化してしまった
『アークIII』最大の問題点としてよく語られるのがストーリー。前作では「ラスボスを封印する聖柩という道具が壊されてしまったので、初代からの主人公・ヒロインが命がけて封印を施す」なんて流れになっていたのですが、本作では「壊れたなら聖柩を作っちゃえばいいじゃん」という展開になります。

聖柩の材料を昔の仲間である「ゴーゲン」に聞き、さまざまな努力を重ねることによってようやく聖柩は完成するわけですが、もともと神が与えたはずの道具を人間の手で作るということ自体がなかなか破天荒な展開。前述のように『アークIII』は打って変わって明るい世界観になっているので、このギャップに戸惑った人も多いようです。


ほかにも前作までのキャラクターの扱いが雑な場面も目立ちます。たとえば南スラートの闇市には記憶を失った「チョンガラ」というキャラクターがいるのですが、これも前作までは重要な仲間でした。本作では闇市に放置されたままであり、「もうちょっとケアしたほうがいいだろ……」と思わずにはいられません。

『アークIII』の本筋は「アレクがハンターの仕事をこなしていくうち、前作主人公たちの意志を継いで世界を救う」という流れになっていて悪くはないのですが、その前作までの意思を継ぐ過程が雑なのです。

◆終わった作品を復活させることの難しさ
このような問題点があり『アークIII』は文句を言われることも多いのですが、では結局のところ何が問題の根源だったのでしょうか。それはやはり『アーク』シリーズは二部作だったことでしょう。

『アークII』のパッケージ裏に書いてあるように、本作は二部作で終わりだったのです。しかし、そこから『アークIII』が作られたわけで、無理が生じるのは当たり前。開発体制が変化したり、終わったシナリオに強引な続きを作り、無理なコンバート要素を用意したこともあり、いろいろとほころびが生じたのでしょう。

その後『アーク』シリーズは1000年後の世界が舞台になったり、オンライン対応アクションになったりして迷走。2004年11月の『アークザラッドジェネレーション』からしばらく休眠状態になり、2018年8月にスマートフォン向けタイトル『アークザラッド R』としてようやく復活を遂げました。

『アークザラッド R』にも『アークIII』のキャラは登場するのですが、残念ながらストーリー的にはかなり違う世界になっているようです。このようになんとも立場のない作品になってしまった『アークIII』なのですが、作品単体としては決して悪くありません。ただ、終わってしまった二部作の正当な続編になるための強い力がなかっただけなのです。……ということを噛みしめる20周年でした。