特に見逃せないのが、『ペルソナ5』(以下、P5)に関連するスピンオフ展開です。2016年に本編が登場した後、『P5』のメンバーも登場するダンジョンRPG『ペルソナQ2 ニュー シネマ ラビリンス』が2018年にリリースされました。
そして翌年の2019年には、三学期などの新要素を加えた『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』が発売され、さらに2020年になるとシリーズ初のアクションRPG『ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ』(以下、P5S)がリリースされるなど、『P5』は従来の枠に止まらない魅力を提供し続けています。
ですがその躍進はまだ終わらず、シリーズ最新作の『ペルソナ5 タクティカ』(以下、P5T)が2023年11月17日に発売されます。当然本作にも、『P5』でお馴染みの「心の怪盗団」が登場。ただしそのジャンルは、SLGとRPGを融合したようなゲームシステムに一変しています。
『ペルソナQ2』ではダンジョンRPG、『P5S』はアクションRPGと、派生作が出るたびにジャンルも少しずつ変化してきましたが、今回はタクティカルなSLG要素を採用。『P5』ファンを驚かせる進化を遂げました。
果たして、「心の怪盗団」とSLG要素はどのような化学反応を見せてくれたのか。新たなゲームシステムは、『P5』ファンの心をくすぐるのか。発売に先駆けて『P5T』を遊ぶ機会に恵まれたので、『P5』ファンのひとりとして、数々の気になる点をチェックしたプレイレポートをお届けします。
なお『P5T』は、ニンテンドースイッチ/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One/Xbox Game Pass/Windows/Steam向けにリリース予定ですが、今回プレイしたのはPS5版となります。
■帰ってきた心の怪盗団、今度の舞台は「キングダム」!
過去のスピンオフでは、「パレス」や「ジェイル」などの異世界で、怪盗として活躍してきましたが、今回の舞台は「キングダム」と呼ばれる異世界。世界そのものが違うのは当然ですが、過去作との大きな差は、現実世界と行き来するわけではなく、ずっと「キングダム」に捕らわれている点です。
これまで以上に謎めく「キングダム」からの脱出を目指すため、主人公のジョーカーをはじめとする「心の怪盗団」は、現地で活動する「革命軍」のリーダーを務めるエルと協力関係を結び、様々な敵と戦います。
このような設定のため、『P5』や『P5S』にあった“日常と非日常の交差”はなく、基本的にバトルとその幕間が主軸となります。“普段の彼ら”が顔を覗かせるのは、戦いの合間に過ごす(なぜかこちらの世界にもある)「純喫茶ルブラン」でのひとときだけです。
そのため、日常的な描写は過去作と比べるとやや少な目ですが、全キャラ新規描き下ろしのキャラクターたちは表情が豊かで、動きも大きめ。立ち絵の変化からムービーのアクションまで、言葉以外の部分でも彼らの個性を雄弁に語ってくれます。
また、ルブランで頻繁に発生する「TALK」では、怪盗団同士やエルも交えたやりとりを通して、それぞれの個性がうかがえます。魅力的な掛け合いが存分に楽しめる部分なので、控えめな日常部分を補うに十分な役割を果たしているといえるでしょう。
『P5T』はシミュレーション要素が大きく、物語全般も「支配者との戦い」が根幹となるため、過去作と比べて日常パート的な要素は少なめ。ですが、その分ポイントを絞って集中的に用意されているので、怪盗団同士の掛け合いが好きな方もきっと満足できるはずです。
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■『P5』でもお馴染みの「1MORE」が、SLGに新たな刺激を与える
ターン制コマンドRPGだった『P5』本編と比べ、本作のゲームシステムはかなりシミュレーション寄りになっています。成長する要素はもちろんありますが、遮蔽物や高台が設置されたマップ上を移動し、有利な場所で敵と対峙するなど、仲間との連携を考慮した位置取りなども非常に重要です。
一見するとかなりゲームシステムが変わったように見えますが、実は『P5』の要素も数多く盛り込まれており、むしろ『P5』ファンほど馴染みやすいゲームともいえます。
本作では敵・味方ともに、射撃と近接攻撃が主な攻撃手段です。『P5』でもジョーカーたちは銃を使っていましたが、それは本作でも変わりません。むしろ重要性が増しており、戦いの主軸として活躍してくれます。
ですが銃撃には弱点があり、遮蔽物を利用した「カバー」状態になると、その対象への銃撃はダメージが減ったり、時に完全に防がれることもあります。このカバーの効果も敵・味方共通なので、敵の銃撃はカバーで防ぎ、防がれない位置から敵に攻撃を仕掛けるのが基本中の基本です。
カバー状態の解除にはいくつかの手段があり、そのひとつが近接攻撃。対象に隣接して×ボタンを押すと近接攻撃が発動し、ヒットすると相手は吹き飛んで「無防備」な状態に。攻撃した側は、対象がいたマスに移動します。
また、SPを消費して繰り出すスキル(ペルソナの使用など)の攻撃は遮蔽物を無視できるので、これも敵のカバー状態を解除できます。
カバーが外れて無防備な状態の敵に攻撃を加えると、相手がダウンして「1MORE」が発動。『P5』と同じく、「1MORE」を発動させたキャラの再行動が可能になります。しかも本作の場合、再攻撃だけでなく再移動もできるので、マップを縦横無尽に駆けまわれるのです。
さらに、「1MORE」を発動させたキャラを含む味方3人でダウン状態の敵を囲むと、「トライバングル」が発生。名前こそ違いますが、これは『P5』の「総攻撃」に相当します。条件を満たしていれば、囲まれた範囲にいるほかの敵も攻撃できるので、より多くの敵を巻き込むのが効果的です。敵全員のダウンが条件の『P5』と比べると、『P5T』の方が少ない手数で発動できます。
実際にプレイした体験として特筆したいのが、この「トライバングル」という要素。本作のバトルは、敵のほとんどがカバー状態から始まるので、「近接攻撃orスキル攻撃でカバー状態を解除」→「無防備な相手を攻撃して「1MORE」発動」という流れが基本になります。
この流れを、敵1体を攻撃するたびに繰り返すのは少々大変ですし、ターン数も嵩みます。ですが「トライバングル」を活用し、敵1体をダウンさせて味方3人で上手く囲めば、その範囲にいる他の敵にも大ダメージを与え、戦局が有利に傾きます。
実に強力な「トライバングル」ですが、欲張り過ぎると痛い目に合うので要注意。敵を囲む距離自体に制限はない(キャラクターの移動距離が実質的な制限)ので、味方同士が広く散開するほど囲む範囲が広がり、一度に多くの敵を巻き込みやすくなります。
特に「1MORE」を発動させたキャラは、前述の通り再移動もできるので、更に移動して「トライバングル」の範囲を広げたくなるところ……ですが、これが意外な落とし穴なのです。範囲を広げると敵の陣地へ踏み込みがちになり、「トライバングル」終了後に孤立しやすくなります。
マップ上で孤立したキャラがどれだけ危険なのか、シミュレーションゲームを遊んだ経験があれば説明するまでもないでしょう。単独で敵陣に近づくのは、各個撃破の恐れもある危険な行為です。しかし、「トライバングル」の範囲を広げたくなるのも、プレイヤー側のごく自然な欲求。このせめぎ合いを生む絶妙なゲームバランスも、『P5T』が持つ特徴のひとつになっています。
戦略的な判断が重要なので、シミュレーションゲームに慣れていない人は「難しいのかな?」と悩むかもしれません。ですが本作には、1つ前の味方のターンに戻る「UNDO」というシステムもあるので、過剰に身構える必要はありません。
致命的な失敗も、1ターン巻き戻せば回避できる場合が多いので、臆病になるより自分の発想を信じてあれこれ試し、ダメだったら「UNDO」で仕切り直す。それくらいの気構えで遊ぶ方が色々な戦略を試せますし、結果的により楽しめると思います。
■『P5』の要素を、独自性の高いゲーム性に落とし込んだ『P5T』
『P5T』のバトルは、ガード状態をどうやって外し、いかに「1MORE」を発動させ、「トライバングル」で多くの敵を巻き込むか。この仕組みを軸に立ち回る、既存のシミュレーションゲームとは一味違うプレイ感が、特徴的かつ新鮮です。
また、ガード状態を解除の恩恵もある「ペルソナ」の攻撃や、再行動が可能になる「1MORE」、「トライバングル」という名の総攻撃など、『P5』でお馴染みの要素を落とし込んだシステムも多く、SLGユーザーよりも『P5』ファンの方がむしろ親しみやすいかもしれません。
「ペルソナ合体」で新たなペルソナを生み出したり、戦闘不能になったら控えの仲間と交代するシステムに形を変えた「バトンタッチ」など、今回取り上げた要素以外の本編お馴染みのシステムも、うまくSLGに落とし込まれています。
ジョーカーが複数のペルソナを装備できる「ワイルド」の特性は今回外されていますが、その代わり他の怪盗団メンバーも「サブペルソナ」を装備できるようになり「本来のペルソナ+サブペルソナ」の編成で戦えます。
本作は、「心の怪盗団」がSLGのゲーム性で暴れるだけ、という単純なゲームではありません。「1MORE」の獲得とその活用を軸に、他のSLG作品では味わえないパワフルかつスピーディな戦略バトルが展開されるので、非常にテンポがよく、さらに爽快感も感じられるなど、本作独自の手応えに満ちています。
異世界で「革命」を起こす『ペルソナ5 タクティカ』は、『ペルソナ』シリーズにとっても革命的な作品になるかもしれない──そんな実感も覚えた、好感触のプレイ体験でした。『P5』ファンにとって、今回も見逃せないマストな1作になりそうです。
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