対戦格闘ブームに火をつけ、今も高い人気を集めている「ストリートファイター」シリーズ。その最新作となる『ストリートファイター6』(以下、スト6)が、先日待望の発売日を迎えました。


本作には、シングルプレイモードの「ワールドツアー」をはじめ、様々なモードが搭載されていますが、その中でも特にユニークなのがオンラインモードの「バトルハブ」。これは、仮想空間上に作られたエリアを舞台に、それぞれのプレイヤーが自作したアバターで集うモードです。

もちろん、ただ集まるだけではありません。そこには多数の筐体が置かれており、『スト6』のプレイが可能。『スト6』のゲーム内で『スト6』を遊ぶというのはちょっと不思議な感覚ですが、このモードの要点は対戦プレイができること。誰かのプレイに乱入したり、トレーニングしつつ対戦待ちをする、といった遊び方ができます。

多数の筐体が並ぶ中、多くのプレイヤーが『スト6』を遊び、また対戦を行う。そこはある意味、“バーチャルなゲームセンター”とも言えるでしょう。インターネット回線の普及でオンライン対戦が一般的になりましたが、今や“ゲームセンターに集う体験”すらオンラインで味わえるのです。

この「バトルハブ」が最新の対戦環境とするならば、かつての環境は一体どんなものだったのか。対戦格闘ゲームの一大ブームを最初に巻き起こした『ストリートファイターII』(以下、ストII)が盛り上がっていた当時を振り返り、現代とは全く違っている部分をピックアップしてお届けします。

■見知らぬ者同士が筐体に置く、無数の硬貨
現在の対戦格闘ゲームにおける環境は、これまでの歩みを踏まえた上で様々なマナーが定着しました。
マナー違反を侵すプレイヤーもごく一部にいるものの、eスポーツ化も進んでおり、一定のルールや規則が浸透しています。

しかし対戦格闘ゲームが広く認知されて人気を得たのは、『ストII』の大ヒットがきっかけ。当然ながら『ストII』現役時、特に黎明期は対戦格闘ゲームのマナーやルールなどが整っておらず、全体的な規範はなく、店舗によって対応が違うなどのバラつきがありました。

当時ならでは特異なルールとして真っ先に思い出すのは、プレイ中の筐体に硬貨を置く行為でしょう。『ストII』は大変人気があり、常に誰かが遊んでいる状態でした。対戦可能な台はもちろん、1人プレイ用の台も埋まるほどの盛況ぶりです。

そのため、プレイ待ちの順番が自然と生まれますが、当時は店側が管理しないケースが多く、プレイヤー同士が暗黙の了解で行列を作ったり、先に待っている人を覚え、自分の順番をそこに加えて待つといった曖昧なやり方が行われていました。

前述した「硬貨を置く」という行動も、順番待ちを表明する手段のひとつ。これは、“自分がプレイ待ちをしています”と、硬貨を置くことで公に向けてアピールする行為でした。

硬貨を置くことで、順番待ちに加わる。置かれた枚数で、プレイ待ちの人数も一目瞭然。一見すると分かりやすい行為ですが、置かれる硬貨は1プレイの料金……つまり、日本円の硬貨です。
製造年こそ違いますがデザインは全て一緒なので、「誰がいつ、どの硬貨を置いたのか」を客観的に証明する手段はなく、結局は硬貨を置いた相手を覚え、自分の順番に見当をつけて待つほかありません。

かなりアバウトな手法なので、一定の効果がありつつも、「俺が先だろ」「いや、先に置いたのはこっちだ」と揉めたケースも少なくありません。それでも、このルールを知る者は多く、それなりに広まっていた模様です。

■負けの悔しさが、灰皿にぶつけられていたあの頃
1人プレイを繰り返して技が出せるようになると、次第に相手を求めて対戦台に挑むようになります。そして対戦が始まれば、必ず勝者と敗者に分かれるのが現実です。勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。その気持ちは、今も昔も変わりません。

ですが、負けた悔しさを消化できず、怒りに転じて表に出す人もいました。もちろんこれは当時でもマナー違反ですが、対戦格闘ゲーム自体がまだ新しかったので、そこで味わう悔しさに耐性がなかったのでしょう。

その怒りが向かう矛先として象徴的だったのが、「灰皿」です。今では、部分的もしくは全面的に禁煙のゲームセンターが多いものの、当時は喫煙が当たり前。そのため、ほとんどのゲームセンターに灰皿が常備されており、筐体のあちこちに銀色の受け皿が置かれていました。


これもマナー違反ですが、負けた怒りに思わず筐体を殴りつけ、その反動で灰皿が浮かび、床に転がるといった景色を何度か目にしました。中には、灰皿を直接持ち、力任せに壁や床に投げた人もいた模様です。

そこまで激しい行為はかなり稀ですが、灰皿がごく当たり前に存在し、怒りの矛先にされていたというのは、時代を感じさせる出来事のひとつ。とはいえ、問題行動なのは確かなので、今では見かけなくなって安堵するばかりです。

■見知らぬ他人が真横にいる、緊張感たっぷりの対戦環境
当時の対戦環境として忘れられないのが、筐体の事情です。今ではオンライン対戦が普及していますし、オフラインでも2台もしくは複数の対面筐体による対戦が基本です。

しかし当時は、『ストII』のブレイクを受けて対面型の筐体が普及し始めたため、店によって対面型の導入はまちまち。そのため今ではほとんど見られない、「横並びの対戦」も日常的にありました。

例えばSTGやACTなど、2人が協力して遊ぶ同時プレイ型のゲームは今も昔もありました。ひとつの筐体に操作レバーと各種ボタンが2組分あり、左右に座って友達同士でプレイするタイプです。

この、2人同時プレイ型の筐体で『ストII』を提供している店もあり、そこで行う対戦は必然的に“横並び状態”となります。肘と肘がぶつかりそうな至近距離に、身も知らぬ他人が座るプレッシャー。
その緊張感は相手も同様で、お互いに勝負とは別の部分で気を張りつつ、間近の真剣勝負に挑むこともありました。

友達同士ならOKなパーソナルスペースに、まったくの他人も入ってきた時代。大胆でもあり、互いにビクビクもした対戦環境でした。

■家で『ストII』が遊び放題! そして試される、友人との対戦プレイ
『ストII』の対戦は、後に家庭用へと広がります。その先陣を切ったのが、スーパーファミコンソフト『ストリートファイターII』です。一部異なる部分もあるものの、かなりレベルの高い移植が行われ、友達同士が家に集まり対戦する日々が始まりました。

スーパーファミコンソフトは価格帯が上がる傾向にあり、本作のスーファミ版も定価が1万円近く、決して安くはありません。ですが、ゲームセンターだと1プレイ100円、安くとも50円かかります。そして対戦だと1プレイが数分で終わり、負ければそれまで。ハイペースで硬貨が消えたものです。

しかしスーファミ版を買えば、後はお金がかからず遊び放題。また、家で腕を磨いてからゲームセンターで対戦する、というスタイルもコスパに優れていたため、多くのプレイヤーがスーファミ版を購入しました。


まだインターネットが普及する前なので、家で行う対戦は友達や兄弟相手が基本。また、コントローラで操作するので、「昇竜拳が出ない!」と苦しんだ人もいましたが、対戦の楽しさはゲームセンターでの体験とほぼ同じ。それがお金をかけずに楽しめるとなれば、盛り上がるのも当然です。

ですが友達の中には、負けるのを非常に嫌がる人もいました。嫌がったところで勝ち負けがひっくり返るわけもなく、あと少しで決着……の寸前で、なぜかタイトル画面に切り替わり。驚いて友達を振り返ると、その手がリセットボタンを押しています。

「ごめん、手をついたら押しちゃった」と弁明するものの、対戦中に身体がなぜよろけるのか、疑問は尽きません。しかし追及もままならぬまま、友達が操作を進めて次の勝負がスタートし、もやもやを抱えたまま対戦が続きます。

ここまで強引にリセットする友達は稀ですが、皆無ではなかったのも事実。また、家という環境から、遊んでばかりいる子供への罰としてリセットを押したり、掃除機がゲーム機に当たってエラーになったりと、不幸な事故(?)が起きたことも。こうした出来事は、ゲームセンターでは味わえない貴重な体験でした。味わいたいかどうかは別としても。


『ストII』当時の対戦環境は、今と比べるとかなり毛色が違うことでしょう。ですが、リセットする友達は、今だと故意に回線を切る行為に通じるものがあります。行為の形は違っていても、プレイする側の心境はいつの世も変わらないのかもしれません。

ともあれ、迷惑行為や問題行動は明らかなマナー違反。勝つにせよ負けるにせよ、お互いに気持ちよく楽しみ、相手に敬意を払ってプレイしたいものです。

※『ストリートファイターII』の画像はニンテンドースイッチ版『Capcom Arcade Stadium』のものです。
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