同社は、人型を模した機動兵器を駆る『アーマード・コア』シリーズからVR専用ADV『デラシネ』まで、多彩な作品を世に送り出しています。
特に『デモンズソウル』は、強敵との戦いによる“死亡”を通じて攻略の糸口を見つけていく「死にゲー」の新たな金字塔として当時讃えられ、その魅力を受け継いだ『ダークソウル』シリーズで人気と知名度を更に拡大。こうした作品の活躍ぶりから、「フロム・ソフトウェアといえば、高難易度アクション」といったイメージを持つ方も少なくありません。
後に登場した『Bloodborne』と『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』も、それぞれ独自のゲーム性や切り口を持ちますが、手に汗握る白熱した戦いとそれを支える絶妙なゲームバランスは両作品にも備わっています。こうした作品に惹かれ、そして堪能した方々は、より過酷で達成感のある戦いを欲し、「死にゲー」を求める声が更に高まっていきました。
そうしたユーザーの期待を受け、高難易度アクションの流れを汲む同社の最新作『エルデンリング』が、明日2月25日にいよいよ登場。この日を待ち望んだユーザーは、我先にと危険な魅力に溢れた世界へ飛び込むことでしょう。
一方で、本作はいわゆるオープンワールド制を採用するなど、過去作とは大きく異なる点も少なくありません。そういった要素が、これまで培われた高難易度アクションとどのように噛み合うのか。気になっている方も少なくないはず。
今回、発売に先駆けて『エルデンリング』を遊ぶ機会に恵まれたので、実際に味わったプレイ感や本作の特徴的な部分、手触りなどについて紹介するレポートをお届けします。この体験を参考に、購入判断の一助にしていただければ幸いです。
なお、今回プレイしたのはPS5版です。また、序盤のプレイを元にしたレポートとなりますので、その点ご了承ください。
■お馴染みの要素と高難易度アクションは健在!
『エルデンリング』のごく基本的なゲームシステム面は、前述した作品の要素を丁寧に受け継いでいました。死亡によるリソース(ルーン)の喪失と次プレイでの奪取、拠点(祝福)での休息と仕切直し、戦闘中における攻撃や回避、ガードといった各種行動で消費するスタミナの管理など、ファンお馴染みの要素はしっかりと盛り込まれており、緊張感のある戦いを今回も堪能できます。
戦闘面では、この他にも「魔術」や「祈祷」、「ガードカウンター」に「戦技」といった要素が用意されていますが、どれを使って戦うかはプレイヤーの自由。「パリィ」で敵の攻撃をはじき返して反撃するもよし、魔術や弓矢で距離を取って狙い撃つもまたよしです。
プレイヤーキャラの操作感も良く、動きにもたつきなどは感じません。描写のクオリティが一層上がっていますが、その上でなお快適な操作を実現している印象を受けます。また、パフォーマンス設定で「フレームレート優先」と「画質優先」を選べるので、重視する方は好みの設定に切り替えるのもお勧めです。
この辺りのシステム面は、本作で導入された新しい要素もありますが、これまで同社が積み重ねてきた高難易度アクションの経験と蓄積が遺憾なく発揮されており、歯ごたえある戦いを望んでいるユーザーに期待以上のひとときを提供してくれることでしょう。
ですが、ここまではあくまで、戦闘だけを切り取った狭い範囲の話。「死にゲー」とも称される高難易度アクションと、広大な世界を舞台とするオープンワールドが融合した時、どのような手応えが生まれたのか。
■オープンワールドと高難易度アクションの融合
最初に結論を述べると、オープンワールドと高難易度アクションの組み合わせは、新たな刺激とプレイ感を生み出すことに成功した、意欲的な試みだったと実感しました。
もちろん、ゲームの好みは人それぞれ。限られた空間による徹底したゲームデザインを至高とし、自由度の高さを“甘さ”や“ゆるみ”と感じる方からすれば、本作が提案するゲームスタイルは合わないかもしれません。
ですが、順当な進化のみに絞り込むのではなく、高難易度アクションに新たな可能性や魅力を見出した『エルデンリング』は、守りではなく攻めの姿勢を見せる意欲作として評価されるべき作品だと強く感じました。
高難易度アクションは、その手強さゆえに油断が出来ず、絶え間なく緊張感が襲ってきます。それが独特の魅力なのは間違いありませんが、緊張の持続に耐えきれず、クリアを断念した方もいます。ですが、本作はオープンワールドを取り入れたことで、緊張の連続ではなく、緊張と緩和の交差という体験を作り上げました。
序盤の範囲を体験した限りでは、『エルデンリング』のフィールドは比較的安全な場所が多く、継続する緊張を強いられることはほとんどありません。敵が草むらに潜んでいたり、明らかにヤバそうな相手が闊歩していますが、予測や対処は可能。また、気づかず遭遇しても、フィールド上なら一定以上逃げ切れば敵が諦めて戻ります。
しかも順当にゲームを進めれば、霊馬「トレント」を呼ぶ指笛を序盤に入手できます。
また、体力を示す「HP」や、魔術などの使用に必要な「FP」は、生存に関わる最重要のステータスと言ってもいいでしょう。そのため、回復手段のひとつ「聖杯瓶」は、プレイヤーキャラの命綱に他なりません。
この「聖杯瓶」が使える回数は上限が決まっており、「祝福」で休息することで最大値まで戻ります。ですが、休息したら倒した敵も復活するので、探索途中の休息は仕切り直しと同様。「聖杯瓶」の使用回数を戻したい、でも敵は復活させたくない……そんな時は、フィールドを徘徊する敵の集団を倒しましょう。
本作には、敵の集団を全て倒すことで、聖杯瓶の使用回数が増えるシステムがあります。回復する瓶の種類や数は敵集団によって異なり、また上限を超えることはできませんが、休息せずに使用回数を戻せるので、長期的な探索がやりやすくなります。敵集団を倒しきる寸前に聖杯瓶を使い、HPを満タンにしておく……といった立ち回りも有効です。
ちなみに本作では、プレイ開始直後から強敵とまみえることも可能。
「アギール」が非警戒状態なのを確認したら、霊馬に騎乗したまま近づき、一撃を与えたら一目散に離脱。攻撃を食らったら聖杯瓶でHPを回復し、足りなくなったら一度離れて敵集団を襲撃して聖杯瓶の使用回数を戻しつつ、再度「アギール」に立ち向かいます。
この戦い方としては、華麗とは真逆の泥くささ満点ですし、残念ながら一撃で死ぬこともありました。ですが、それでも懲りず諦めずの精神で続けたところ、数え切れない往復を繰り返した後に、序盤の段階でも「アギール」の撃破に成功。姑息な戦い方かつ効率は全く良くないので、決してお勧めはしませんが、それでも達成感は格別の味わいでした。
拠点に頼らない聖杯瓶の使用回数増加や、霊馬を活用した立ち回りといった本作ならではの要素が、この勝利に欠かせなかったのは紛れもない事実。強敵との戦いを通し、オープンワールドと高難易度アクションの融合がもたらす新たな刺激と可能性の広がりを、この時実感しました。
敵わないと思ったら“引き返す”という選択肢があり、長期的な戦いも可能な懐の深さも、この『エルデンリング』は併せ持ちます。聖杯瓶周りの仕様のおかげで、拠点に寄らず(=敵を復活させず)長期的な探索ができ、その恩恵で冒険の没入感も向上。しかも、緊張ばかりでなく緩和する時間もあるので、プレイにメリハリが生まれるのも嬉しいポイントです。
オープンワールドと高難易度アクションという“食べ合わせ”は、それぞれの持ち味を活かしたまま、その融和が多様なプレイスタイルを受け止める懐の深さに繋がった──『エルデンリング』のプレイを通じて、この点を最も強く感じました。もちろんそれは、大きな喜びや興奮と共に、です。
■「心が折られる死闘」と「辛くも勝利する快感」の二重奏が彩るボス戦
『エルデンリング』のフィールドワークは、危険ながらも心くすぐる探索があり、強敵への対処に新たな選択肢を加えました。そのため、これまでの「死にゲー」の緊張感に耐えきれなかった方々にとっても、プレイを一考する価値のある作品に仕上がっています。
では、従来の緊張感溢れるプレイを求める層にとって、この『エルデンリング』は物足りないのかと言えば、これもまた違います。本作の新要素によって、高難易度アクションの「緊張」に「緩和」が加わりましたが、強敵との戦いにつきまとう「絶望」と死線をくぐり抜けた後の「解放」も、心ゆくまで味わわせてくれます。
ダンジョン内で待ち受けるボスや進行上戦いを避けられない強敵との戦いは、区切られたフィールドが舞台となり、そこから逃げ出すことはできません。勝利するか、死亡して拠点などに戻るか。激戦を終わらせる結末は、そのどちらかのみです。
ボスクラスの強さはまちまちですが、まっすぐ目指せばプレイ開始から1時間も経たずに出会える「忌み鬼、マルギット」は、高難易度アクションを象徴する序盤の壁として立ちはだかることでしょう。
攻撃のモーションが大きいので見極めしやすく、しかし様々な連続攻撃を広範囲に繰り出してくるため、いつ避けるか、どのタイミングで踏み込めばいいか、試行錯誤を積み重ねさせてくれる強敵です。体力も多く、巨躯に似合わない俊敏性もあるため、ここで何度も死に戻る方が多いはず。
というのも、筆者も「マルギット」には辛酸を舐めさせられ、何度も生と死を繰り返しました。惜しいところまで追い込む時もあれば、敵のHPを半分も減らせなかったり、凡ミスであっさり負けたりと、ここだけで様々な死亡を体験。心が折れそうな感覚を、久しぶりに堪能しました。
ですが、決して壁が高いだけではなく、対抗する手段も用意されています。この「マルギット」も含め、ボス戦の前に「金の召喚サイン」が置かれている場合があり、これを通じて共に戦ってくれる「協力者」を呼ぶことができます。
オンラインを介して他のプレイヤーと一緒に戦うマルチプレイのようなものですが、この協力者はNPCなので、気軽に活用できるのが嬉しいところ。ボスが協力者を狙っているうちに攻撃や回復などを安全に行えるので、戦いやすさが格段に変わります。
協力者はHPが尽きたら死亡するため、呼べば安泰というほどではありませんが、一人で戦うよりグッと楽になるのは確か。また、ステータスに関わらず使える「遺灰」による召喚も、協力者に近い役割を果たしてくれるので、こちらもお勧めです。どうしても敵わなかったら、広大な世界の探索に戻り、装備を整えたり「聖杯瓶」をパワーアップさせた後に再戦するという選択もあります。
高難易度アクションがもたらす緊張感と、敗北した時の心が折られる敗北感、その末に勝利した達成感は、本作でも健在。より力強い進化を遂げながら、懐の深さを広げた──『エルデンリング』の戦いを要約すると、このような作品に仕上がっていると言えるでしょう。
■緻密かつセンス溢れるグラフィックと、没入感を促すBGMが、極上のひとときを提供
高難易度アクションとオープンワールドの融合がもたらす新たなプレイ体験と、それを幅広く許容する懐の深さが、今回最もお伝えしたかったポイントです。しかし、『エルデンリング』の魅力や特徴は、もちろんこれだけではありませんし、語り尽くせないほど豊富に詰め込まれています。
例えば、卓越したグラフィック表現は語るまでもないほどで、公開済みの映像などで既に伝わっています。単純な美しさに留まらず、独自性も高いデザインセンス。荒廃と不気味な静寂を放ちながら、どこか切なげで美しさも感じさせる世界。まるで神話や伝承のお伽噺を視覚化したかのような、その圧倒的なビジュアルに目を奪われるばかりです。
また、プレイする上で気になるロード時間も、全体的に良好です。PS5版の話になりますが、PS5のメニューから起動し、本作のタイトルが表示されるまでの時間は約14秒ほど。その後、ネットワーク状況などをチェックする時間を挟みますが、こちらは環境に左右される可能性があるので割愛。それが終わると、ロードやコンティニューなどを選択することができます。
このコンティニューから再開した場合のロード時間は、6~7秒程度。オープンワールドのゲームとしては、かなり短い部類に入ります。また、ダンジョン内や一部の状況を除き、いつでも「祝福」への移動が可能ですが、このファストトラベル的な移動におけるロード時間も、概ね6秒前後。プレイのテンポを大きく損なうものではありません。
こうした恩恵の数々は、PS5を含む十分な性能のハードだからこそ実感できる部分かもしれませんが、『エルデンリング』が丁寧に作られたことが窺えます。
場面を盛り上げるBGMも、荘厳で圧倒的。特に強敵との戦いでは、音楽の相乗効果で身がすくんだ体験を味わったこともあるほど。今回の『エルデンリング』のプレイは、視覚、聴覚、そしてテンポ感に至るまで、贅沢な環境に溺れる嬉しいひとときとなりました。
フロム・ソフトウェア史上最大級の規模となる『エルデンリング』。それだけに、本作の魅力を語り尽くすには、とても文字数が足りません。ですが、その特徴やもたらす新たな刺激について、体験を通した生の声をお届けできていたら幸いです。
常にまとわりつく死の気配に怯えながら、死を通して垣間見る光明にしがみつき、つかみ取った勝利に酔いしれる高難易度アクションの醍醐味。そこに、オープンワールドによる選択肢の広がりが加わったことで、かつてない作品に仕上がったと感じるのは、きっと著者だけではないはず。『エルデンリング』を手にした時、変わらぬ興奮と新たな刺激が約束されることでしょう。
最後になりますが、チュートリアルを兼ねた最初期のパートを終えると、念願のオープンワールドが幕を開けます。ですが、この時に確認出来るマップ画面は、あくまで一部分に過ぎません。
その時点では狭いように感じるかもしれませんが、まだ描かれていない範囲にも、様々な冒険と強敵があなたを待ち受けています。濃密で広大な冒険と死闘を、あなた好みの戦術と立ち回りで乗り越えましょう。
勝てない敵とぶつかっても、別の行き先はいくらでもあります。心が折れる前に、心の風向きを変えられるのが、『エルデンリング』の最も嬉しいポイントかもしれません。