国民的な人気を誇り、ゲームを遊ばない層にすらその名が届いている『ドラゴンクエスト』シリーズ。その原点にして、シリーズ名にもなった1作目のファミコンソフトが、1986年5月27日に発売されました。


プラットフォームのファミコンが発売されたのが、1983年7月。まだ3年も経っておらず、コンピュータゲーム自体がまだこれから浸透するといった時代でした。RPGというジャンル自体も、『ウルティマ』や『ウィザードィ』などの活躍があったものの、いずれもまだパソコン向けの展開だったため、国内で広く知られるのはもう少し先の話になります。

RPGがまだ、ごく一部のゲームファンにしか知られていなかった時代に、初代『ドラゴンクエスト』(以下、ドラクエ)が登場。まっさらな知名度の中、非常に先進的な作りで、RPGを知らなかった少年少女に大きな衝撃を与えました。

果たして当時の『ドラクエ』は、どんな革新的な要素を備えていたのか。37周年を迎えたこの記念日に、その名作ぶりを振り返ってみましょう。

■『ドラクエ』が切り開いた、“ファミコン初のコマンドRPG”
厳密にいえば、『ドラクエ』はファミコン初のRPGではありません。例えば、『ドラクエ』よりもわずかに早い1986年3月に、『ハイドライド・スペシャル』がファミコン向けに発売されています。さらに遡ると、1985年8月にはファミコン版『ドルアーガの塔』も登場しており、要素としてのRPGは徐々に出始めていました。

ですが、『ハイドライド・スペシャル』や『ドルアーガの塔』はアクション要素も大きく、今で言うところの“アクションRPG”の先駆者的な作品。リアルタイムに動く敵と対峙し、タイミングを合わせた立ち振る舞いが重要でした。


一方で『ドラクエ』は、世界を表現したフィールドがあり、ランダムエンカウントで敵と遭遇。バトルはコマンドを入力して行い、互いに行動すると相手に順番が回るターン制を採用した作品です。コマンドバトルによるRPGという意味では、この『ドラクエ』が初のファミコンソフトと言えます。

ファミコンにおいて未開のジャンルだった、「RPG」に正面から切り込んだ『ドラクエ』。この点だけでも十分革新的ですが、国民的RPGの原点が築いた礎は、もちろんこれだけではありません。

■説明書を読まなくても操作が身につく! 今現在の“当たり前”を37年前に取り入れた『ドラクエ』
『ドラクエ』を振り返ると、まず冒頭の構成に驚かされます。王様がいる玉座の間に閉じ込められた状態でゲームがスタートし、この状態から抜け出すには、「はなす」で情報を集めた後、「とる」で宝箱からアイテムを入手。そこで手に入る「かぎ」で「とびら」を開ければ、玉座の間から抜け出せます。

そして右下にある階段まで進み、「かいだん」を実行すれば、広大な世界への冒険が始まります。こうした手順は、『ドラクエ』をプレイする際に必要不可欠な操作ばかり。情報収集のやり方、鍵のかかった扉や階段の移動方法、コマンドの入力などを、ゲーム開始直後に学ばせてくれました。

これは、現在のゲームにおける「チュートリアル」と言えるでしょう。
当時のゲームは、昨今のような親切な導入はなく、操作方法は付属の説明書で学ぶことがほとんど。そんな時代において「チュートリアル」をいち早く取り入れた『ドラクエ』は、先見性にも優れた作品でした。

こうした構成は、「RPGを知らないユーザーが遊ぶ」という点を考慮し、誰でも遊べるように取り入れられたと言われています。RPG初心者どころか初体験の人が多く、この導入で知らず知らずのうちに操作を覚えることができました。

戦闘の全てが1対1だったり、武具を買うと自動的に新しいモノを装備するといったシステムも、RPGに不慣れなユーザーの手間を省き、分かりやすくしたもの。いくら80年代とはいえ、複数人のパーティ編成や、武具の装備・着脱を採用したRPGは多数ありました。しかし、RPG初体験の方に照準を合わせ、敢えて要素を削ってシンプルにまとめた点も素晴らしい英断です。

■「マルチウィンドウ」が、プレイ意欲の維持と情報量のコントロールに貢献
『ドラクエ』が採用した「マルチウィンドウ」も、見逃せない重要なポイントです。メニュー内のコマンドを実行すると、そのコマンドにまつわるウィンドウが前面に表示され、複数のウィンドウで様々な情報を提供してくれるシステムです。

当時、パソコン向けにリリースされていたRPGの多くは、フィールドやダンジョンの画面と共に、別枠でキャラクターのステータスやメッセージ画面を同時に表示していました。このスタイルは、多くの情報を随時確認できる利便性を持ちますが、その分煩雑になりやすく、またフィールドの画面が必然的に小さくなり、没入感を阻害するデメリットもあります。

『ドラクエ』の「マルチウィンドウ」は、確認した時はウィンドウからコマンドを入力しなければなりません。
一手間かかるのは事実ですが、フィールド画面などが表示されたままなので、持ち物の確認をしている間も冒険が中断している感じはなく、常に「勇者」な自分でいられます。

また、情報は多ければいいとも限りません。ゲームに慣れていないと、目にする情報が多すぎると消化しきれず、プレイの心地よさを阻害する要因になります。RPG初体験のユーザーが多いとくれば、情報量のコントロールは重要事項のひとつ。出し過ぎないようにセーブできる「マルチウィンドウ」は、その意味でも優れたシステムでした。

「マルチウィンドウ」自体は『ドラクエ』以前から存在していますが、作品の立ち位置やユーザーのRPGに対する理解度を踏まえ、的確なシステムを採用したそのセンスに脱帽です。

■自らの意志で成長させ、結末すらも変えられる“ゲームならではの体験”の提供
ファミコン初のコマンドRPGとして、新たな道を切り開いた『ドラクエ』。慣れないユーザーに向けたチュートリアルの導入や一部システムの簡略化、出し過ぎない情報量のコントロールなど、隅々まで配慮が感じられる先進的な作品でした。

しかし、そうした配慮だけが『ドラクエ』の魅力ではありません。漫画や小説では味わえない、ゲームだからこそのプレイ体験も、ユーザーを大いに魅了しました。戦いを通じて主人公のレベルを上げ、強力な武具で強くなる実感。努力を重ね、手ごわい敵を撃破する爽快感。
努力と結果を結びつける絶妙なゲームバランスが、「勇者の冒険」をユーザー自身の喜びとシンクロさせたのです。

雑魚相手に苦労していた勇者が、気が付けばドラゴンをも打ち負かすほどの存在に成長していく。漫画ではよくある展開ですが、その過程に直接関わる体験は新鮮で、ゲームならではの楽しさがそこにありました。

しかも、ユーザーが干渉できるのは、成長過程だけに限りません。ラスボスである竜王の提案に従うか否か。また、竜王を倒すまでにローラ姫を救ったかどうか。プレイヤー自身の行動が、物語の結末すら変化させました。

それは、ゲーム的な表現に置き換えると、「マルチエンディング」の実装です。竜王の提案に乗れば、いわゆるバッドエンディングを迎えます。また、ローラ姫の救出は必須ではないため、彼女がいるかどうかで竜王討伐後のエンディングが変化します。

キャラクターを育て、結末をも変えられる。漫画や小説では味わえない体験を、『ドラクエ』が与えてくれたのです。
そうした革新性を正確に理解したユーザーは、当時はまだ少なかったことでしょう。しかし、肌で、そして本能で実感した人々の多くが、RPGの虜となりました。その道を切り開いた先達こそが、他ならぬ『ドラクエ』でした。

37年前の最先端は、今から見れば37年前のゲームに過ぎないかもしれません。ですが、初代『ドラゴンクエスト』が踏み出した道に、多くの名作たちが続いた結果、37年経った今も「RPG」というジャンルは輝き続けています。

『ドラクエ』で初めて触れた体験は、これからも刺激的な景色を見せてくれることでしょう。そして、シリーズ最新作『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』への期待が、改めて募るばかり。40年近い時が流れてもなお、『ドラクエ』はユーザーをワクワクさせてくれる存在です。
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