ドラゴンに跨り、大空を駆ける──この少年心をくすぐる設定を、荒廃しながらもどこか心を惹きつける世界観と、浮遊感とホーミングレーザーによる独特の心地よさで表現したSTG『パンツァードラグーン』。

本作は、1995年にセガサターンソフトとして登場。
個性的なデザインでユーザーを魅了し、続編となる『パンツァードラグーン ツヴァイ』、世界観を大いに広げたRPG『アゼル -パンツァードラグーン RPG-』、シリーズの集大成とも言えるXboxソフト『パンツァードラグーン オルタ』など、シリーズ展開の発端となりました。

また本作自体も、2006年にPS2版がリリースされたほか、『パンツァードラグーン オルタ』内に収録されるなど、プレイ環境を様々な機種へと広げていきました。その最新の動きとなるのが、2020年4月2日に発売された『パンツァードラグーン:リメイク』です。

25年の月日を超え、最新ゲームハードに蘇った『パンツァードラグーン』。その復活は嬉しい反面、歴史のある作品には“思い出”という壁も立ちはだかります。思い出の中のゲームは、つい美化してしまいがち。無茶な注文と分かっていても、この“思い出補正”を超えられるか否かは、どうしても気になるところです。

初代『パンツァードラグーン』を、サターン版、PS2版、そして『オルタ』内のXbox版と、3機種に渡って遊んできた筆者にとっても、リメイク版が思い出を超えてくれるのか、期待と不安が入り交じる点です。そしてその判断は、実際に遊んで下すしかありません。

今回は、あくまで一ファンの個人的な主観に過ぎませんが、『パンツァードラグーン:リメイク』をプレイを通して味わった感覚を、生の声としてお届けしたいと思います。

◆OPだけでも、思い出が刺激される! そして、美化していたことも実感
3機種プレイしたとはいえ、遊んでいたのはいずれも当時の話。軸となる部分は覚えていても、それ以外はかなりおぼろげ。
ですがそれだけに、“記憶”ではなく“思い出”が基準となるので、ハードルは余計に上がっているかもしれません。

それでも、久しぶりの『パンツァードラグーン』にワクワクする気持ちを感じながらゲームを立ち上げ、まずはOP映像を視聴。「Dユニット」の起動確認を告げるメッセージ・・・そうそう、これが幕開けでした。

そして、主人公の登場に繋がる荒野の光景に。寂寥とした岩肌などは、向上したグラフィックの恩恵を受けていますが、乾いた空気感は当時の印象を連想させてくれます。あの時の自分は、この乾いた大地を駆け抜けていたんだ・・・!

──と、思い出に浸りながら酔いしれましたが、セガサターン版と比較するとこのシーンですらかなり違っています。岩肌の凹凸はもっと少ないですし、光源もここまで明るくありません。そのため、再現という意味で捉えるならば、忠実ではなくアレンジが入っていると言えます。

しかし思い出というのは恐ろしいもので、帝国の船が頭上を通り過ぎていくシーンは、リメイク版の表現に近いイメージで捉えていました。「お前がちゃんと覚えていないだけだ!」と言われればその通りですが、思い出は記憶すら上書きします。そして、思い出にこそ引っ張られてしまう自分自身もまた、難儀な存在にほかなりません。

主人公が、青いドラゴンと使命を託されるシーン。
ここの構図も原作通りですが、しっかりと細部まで描写されており、その美しさが臨場感をよりかき立ててくれます。

新たに描写されたドラゴンは、生物感が増したような印象も。それでいて、一般的な生き物とは異なっており、「なるほど、これぞ攻性生物」と改めて実感させられました。

仲間の無事が確認できるシーンは、全体の物語から見るとささやかな箇所ですが、テキストに頼らず世界を描写することが多い『パンツァードラグーン』を象徴しているように感じます。ここも、リメイク版でより鮮やかに。OPの思い出が、リメイク版の表現で上書きされそう・・・。

◆美しさが臨場感を後押しする! エピソード1から「世界」に釘付け

OPも終わり、ゲームはここからが本番。エピソード1は、薄暗さもある大空と共に幕開けです。青いドラゴンとのコントラストが、目を惹きつけます。(ちなみにこの薄暗さも、リメイク版のアレンジ。オリジナル版はもっと明るい感じです)

ステージ中のグラフィックも、さすがリメイク作といった出来映え。いくら思い出補正があると言えども、この描写の細かさがサターン版と大きく違うのは実感できます。
ゲームハードが進化した恩恵に、いまさらながら驚くばかり。

攻撃の照準とドラゴンの移動は、いずれも同じ入力で操作するため、回避と攻撃を両立しにくいのも『パンツァードラグーン』の特徴。サターンのコントローラは、レバー(LR共に)がなかったため、移動と照準を分けるのが難しかったのかもしれません。この独特の操作感覚も、ファンにとってはお馴染みのもの。

徐々に操作や戦い方を思い出していると、エピソード1の大詰めとなるバトルシップが登場。この船に限らず全体的に、3Dモデルが輪郭まで滑らかに表現されているので、実在感が増しているような手応えがあります。

視点を切り替える独特のバトルも久しぶりなので、エピソード1のボス戦ですら苦戦してしまいます。慌てて視点を切り替えようと連打し、行きすぎることも多々。ああ、当時もこんなプレイしてたなぁ・・・。

それでも、なんとか1発でクリア。撃墜率は77%と低めですが、「STGはクリアできればいい」派のユーザーなので問題なし! ・・・と言いたいところですが、撃墜率でコンティニューに使えるクレジットが増える模様。これは、後々響いてきそうです。


<cms-pagelink data-text="クリアまでたどり着けるのか? そしてプレイした実感は・・・" data-page="2" data-class="center"></cms-pagelink>

◆エピソード4のボスが手強い! 攻略を見つけたのか、それとも思い出したのか、判断に悩む

エピソード2は砂漠が舞台。「多数ロックオンできる敵は、ホーミングレーザーを多数とばせるので楽しい!」とか、「プロトタイプがこんなに美しく・・・!」など、プレイ感やリメイクの恩恵をここでも味わわされます。

描写の細かさはエピソード3以降も維持されており、ボスの存在感も増し増し。この辺りは大きくなったTV画面の大きさが少なからず影響していますが、向上したグラフィックとの相乗効果とも言えます。

苦戦しながらも、エピソード4に来るまでノーコンティニュー。全然誇れた話ではありませんが、10年以上ぶりのプレイだったので、「まだ忘れてないんだな」とちょっと嬉しくなります。

しかし! 程度の低い満足感も、残念ながらここまで。エピソードをクリアしても体力の回復は一定量のため、少しずつ削られてきた結果、道中で力尽きる形となりました。ここからは、貯め込んだクレジットが火を吹きます。クリアできればいいんです!

相変わらず道中に苦戦し、開閉する壁にもしっかりぶつかりますが、なんとかボスに到着・・・したものの、ここで何度も足止めを食らいます。初戦はどう戦っていいのかも分からず(すっかり忘却)、ホーミングレーザーがほとんど効果なく、全然ダメージが出せません。

2戦目くらいから、「通常ショットの方がいいのか?」「あの腕、壊れるんじゃ・・・」と、手探りで攻略の糸口を模索。
これは、攻略方法を見出しているのか、無意識に当時のプレイを思い出しているのか。自分でもまったく定かではありません。

その結果、ここで3度倒れましたが、4度目の挑戦で無事突破! レーザーを当ててちょっと硬直させた時に、ショットでダメージを与える。これですね!(ファンならほぼ全員知っている知識) 体験を通して記憶をたぐり寄せる感覚が味わえるのは、リメイク作ならではの楽しさかもしれません。

その勢いで、自然豊かな背景が麗しいエピソード5をクリア・・・と書くと腕前が上達したように見えますが、ボス戦の途中で体力はほぼ0。ヒヤヒヤしっぱなしの紙一重で乗り越えました。攻略さえ見つければ(思い出せれば)、手堅く倒せるボスが多いのも、『パンツァードラグーン』の特徴でしたね。ちょっとずつ思い出してきました。

疾走感がたまらないエピソード6。敵からの猛攻が激しく、楽しいけど厳しいステージです。エピソード5のツケで体力も少なく、ここで再び撃沈。4、5のクリアで微増したクレジット数が削られてしまいます。


悔しい思いをしましたが、鮮やかな街並みの描写も圧巻。腕前の上達を目指す気持ちだけでなく、この中を飛び回る心地よさにも惹かれ、もちろんコンティニュー。HP満タンからの再プレイで、ここもなんとか凌ぎました。

そして、待ち受けるラストエピソード。ネタバレのために紹介は伏せておきますが、戦いながら攻略を思い出せたおかげで無事クリアできました。

総合撃破率は、なんとか80%台。コンティニューしながらのカジュアルプレイですが、クレジットの範囲内でなんとかなりました。ここからノーコンティニューを目指すもよし、難易度を上げてチャレンジするもまたよしです。

◆『パンツァードラグーン:リメイク』も、きっといつか思い出になる! この出会いも楽しいひとときに

クリアまで通してプレイした実感としては、“思い出補正”に負けなかった・・・というよりは、強化されたグラフィックや演出の数々によって「美化された思い出を“実現”してくれた」という表現が近いかもしれません。

原作を踏襲しながらも忠実さだけにこだわるのではなく、思い出の中にあった『パンツァードラグーン』をゲーム化してくれた──本作からは、そんな印象を受けました。あくまで筆者個人の感想ですが、美化した思い出に近いグラフィックで、『パンツァードラグーン』がリメイクされたように感じています。

もちろん、思い出の形は人それぞれなので、全く違う捉え方をした人も多いでしょうし、その全てが正解だと思います。『パンツァードラグーン』について、思い出だけでなくしっかりと“記憶”しているファンにとっては、違和感を覚える部分もあることでしょう。

そのため賛否が分かれやすいかもしれませんが、『パンツァードラグーン:リメイク』のプレイは個人的に楽しいひとときでした。今後の展開への期待も含め、一ファンとして非常に嬉しい作品です。

ただし、ゲームとして遊ぶ上でいくつか気になる点も。まず、各ステージが始まる前のロード時間が結構長めで、中には30秒ほど待つケースもありました。STGとして気軽に遊びたい時、ここは少々引っかかる点です。

あと、こちらは体感での話になりますが、ロックオンが少々やりにくいように感じたのと、ドラゴンの挙動が上下に大きく揺れているため、敵の攻撃を避けづらい印象がありました。この辺りも、悪い意味での“思い出補正”かもしれませんが、SNSなどで同じような意見も見かけるので、原作との差異はともあれ、アップデートでもう少し調整してもらえると嬉しいところです。

その一方で、ゲームを楽しむ上で嬉しいポイントもいくつかありました。プレイ中にいつでも移行できる「写真モード」があり、ズームや画角の調整なども可能。お気に入りのスクリーンショットを撮れるのはもちろん、位置をうまく調整すれば敵の攻性生物をじっくり鑑賞することもできます。

また、従来の操作に近い「クラシック」に加え、移動と照準がそれぞれ独立した「モダン」が用意されています。Rレバーで照準を動かし、ショットとロックオンはZR。この操作で、新しい攻略の糸口が見つかるかもしれません。

オリジナル版のあるリメイク作品は、原作超えが求められ、美化された思い出との戦いも付きまとうもの。中には、ファンの希望とは異なる方向に舵を切る作品もあり、作り手にとっても受け手にとっても難しい一面があります。

この難しい状況にチャレンジした『パンツァードラグーン:リメイク』は、オリジナル版との違いもありますが、忠実な再現だけでなく、思い出の再現にも挑んでくれたようにも思え、個人的に満足した1本となりました。

いつか、この『パンツァードラグーン:リメイク』も、美化された思い出になっていくのかもしれません。その時には、また新しい『パンツァードラグーン』に出会えることを願うばかりです。

【関連記事】
・名作STG『パンツァードラグーン』シリーズの足跡を「ねらえ」! 現代に蘇った初代から最新作まで、更なる未来にも迫る【リメイク版配信記念】
編集部おすすめ