11月11日に、ニンテンドースイッチ/PS5/PS4ソフト『タクティクスオウガ リボーン』が発売されました(Steam版は11月12日発売)。その名前からも分かる通り、本作は名作SRPG『タクティクスオウガ』に様々な新要素を加え、新たな装いで復活させた作品です。
本作のベースは、2010年に発売されたPSPソフト『タクティクスオウガ 運命の輪』になりますが、作品自体の原点は1995年発売のスーパーファミコン版『タクティクスオウガ』です。このSFC版『タクティクスオウガ』を皮切りに、初代PSやセガサターン、そしてPSPへリリースされ、この令和に見事な復活劇を果たしました。
SRPGは根強い人気を持つ一方で、カジュアルなユーザーには手を出しにくい面もあり、大きな注目を集める機会は少な目。特に、SFC版『タクティクスオウガ』が発売された頃は、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などの名シリーズが台頭し、ターン制RPGの黄金期と呼ばれた時代だったため、多くのゲームユーザーがRPGに熱中していました。
ですが、そこに現れた『タクティクスオウガ』はたちまちユーザーの心を掴み、ゲーム好きの間でたちまち話題になるほどの人気を獲得しました。初代PS版やセガサターン版が相次いで作られたのも、そうした活気を裏付ける証と言えるでしょう。
なぜ当時のユーザーは、この『タクティクスオウガ』に狂喜したのか。今回は、名作の原点が見せた魅力の数々を、現代のユーザーに向けて分かりやすくお届けします。なお、本記事に掲載されている『タクティクスオウガ』の画像は、全て『タクティクスオウガ リボーン』のものです。
■シリーズ作ながら、大胆な舵取りでファンを驚かせる
『タクティクスオウガ』自体はSFC版が原点ですが、同時に「オウガバトルサーガ」という物語の一部でもあります。この「オウガバトルサーガ」には、一足早くリリースされた『伝説のオウガバトル』があり、この前作に惚れたファンも『タクティクスオウガ』に注目しました。
しかし『タクティクスオウガ』は、『伝説のオウガバトル』の単純な続編ではありません。
対する『タクティクスオウガ』は、高低差のある立体的なフィールドをマス目で区切り、前作のようなリアルタイム制は採用していません。ハイファンタジーな世界観は同じくするものの、ゲーム体験としてはかなり異なる方向性に舵が切られたのです。
同じシリーズの作品がこれだけゲーム性を一変させるのは当時珍しく、この大きな変化は『伝説のオウガバトル』ファンを驚かせました。そのため、新たな展開に期待する声もあれば、不安視する人も皆無ではありません。
ですが、蓋を開けてみればゲーム面の完成度も非常に高く、シリーズファンのみならずSRPG好きも魅了。コア向けのジャンルながら、確かなヒットを放つ人気作になりました。
■一手の重みが増す戦略性の高さが、SRPG好きを虜とした
ゲーム面における『タクティクスオウガ』の魅力は、一般的なSRPGに近づけつつも、主流だったターン制を排するなど、優れたゲームシステムを用意した点にあります。
当時のSRPGは、味方全員の行動が終わったら敵のターンに移り、敵の行動が終了したらプレイヤーのターンに移る、というターン制がほとんどでした。プレイヤー側からすれば、馴染みがあるので遊びやすい反面、慣れている分だけ刺激は目減りします。しかし、『伝説のオウガバトル』のようなゲームシステムは、少なくとも当時の国内ではかなり珍しく、刺激的ながら間口が広いとは言えません。
そんな時代の中、『タクティクスオウガ』は陣営ごとのターン制ではなく、ユニット個人単位に分けたウェイト制のシステムを打ち出しました。
陣営ごとのターン制の場合、全兵力をまとめて動かすので一気に攻めやすく、先手が取れる状況だとかなり有利です。ですが『タクティクスオウガ』の場合は、順番がユニット単位なので、有利に運ぶには状況を少しずつ積み上げていくほかありません。
また陣営ごとのターン制なら、複数のユニットを同時に動かせるので、ミスをしても同ターン内にほかのユニットでフォローできます。しかし本作だと、順番が回ってこないとフォローできず、その間に敵のユニットに行動されたら一転してピンチに陥るケースも。例えて言うならば、将棋のような「一手の重み」が味わえるような戦略性に変化しました。
そこに、高低差や多彩なクラス、地形に天候といった様々な要素が盛り込まれ、『タクティクスオウガ』のバトルは、手応え満点のSRPGに仕上がったのです。
次ページ:単純な“善と悪”では割り切れない複雑な人間ドラマが描かれる、当時としては珍しい「民族紛争」を切り口とする
■重いテーマを濃密に描き、鋭い台詞回しでプレイヤーの心を撃ち抜く
『タクティクスオウガ』の特徴は、そうしたゲームシステムだけに限りません。ほかの作品と一線を画するような重厚な物語にも、ユーザーたちは衝撃を受けました。
RPG黄金期だった当時は、中世風ファンタジーを舞台とするものが多く、その大半は世界を滅ぼさんとする魔王や悪魔などを打倒する物語が目立っていました。『タクティクスオウガ』もファンタジー作品ですが、その切り口は大きく異なっており、こちらは「民族紛争」を題材とした物語を紡ぎます。
魔王や勇者といった世界観の作品が並ぶ中、生々しい重さを持つ「民族紛争」を切り口とした作品は、ゲーム慣れしたコアなユーザーにとっても刺激的でした。
さらに本作の物語は、プレイヤーの判断によって分岐し、この世界の歴史を変えるほどの影響を受けます。分岐はそれぞれ、ロウルート、ニュートラルルート、カオスルートと呼ばれますが、ロウ=正しいルートであったり、カオス=悪のルートというわけではありません。善と悪で割り切れない複雑な世界を、自分の判断で変貌させていく。選択肢ひとつにも重みがあり、その手応えが物語とプレイヤーの距離を大きく近づけます。
その意欲的な姿勢とテーマに負けない濃厚な描写が、手応え溢れるゲーム性と並び、『タクティクスオウガ』を成功に導いたもうひとつの柱になりました。
また、『タクティクスオウガ』が紡ぐ物語を一層魅力的に彩ってくれるのが、優れた言葉のチョイスです。本作の分岐はゲームの序盤から早くも訪れますが、それを示唆する章のタイトルが「僕にその手を汚せというのか」。過酷な選択を突きつけられる重さが、これ以上ないほど伝わってきます。
また、次の章でも物語は分岐し、第3章では前述の3ルートに分かれます。タイトルはそれぞれ、「欺き欺かれて」、「すくいきれないもの」、そして「駆り立てるのは野心と欲望、横たわるのは犬と豚」となります。いずれも各ルートを象徴する素晴らしいネーミングですが、特に3番目の「駆り立てるのは~」は、この一文だけ切り取っても非常にパワフルで、記憶に残るほどのインパクトです。
こうした優れたセンスは、もちろん台詞にも表れています。本作は名セリフの宝庫で、様々なシーンでプレイヤーの胸を射抜きます。例えば、2人の騎士が言い争う場面では、ひとりは騎士然とした姿勢を貫き、もうひとりの騎士は「民」の弱さを指摘し、不満をこぼせる被害者の立場に望んで身を置いていると言及しました。
その時に飛び出した台詞が、「民に自分の夢を求めてはならない。支配者は与えるだけでよい。支配されるという特権をだっ!」と言い放ちます。
これまでのRPGなどでは、支配は「悪」として扱われることがほとんどで、被支配側は弱者という扱いでした。その支配を断ち切るのが、主人公であるプレイヤーの役目です。しかしこの騎士は、被支配側を「特権」と表現し、新たな視点と発想をプレイヤーにぶつけて驚かせました。
もちろんこの騎士の発言も、数多ある考え方のひとつにすぎず、本作が「正解」として提示したものではありません。こうした様々な視点や考え方が交錯し、ぶつかり合いながらも絶対の正解はないまま、それでも世界と物語が結末を迎えていく無常さが、プレイヤーの心に響きます。
正解のない物語だからこそ、プレイヤーは自分だけの正解を心の内から探し出し、それを拠り所に過酷な世界を戦い続けたのです。
刺激的なゲーム性と重厚な物語が衝撃的だった『タクティクスオウガ』。このほかにも、耳に残る素晴らしいサウンドや、一目ぼれする人も多かった繊細で美しいグラフィック、バトルに華を添えたキャラクターのモーションなど、特徴を挙げていけばキリがないほどです。
そんな名作SLGを令和に蘇らせた『タクティクスオウガ リボーン』は、普遍的なテーマと現代に合わせたパワーアップにより、今も色褪せることのない魅力を放っています。ファンはもちろん、未体験の新規ユーザーにとっても、刺激に溢れるプレイ体験を味わわせてくれる1作となることでしょう。
そして願わくば、この『タクティクスオウガ リボーン』がヒットし、「オウガバトルサーガ」の新たな章を描く新作に繋がることを、ひとりのファンとして願ってやみません。
(C)1995, 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
本作のベースは、2010年に発売されたPSPソフト『タクティクスオウガ 運命の輪』になりますが、作品自体の原点は1995年発売のスーパーファミコン版『タクティクスオウガ』です。このSFC版『タクティクスオウガ』を皮切りに、初代PSやセガサターン、そしてPSPへリリースされ、この令和に見事な復活劇を果たしました。
SRPGは根強い人気を持つ一方で、カジュアルなユーザーには手を出しにくい面もあり、大きな注目を集める機会は少な目。特に、SFC版『タクティクスオウガ』が発売された頃は、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などの名シリーズが台頭し、ターン制RPGの黄金期と呼ばれた時代だったため、多くのゲームユーザーがRPGに熱中していました。
ですが、そこに現れた『タクティクスオウガ』はたちまちユーザーの心を掴み、ゲーム好きの間でたちまち話題になるほどの人気を獲得しました。初代PS版やセガサターン版が相次いで作られたのも、そうした活気を裏付ける証と言えるでしょう。
なぜ当時のユーザーは、この『タクティクスオウガ』に狂喜したのか。今回は、名作の原点が見せた魅力の数々を、現代のユーザーに向けて分かりやすくお届けします。なお、本記事に掲載されている『タクティクスオウガ』の画像は、全て『タクティクスオウガ リボーン』のものです。
■シリーズ作ながら、大胆な舵取りでファンを驚かせる
『タクティクスオウガ』自体はSFC版が原点ですが、同時に「オウガバトルサーガ」という物語の一部でもあります。この「オウガバトルサーガ」には、一足早くリリースされた『伝説のオウガバトル』があり、この前作に惚れたファンも『タクティクスオウガ』に注目しました。
しかし『タクティクスオウガ』は、『伝説のオウガバトル』の単純な続編ではありません。
どちらもSRPGですが、『伝説のオウガバトル』はリアルタイムストラテジー性が強く、刻一刻と変化する戦場の流れを見極めて立ち回る戦略性が刺激的な作品でした。
対する『タクティクスオウガ』は、高低差のある立体的なフィールドをマス目で区切り、前作のようなリアルタイム制は採用していません。ハイファンタジーな世界観は同じくするものの、ゲーム体験としてはかなり異なる方向性に舵が切られたのです。
同じシリーズの作品がこれだけゲーム性を一変させるのは当時珍しく、この大きな変化は『伝説のオウガバトル』ファンを驚かせました。そのため、新たな展開に期待する声もあれば、不安視する人も皆無ではありません。
ですが、蓋を開けてみればゲーム面の完成度も非常に高く、シリーズファンのみならずSRPG好きも魅了。コア向けのジャンルながら、確かなヒットを放つ人気作になりました。
■一手の重みが増す戦略性の高さが、SRPG好きを虜とした
ゲーム面における『タクティクスオウガ』の魅力は、一般的なSRPGに近づけつつも、主流だったターン制を排するなど、優れたゲームシステムを用意した点にあります。
当時のSRPGは、味方全員の行動が終わったら敵のターンに移り、敵の行動が終了したらプレイヤーのターンに移る、というターン制がほとんどでした。プレイヤー側からすれば、馴染みがあるので遊びやすい反面、慣れている分だけ刺激は目減りします。しかし、『伝説のオウガバトル』のようなゲームシステムは、少なくとも当時の国内ではかなり珍しく、刺激的ながら間口が広いとは言えません。
そんな時代の中、『タクティクスオウガ』は陣営ごとのターン制ではなく、ユニット個人単位に分けたウェイト制のシステムを打ち出しました。
ステータスや装備の状況によって変動する速度を各ユニットが持ち、速度差で個々人ごとに行動順が回ってくるこのシステムは、SRPGの戦略性を大きく高めます。
陣営ごとのターン制の場合、全兵力をまとめて動かすので一気に攻めやすく、先手が取れる状況だとかなり有利です。ですが『タクティクスオウガ』の場合は、順番がユニット単位なので、有利に運ぶには状況を少しずつ積み上げていくほかありません。
また陣営ごとのターン制なら、複数のユニットを同時に動かせるので、ミスをしても同ターン内にほかのユニットでフォローできます。しかし本作だと、順番が回ってこないとフォローできず、その間に敵のユニットに行動されたら一転してピンチに陥るケースも。例えて言うならば、将棋のような「一手の重み」が味わえるような戦略性に変化しました。
そこに、高低差や多彩なクラス、地形に天候といった様々な要素が盛り込まれ、『タクティクスオウガ』のバトルは、手応え満点のSRPGに仕上がったのです。
次ページ:単純な“善と悪”では割り切れない複雑な人間ドラマが描かれる、当時としては珍しい「民族紛争」を切り口とする
■重いテーマを濃密に描き、鋭い台詞回しでプレイヤーの心を撃ち抜く
『タクティクスオウガ』の特徴は、そうしたゲームシステムだけに限りません。ほかの作品と一線を画するような重厚な物語にも、ユーザーたちは衝撃を受けました。
RPG黄金期だった当時は、中世風ファンタジーを舞台とするものが多く、その大半は世界を滅ぼさんとする魔王や悪魔などを打倒する物語が目立っていました。『タクティクスオウガ』もファンタジー作品ですが、その切り口は大きく異なっており、こちらは「民族紛争」を題材とした物語を紡ぎます。
魔王や勇者といった世界観の作品が並ぶ中、生々しい重さを持つ「民族紛争」を切り口とした作品は、ゲーム慣れしたコアなユーザーにとっても刺激的でした。
しかも、ただ目新しいだけでなく、単純な“善と悪”では割り切れない複雑な人間ドラマや、民族浄化といった苦々しい題材も取り上げるなど、重みのあるテーマを誤魔化すことなく正面から堂々と描き切ったのです。
さらに本作の物語は、プレイヤーの判断によって分岐し、この世界の歴史を変えるほどの影響を受けます。分岐はそれぞれ、ロウルート、ニュートラルルート、カオスルートと呼ばれますが、ロウ=正しいルートであったり、カオス=悪のルートというわけではありません。善と悪で割り切れない複雑な世界を、自分の判断で変貌させていく。選択肢ひとつにも重みがあり、その手応えが物語とプレイヤーの距離を大きく近づけます。
その意欲的な姿勢とテーマに負けない濃厚な描写が、手応え溢れるゲーム性と並び、『タクティクスオウガ』を成功に導いたもうひとつの柱になりました。
また、『タクティクスオウガ』が紡ぐ物語を一層魅力的に彩ってくれるのが、優れた言葉のチョイスです。本作の分岐はゲームの序盤から早くも訪れますが、それを示唆する章のタイトルが「僕にその手を汚せというのか」。過酷な選択を突きつけられる重さが、これ以上ないほど伝わってきます。
また、次の章でも物語は分岐し、第3章では前述の3ルートに分かれます。タイトルはそれぞれ、「欺き欺かれて」、「すくいきれないもの」、そして「駆り立てるのは野心と欲望、横たわるのは犬と豚」となります。いずれも各ルートを象徴する素晴らしいネーミングですが、特に3番目の「駆り立てるのは~」は、この一文だけ切り取っても非常にパワフルで、記憶に残るほどのインパクトです。
そのため、本作の代名詞になるほどファンの間で語り継がれています。
こうした優れたセンスは、もちろん台詞にも表れています。本作は名セリフの宝庫で、様々なシーンでプレイヤーの胸を射抜きます。例えば、2人の騎士が言い争う場面では、ひとりは騎士然とした姿勢を貫き、もうひとりの騎士は「民」の弱さを指摘し、不満をこぼせる被害者の立場に望んで身を置いていると言及しました。
その時に飛び出した台詞が、「民に自分の夢を求めてはならない。支配者は与えるだけでよい。支配されるという特権をだっ!」と言い放ちます。
これまでのRPGなどでは、支配は「悪」として扱われることがほとんどで、被支配側は弱者という扱いでした。その支配を断ち切るのが、主人公であるプレイヤーの役目です。しかしこの騎士は、被支配側を「特権」と表現し、新たな視点と発想をプレイヤーにぶつけて驚かせました。
もちろんこの騎士の発言も、数多ある考え方のひとつにすぎず、本作が「正解」として提示したものではありません。こうした様々な視点や考え方が交錯し、ぶつかり合いながらも絶対の正解はないまま、それでも世界と物語が結末を迎えていく無常さが、プレイヤーの心に響きます。
正解のない物語だからこそ、プレイヤーは自分だけの正解を心の内から探し出し、それを拠り所に過酷な世界を戦い続けたのです。
刺激的なゲーム性と重厚な物語が衝撃的だった『タクティクスオウガ』。このほかにも、耳に残る素晴らしいサウンドや、一目ぼれする人も多かった繊細で美しいグラフィック、バトルに華を添えたキャラクターのモーションなど、特徴を挙げていけばキリがないほどです。
そんな名作SLGを令和に蘇らせた『タクティクスオウガ リボーン』は、普遍的なテーマと現代に合わせたパワーアップにより、今も色褪せることのない魅力を放っています。ファンはもちろん、未体験の新規ユーザーにとっても、刺激に溢れるプレイ体験を味わわせてくれる1作となることでしょう。
そして願わくば、この『タクティクスオウガ リボーン』がヒットし、「オウガバトルサーガ」の新たな章を描く新作に繋がることを、ひとりのファンとして願ってやみません。
(C)1995, 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
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