2014年3月にCygamesが世に放った『グランブルーファンタジー』(以下、グラブル)は、空の世界を舞台とした壮大な物語と、魅力溢れるキャラクター陣の活躍を描き、多くのユーザーを虜としました。その歩みはもうじき10年を迎え、長く愛され続けていることが窺えます。


その蓄積の中で、『グランブルーファンタジー』の世界はひとつのゲームに納まることなく、コミカライズやノベライズ、ラジオにTVアニメと、その広がりは留まるところを知りません。

またゲームの世界でもジャンルを超え、対戦アクションとして『グランブルーファンタジー ヴァーサス』、『グランブルーファンタジー ヴァーサス -ライジング-』が登場したほか、2024年2月1日に『グランブルーファンタジー リリンク』(以下、グラブル リリンク)が発売日を迎えました。

PS5/PS4/PC(Steam)向けに登場した『グラブル リリンク』は、『グラブル』の世界をアクションRPGとして描いた作品で、原作の持ち味を生かすと共に、手応え溢れるアクションバトルを楽しむことができます。

『グラブル』ファンでアクションRPGが好きな人は、首を長くして本作の発売日を待ち望んだことでしょう。一方で、アクションRPGは好きだけど『グラブル』を知らないというゲームユーザーは、『グラブル リリンク』に手を出すかどうか、まだ迷っていてもおかしくありません。

実は、筆者も躊躇していたゲーマーのひとりです。
これまで『グラブル』とはあまり縁がなく、しかしアクションRPG好きとして『グラブル リリンク』がずっと気になっており、プレイするかどうか長らく悩んでいました。

ですが、運よくプレイする機会に恵まれ、発売に先駆けてがっつりプレイ。いち早く楽しんだ13時間(ストーリー中盤まで)のプレイ体験を元に、「『グラブル』を知らなくても『グラブル リリンク』は楽しめるのか」について、皆様にお届けします!

なお、今回プレイしたのはPS5版となります。また物語上のネタバレはありません。

■ゲームの中心にある「バトル」は、丁寧で手応えが感じられる作りに
『グラブル リリンク』のゲームシステムは、成長からバトルシステムまで多岐にわたり、各要素も細かく用意されています。こうした点のすべてに触れると膨大になってしまうため、今回は「バトル」「ストーリーとキャラクター」「街やフィールド」の3点に絞り、原作未経験でも楽しめるのかという視点で迫ります。


アクションRPGで譲れないのは、やはり「バトル」の面白さ。重厚で生死の境目を潜り抜けるのか、ハイスピードでテンポよく暴れるのか、そういった方向性の違いはあれども、アクションバトルに魅力がなければ、アクションRPGとしては名折れでしょう。

『グラブル リリンク』は、フィールドにいる敵と遭遇して戦うシームレスなバトルが基本です。「シンボルと接敵すると画面が切り替わる」といったタイプではないので、気持ちは途切れることなく、臨場感が地続きのまま楽しめます。

移動、回避、ガード、ロックオンといった定番要素は一通り揃っており、操作感は軽くキビキビとした触り心地。スピードか重厚かのタイプで言えば、本作は軽快なスピードタイプで、操作キャラを軽やかに動かすことができます。


速度があり過ぎるアクションRPGは、時として手触りのないプレイ感に陥る場合があります。しかし『グラブル リリンク』の動きやテンポは、いい意味でスピードに寄り切らず、軽快ながら手応えがしっかりと感じられる絶妙なラインを残しています。

移動速度も速すぎないので制御しやすく、敵の広範囲攻撃も十分躱せるバランス感。攻撃などの各種アクションもテンポがいいので、バトル面における操作上のストレスはほとんど感じません。

攻撃アクションは機敏でモーションも小気味よいので、通常攻撃(□ボタン)のコンボだけでもクセになりますが、状況に応じて特殊攻撃(△ボタン)を組み合わせるといった基本的な楽しさもしっかりと用意されています。

また、本作の回避やガードはちょっと特徴的で、回避は素早く攻撃を避けられるものの、短時間に3回繰り出すと直後に長めの硬直が発生します。
時間にして数秒程度ですが、この時は文字通り無防備なので、安易な回避連打が思わぬ被ダメージに繋がることも。

そしてガードは、敵の攻撃を軽減でき、安定した守りを可能とするものの、攻撃をガードで受けすぎるとブレイク状態に陥り、こちらも一転ピンチを迎えます。

誤解を生む前に補足しておくと、本作の回避やガードは十分な性能を持っています。それに頼り過ぎて、安易にガードし過ぎたり、回避を連発するとピンチを招く、という話に過ぎません。それだけ立ち回りが重要で、的確な行動にちゃんと意味があるバランス調整になっています。

バトルのシステムが全く違うので、敵との戦いに関しては『グラブル』未経験者でもすんなり楽しめますし、目立った問題は見当たりません。
むしろ、一部の強敵がそれなりに手ごわいので、原作の経験よりもアクションの得手不得手の方が重要でしょう。

といっても、今回プレイしたストーリーの中盤の範囲で言えば、避けられない戦闘で理不尽な強さを持つ強敵とは遭遇していません。任意で戦える「封印された敵」が例外ですが、この敵はスルーして先に進むことができるので、無理に戦う必要はなし。また、アクションが苦手な人向けに「アシストモード」が用意されているので、自信がない人もご安心ください。

■ストーリーは完全新作、関係性は「フェイトエピソード」でカバー
原作とはゲームのジャンル自体が違うので、バトルに関しては『グラブル』の知識がなくてもほとんど問題ありません。ですが、経験の有無で最も気になるのは、やはり「ストーリーとキャラクター」でしょう。
ここの匙加減次第では、プレイヤーが置いてけぼりになる可能性も否定できません。

まず『グラブル リリンク』のストーリーについてですが、『グラブル』の世界観を継承しているものの、舞台となる地域(大空に浮かぶ島々なので、正確には空域)から物語まで、いずれも本作オリジナルのもの。まっさらな状態からでも、問題なくストーリーを読み進められます。

会話の中に『グラブル』独自の単語が飛び出すこともありますが、そうした用語の説明もちゃんとフォローされています。メニュー内で各用語を網羅しているのはもちろん、テキストウィンドウ時なら画面を切り替えることなく、会話中に出てきた用語の意味を調べることができます。

用語といっても、『グラブル』を知らなくても推察できるものも多く、判断にちょっと迷っても簡単に用語を確認できるので、世界観が把握できずに戸惑うことはほとんどないでしょう。強いて言えば、キャラクターの行動動機が世界観と関わる面もあるので、そこに注意を払えばいい程度のものです。

一方、登場する主人公サイドのキャラクター陣は『グラブル』からの続投で、当然人間関係もある程度出来上がっています。原作経験の有無が最も影響するのは、この部分かもしれません。

特に、主人公(「グラン」または「ジータ」のいずれかを選択。名前も変更可能)と「ルリア」は一心同体とも言うべき関係にあり、事前に知識があった方がよりスムーズに楽しめるのは間違いないでしょう。

ただし、2人の特別な関係性はストーリー中にも描写があるほか、キャラクターの背景や歩みが分かる「フェイトエピソード」が用意されているので、その人柄や内面などを本作で知ることは十分できます。そのため、懸念するほどの問題点ではありません。

ちなみに、パーティに編成できるキャラクターは、見た目やモーションの違いだけでなく、通常攻撃・特殊攻撃・アビリティに至るまで違っており、近距離でガンガン戦う者もいれば、距離を取って戦う遠距離タイプ、手数は少ないもののチャージ攻撃で大ダメージを狙う魔法系など、バトルスタイルは千差万別。キャラごとに立ち回りが変わるといっても過言ではないほど。キャラを使い分ける楽しさは、原作の経験を問わず味わえます。

操作キャラ以外にも3人の仲間が共に戦ってくれるので、自ら先陣を切るもよし、支援や回復に回って仲間をサポートするもよし。好みのスタイルを自ら見つけるのも、本作らしい面白さに貢献しています。

『グラブル』を知っていれば、誰がどんな戦い方をするのか、ある程度察しがつくかと思いますが、実際に触って確かめるのも悪くありません。そのため、キャラ選択においても、未経験がネックになる部分はほぼゼロ。敢えて問題点を探すなら、原作を知らないのでキャラクターの再現度の高さがピンと来ない、といった程度です。

■世界の描写は濃密で豊か、フィールドは必要十分で没入感も抜群
今回取り上げる最後の項目は、「街やフィールド」です。ゲームを進めると、買い物や武器の強化、クエストの受諾などを行う施設が揃った街に辿り着きます。そこでは人々の生活が垣間見えたり、住民の困りごと(サイドクエスト)を引き受けたりと、この世界の日常が直接感じられます。

中盤までのプレイで、拠点となる2つの街に訪れましたが、まず特筆したいのはその描写力。「アニメ調のファンタジー世界」をここまで力強いグラフィックで描いている作品は、ほかでも中々見られません。

生活感溢れる市場の通り、明るく開放的な広場、自然と一体化した家々、池のほとりで寛ぐ人々。その全てが的確に描写され、牧歌的な空気感すら感じられそうなほどの雰囲気を醸し出しています。

ビジュアルの感想なので個人的な主観になりますが、ひとつひとつの細部にこだわるよりも一定以上の水準で種類と密度を増やした結果、ビジュアル全体が濃密になり、存在感と活気を与えることに成功していると感じました。

これは街やフィールドだけでなく、キャラクターの3Dモデルにも共通しています。繊細で美しいキャラクターイラストと見比べても遜色なく、かなり高いレベルで再現できています。もちろん見た目だけでなく、戦闘時のアクションや移動中の待機モーションなどもいい出来なので、観察のし甲斐があります。

街の広さ自体はほどほどですが、作りが凝っているので、ただ歩いているだけでもちょっとした充実感を覚えるほど。住人たちの仕草も豊かなので、ここでの生活が容易に想像できます。意外な場所に宝箱があったりと、ちょっとした探索要素が楽しめるのも嬉しいところです。

会話できる住民が、施設の人やサイドクエスト関係に絞られているので、ある程度満足したら慣れてしまう部分ではありますが、それでも「ファンタジー世界にいる!」という没入感が続くのは大事な要素のひとつ。本作はそこを、かなり高いレベルでクリアしている印象です。

『グラブル リリンク』のフィールドに関しては、人によっては残念に感じる部分があるかもしれません。本作は、「広大なフィールドがあり、そこを何度も行き来して物語を進めたり、未知の場所を見つけたりする」といったタイプではなく、「ストーリーが進むごとにその場所へ赴き、目的を果たしたら(=クリアしたら)街に戻る」という構成です。

フィールド上にも探索要素が用意されていますが、オープンワールドのような広大さはないので、この点に期待すると肩透かしを食らうかもしれません。ですが、広ければいいとも限らず、ここは人によって好みが分かれる点でしょう。

「広大な世界を自分の手で開拓していく」という要素はありませんが、物語の展開に合わせて訪れる各フィールドは変化に飛んでおり、緑の深い森林、緩やかな高低差のある草原、吹雪く極寒の地、焼け付く砂原など、向かう島ごとに異なる顔を見せてくれます。

広さと引き換えに多彩さを選んだと考えれば、島々を巡る『グラブル』の世界を表現するのに適した選択と言えるかもしれません。もちろんフィールドのグラフィックも、世界観を感じられる筆致で描かれており、没入感を促してくれます。

あくまで個人的に感じたものですが、『グラブル リリンク』は『グラブル』の世界観を引き継ぎながらも、未経験者でもほとんど戸惑うことなく楽しめました。バトルは本作独自のものですし、舞台となる空域も完全新規。用語解説があるので、独自の世界観についてもフォローされています。

各キャラの関係性は『グラブル リリンク』以前に出来上がっているので、最も大きいネックはここかもしれません。しかし「フェイトエピソード」などで十分補完でき、ここも大きな壁ではないでしょう。

そのため、『グラブル』の知識がなくても疎外感はなく、完全新作のファンタジーアクションRPGとしてプレイしても遜色なく楽しめるほどです。むしろ、『グラブル』の世界を知る入門用の一作としても優れているので、『グラブル リリンク』で初めての一歩を踏み出すのも悪くありません。

『グラブル』ファンはもちろんのこと、アクションRPG好きにとっても本命に成りえる『グランブルーファンタジー リリンク』で、あなたの空にも冒険が広がりますように。