本稿では、ゲームの第2章までをプレイできる体験版のプレイレポートと、開発陣と巧氏へのメールインタビューをお届けします。なお、記事中のスクリーンショットはPS4版となります。
◆とある幽霊が挑む一夜かぎりの追跡劇
物語は主人公のシセルが何らかの要因で命を落としてしまい、実体のないタマシイとなって目覚める衝撃のシーンからスタート。
なぜ死ななければならなかったのか。自分の命を奪ったのは誰なのか…そうしたことを気にするより早く彼の目に飛び込んできたのは、冷たい体となった自分を発見した女性が殺し屋によって命を奪われるという、さらなる衝撃シーンでした。
しかし幽霊となったシセルは特殊な死者のチカラを身につけており、彼は謎の声に導かれるまま、そのチカラで彼女の救出を決意します。助ける理由は、「(自分に助ける力があるのに)レディを見捨てるのは主義に反する」から。
一見するとキザですが、シセルはそれをあまり感じさせないハードボイルドなたたずまいを持つ人物です。幽霊ですが。
シセルが持つ死者のチカラは、任意の対象に憑依する「トリツク」と、憑依した対象を思うままに動かす「アヤツル」のふたつ。さらに幽霊は生者の理屈では動かないということか、死んだばかりの人物の4分前に戻る力を持っています。
しかしいいことばかりではなく、これらのチカラは自分自身には使えないほか、彼の魂は翌朝をむかえると同時に消滅することが分かりました。
◆壮大な“ピタゴラ装置”を作り上げる達成感がクセになる
死者のチカラにはまだ制限があり、「トリツク」ことができるのは無機物のみ、そして「アヤツル」も自在に動かせるとまではいかず、対象を多少動かしたり回転させたりできる程度です。
シセルの死の現場に居合わせた女性・リンネを待つ死の運命を変えるには、「トリツク」と「アヤツル」を駆使していくつもの無機物を経由し、まず彼女に近づかなければなりません。この「運命を更新するための試行錯誤」が本作における謎解きのキモとなります。
冷蔵庫のドアを開いて次の無機物までの距離を縮め、自転車のタイヤを静かに転がさせて移動し……試行錯誤の果てに見えてくる「正解」の絵面はちょっぴり奇妙なルーブ・ゴールドバーグ・マシン(いわゆる「ピタゴラ装置」)とでもいうべき様相で、「自分という魂を運搬する壮大なからくり装置を作り出す(=そうすることで物語を紡いでいく)」のが本作独特の楽しさ、爽快感の源となっています。
謎解きの難度はそこそこ高めで、命の危機にある人たちの運命をうまく更新できず、やり直すことになる場面もあるでしょう。しかし、そんな時は「試行錯誤するシセルのモノローグ」という形でヒントが出されるので、理不尽な難しさというわけではありません。
繰り返し挑戦するうちに手順はより一層洗練され、前述したような「ピタゴラ装置的爽快感」はむしろ増すというものです。
◆「逆転」シリーズと異なる独自のプレイフィール
巧氏の代表作である「逆転」シリーズは、基本的に1話でひとつの事件の顛末(裁判の判決)までを描くストーリー構成で、謎解きのキモは証人に証拠品を突き付けて証言のムジュンを追求するというものでした。つまり、謎解き(推理)と物語が直結していたといえます。
それに対し本作は、謎解きそのものは物語と直結していません。しかし、謎を解くことで死んでしまうはずだった人たちが生き延び、その思惑や行動が交錯する群像劇が展開していきます。
「逆転」シリーズとは謎解きやストーリーの見せ方が大きく異なるので、本作は巧氏ならではの軽快なテキストはそのままに、まったく異なるプレイフィールを味わえます。
また、序盤の何気ない発言が後の伏線になっていたりもするので、既存プラットフォームでプレイ済みの人もそうした描写をチェックしながら遊ぶのも楽しそうです。
◆『ゴーストトリック』開発者インタビュー
体験版プレイ後、開発スタッフへのメールインタビューを実施しました。『ゴースト トリック』オリジナル版のディレクター・巧 舟氏と、HDリマスター版でアレンジBGMを担当した北川保昌氏からのコメントをお届けします。
――『ゴースト トリック』は『逆転裁判』と趣が異なり、多くの人物の行動や思惑が錯綜する長編ストーリーとなっています。そうしたシナリオを描くうえでの苦労や楽しさ、魅力などをお聞かせください。
巧「最初は無関係に見えた登場人物には全員、それぞれ事情があって、それは少しずつ主人公につながっていって、最後に真実を明かす手がかりになる」…これが、『ゴーストトリック』の物語のコンセプトでしたが、実際にそれを実現するのは難しかったです。
完成版をプレイすると、一見シンプルに進行しているように見えるかもしれませんが、実は提示するべき情報は膨大で、それをどの順番で、どの場面でプレイヤーに与えるか…とにかく、情報の配置に頭と気をつかいました。
各キャラクターの事情や、そのつながりを考えている時は楽しいのですが、それを実際に整理して書くのは大変という…どんなシナリオもそうかもしれませんけど。
――リマスター版はBGMが全曲アレンジされています。アレンジの方向性やコンセプト、編曲する際のコンポーザーとのやり取りなどで印象に残っていることがあればお聞かせください。
北川『ゴーストトリック』の音楽はゲームの世界観と強力にリンクしているため、本作の一ファンとしても音符的な編曲はほぼ不要ではないかと考えていました。
杉森さん(オリジナル版の作曲を担当した杉森雅和氏)とのやり取りはなかったのですが、お手伝いをさせていただいたオリジナル版開発時にMIDIデータの内容を拝見していることもあり、楽曲の構造はある程度理解していました。なので原曲と完全にシンクロできると自信がありましたし、ユーザーさんの喜ぶ顔も想像できましたので、新旧完全同期仕様の実装をお願いしました。
――キャラクターごとに異なる歩き方をする(モーションが使いまわしされていない)など、アニメーションにとても力が入れられています。そうすると決めた経緯や、アニメーションを作っていくうえで参考/目標/イメージしていた作品などはありましたか?
巧ゲーム開発の初期、携帯ゲーム機であるニンテンドーDSの性能で、目指すグラフィックをどうやって実現するか…と、試行錯誤していました。この時は、きわめて常識的に「キャラクター全員のアクションを個別で作ったら手間が大変だから、なるべく共通にしよう」と考えていました。
そして、プロトタイプとして最初に作ったのが、マンションの一室…リンネの部屋でした。小さなスクリーンに、少女と小犬がちょこちょこ走りまわり、ドーナツを食べるのを見た瞬間、常識はどこかへフッ飛びました。「このゲームは、トコトン“動き”にこだわって作ろう!手間?そんなの、がんばればいいよね!」チーム一同、一丸となった瞬間でした…たぶん。
――特にお気に入りのキャラクターとフレーズが、ネタバレにならない範囲(序盤の範囲)でありましたら理由と共にお聞かせください。
巧「ポメラニアン、やってましたッ!」
…序盤に登場する子犬のセリフですね。実は、最初のシナリオでは存在すらしていなかったのですが、カレを登場させたことで、一気に物語の雰囲気が変わって、たしかな手応えを感じました。
“人間以外の存在とも意志疎通ができる”というルールが生まれたのも、カレの功績です。
――主人公のシセル、序盤から登場するリンネ&カノンなどキャラクターたちのタッチデザインの方向性などを決めるうえで、『逆転裁判』とどのように差別化を図ったかお聞かせください。
巧『逆転裁判』では、キャラクターをバストアップで描いて、その表情の動きで個性を表現していました。
だから『ゴースト トリック』では、“舞台劇”を見るような視点にして、キャラクターの“全身の動き”で個性を表現することにしました。
そのため、携帯ゲーム機の小さな画面でもハッキリ印象づけられるように、全身のシルエットとカラーを強調して、なるべくディテールを排除したシンプルなデザインになりました。
今回大きな画面になったことで、そのシンプルさがスタイリッシュに見えればいいなと思っています。
――主人公のシセルは、死者ということを自覚しつつも大きく取り乱すことはなく、飄々としたところすらある人物として描かれています。そんなシセルの言動、感情などを描くうえで気を使ったこと、巧氏から見たシセルの魅力をお聞かせください。
巧(『逆転裁判』の主人公である)成歩堂龍一もそうですが、主人公はプレイヤーの分身なので前向きに物語を引っぱる、好感の持てる存在になってくれるよう願って書いています。
だから「シセルが好き」と言ってもらえると、とてもうれしいです。
彼の魅力は…やはり、その正体を踏まえた上でにじみ出す“なにか”がありますよね。だから、真実を知った上での2周目のプレイでこそ、本当の魅力を味わうことができるのかな…と思います。