数多い成功の中でも、特に目を引いたのが「スーパーマリオ」関連の躍進と今後の展開。その先見性と的確に狙い撃つ同社の動きに、更なる成功への期待が高まるばかりです。
任天堂による「スーパーマリオ」戦略が、どのような成果を上げ、そしていかなる未来に繋がっていくのか。決算資料やタイトルラインナップと共に、「スーパーマリオ」の“今とこれから”に迫ります。
■驚きの興行収入を叩き出した「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー
2023年上半期における「スーパーマリオ」展開で最も大きかったのは、やはり映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の劇場公開でしょう。4月に幕開けして以来、順調な伸びを見せており、先月時点で国内の興行収入は140億円を突破と絶好調でした。
そして今回の説明資料によれば、全世界累計興行収入は累計で13億6000万ドルを突破。この記録は、ゲーム原作の映画として歴代1位、またアニメーション映画全体でも歴代2位という映画史に残る大ヒットとなっています。
国内だけでなく、海外でも大きく火が付いた「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」。この劇場映画の成功は、同社が掲げる「任天堂IPに触れる人口の拡大」という基本戦略に大きな弾みをかけるものと思われます。
これだけの大ヒットなので、あまり「スーパーマリオ」に触れて来なかった新規層の獲得も一定以上見込めます。また、環境の変化でゲームのプレイから離れた層も、この映画をきっかけに復帰する可能性は十分あります。
■映画の成功が、ゲームの盛り上がりを後押し
その見込みは単なる想像だけではなく、9月末までの「スーパーマリオ」関連タイトルのセルスルーは、前年の同時期を上回る勢いを見せています。例えば、ニンテンドースイッチ向けの「スーパーマリオ」関連タイトルの全世界セルスルー(4~9月)は、前年比で1.3倍と明らかな差が出ています。
また、モバイル向けの新規ユニークユーザー数が1.4倍に増えたほか、モバイルアプリのダウンロード数やグッズ販売も増加。新規層の開拓や復帰層の獲得に繋がっていることが、こうした数字からも窺えます。
現時点で、劇場映画の成功は疑うまでもありません。ですが、この結果が出てから新たな行動を起こしても、それが表に出るには時間がかかり、商機を逃してしまいます。しかし任天堂は、優れた先見性でこの成功を事前に想定し、劇場映画をきっかけに新規と復帰層を狙い撃つ展開を、この秋から来年にかけて数多く実施します。
劇場映画の成功を見据え、どんな仕込みを行っていたのか。続いては、増加したユーザーを虜とする更なる「スーパーマリオ」戦略に注目しましょう。
■映画の成功を見据え、任天堂は関連タイトルを連発
劇場映画の成功で拡大したファン層を狙い撃つ──そんな“仕込み”の成果が、この秋から続々と形になります。今月で言えば、11月17日に『スーパーマリオRPG』が登場。懐かしい名作がニンテンドースイッチで、鮮やかに蘇ります。
『スーパーマリオRPG』は元々、スーパーファミコン向けにリリースされた作品で、オリジナル版は1996年3月に発売されました。現役で遊んだユーザーは、現在30代~40代を迎えており、復帰層のストライクゾーンとも言える年代です。
子供の頃に遊んだ作品を生まれ変わらせ、その思い出を後押しに復帰へ導く強みも持つ、『スーパーマリオRPG』というチョイス。当時遊んだユーザーなら、このリメイク版に惹かれる方も多いことでしょう。またリメイクにあたって、グラフィックが3Dで描き直されているので、新規ユーザーにも十分訴求できるでしょう。
年を明けた2024年2月16日には、ゲームボーイアドバンス用にリリースされたアクションパズル『マリオvs.ドンキーコング』が登場。さらに3月22日には、完全新作『プリンセスピーチ Showtime!』が控えています。特に後者は、ディズニープリンセスにも負けない認知度を持つピーチが主役なので、世界中の女の子を中心に新規層の掘り起こしが狙えそうです。
また、発売日はまだ決まっていませんが、2013年に発売されたニンテンドー3DSソフトをHDリマスター化した『ルイージマンション2 HD』と、2004年発売のニンテンドー ゲームキューブソフトをリメイクする『ペーパーマリオRPG』が、ニンテンドースイッチソフトとしていずれも2024年に発売される予定です。
スーパーファミコン、ゲームボーイアドバンス、ニンテンドー ゲームキューブ、そしてニンテンドー3DSと、当時のハードを彩った「マリオ」関連タイトルの登場は、各世代のユーザーを再び堀り起こす可能性を秘めています。そして、完全新作の『プリンセスピーチ Showtime!』は、新規層の取り込みに拍車をかけることでしょう。
■いち早く成果を出した『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』
この秋から来年にかけて「マリオ」関連の展開が続きますが、「ゲームが出るからといって、成功するとは限らない」と考える方もいることでしょう。
さきほどは、まだ発売していないラインナップを紹介しましたが、「スーパーマリオ」関連のタイトルラッシュはすでに幕が上がっており、2Dマリオの正統続編『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が10月20日に発売されたばかりです。
先日公開された決算では、『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』の販売本数も報告されており、発売後2週間の時点でなんと430万本を記録(全世界累計)。この数字は、Wii、ニンテンドーDS以降の「スーパーマリオ」関連タイトルとしては過去最高の販売ペースです。
かつてない勢いで大ヒットを遂げた『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』の躍進は、本作が持つ面白さや魅力が評価された点がやはり大きいでしょう。ですが、映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」成功の後に関連タイトルが軒並み伸びた点を考えると、430万本という成功の一因に映画の影響があったと見て間違いないでしょう。
どこまでの成功を想定していたのかは分かりませんが、映画のヒットを予見し、秋以降に「スーパーマリオ」関連タイトルのラッシュを仕込んだ任天堂。その先見性はまず、『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』の大成功に結びつき、華やかな先駆けとなりました。
これから登場する『スーパーマリオRPG』、『マリオvs.ドンキーコング』、『プリンセスピーチ Showtime!』、『ルイージマンション2 HD』、『ペーパーマリオRPG』がそれぞれどのような結果になるかはまだ分かりませんが、『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』の成功が期待を高めてくれます。
映画で開拓した新規層・復帰層を迎え撃つ、秋から来年にわたる「スーパーマリオ」のラッシュ。一連の動きがどんな結果を得るのか、実に楽しみです。