合併前のスクウェア時代に幕を開けた『サガ』シリーズは、ゲームボーイを代表する『魔界塔士Sa・Ga』から始まり、スーパーファミコン向けに展開した『ロマンシング サ・ガ』シリーズ、初代PlayStationで活躍した『サガ フロンティア』シリーズなど、それぞれの時代で存在感を示しました。

ですが、2010年代に入るとブラウザ向けやスマートデバイスへの展開が増え、家庭用向けの完全新作は2016年発売の『サガ スカーレット グレイス』のみ。
追加要素を備えた過去作のリマスター版などは登場したものの、現行機向けの『サガ』完全新作を望む声は、SNSなどで熱量を増すばかりでした。

そうしたユーザーの願いは、2023年9月に行われた「Nintendo Direct」で報われる形となります。この時、本シリーズの完全新作『サガ エメラルド ビヨンド』が発表され、ニンテンドースイッチ/PS5/PS4/Steam/iOS/Androidへの展開も判明しました。

その発表から半年ほどの時を経た今月4月25日に、待望の発売日を迎えます。果たして『サガ エメラルド ビヨンド』はどのようなゲーム性を備え、いかなる体験を提供してくれるのでしょうか。その一端を知る機会を得た先行体験をもとに、発売に先駆けた本作のプレビューをお届けします。


なお、今回のプレイはPS5版のものです。また、主人公のひとり「ディーヴァ ナンバー5」を選択し、その序盤で触った範囲をもとにしたプレビューとなります。

■「定番の形」が変わりゆく『サガ』シリーズの進化と挑戦
『サガ エメラルド ビヨンド』の感触や手触りを語るために、まず『サガ』シリーズの特徴や魅力などを振り返っておきましょう。ですが、『サガ』シリーズを一言で説明するのは難しく、人によって表現の仕方や取り上げるポイントは大きく変わります。

というのも、大枠では「コマンドバトルのRPG」とくくれるものの、シリーズ初期から個性的なシステムを採用しており、またシリーズを重ねるごとに新たな特徴が加わっていきました。そのため、同じシリーズ作でもプレイ感がまったく異なる場合すらあります。


それでも、受け継がれやすいシステムがいくつかあり、そこに『サガ』シリーズの定番要素や進化の軌跡が浮かび上がります。例えを挙げるなら、総合的な強さの目安となる「レベル」がない点、戦闘ごとに強くなる可能性のある成長要素、技や術を覚える「閃き」、イベントの発生や展開を任意で選択する「フリーシナリオ」、仲間同士の攻撃を繋げてより効果を生み出す「連携」などが代表的なところでしょう。

こうした特徴は、『サガ エメラルド ビヨンド』にもしっかりと受け継がれていました。また、単に継承するだけでなく、より洗練されていたり、本作に合わせた形に昇華していたりと、新規ユーザーだけでなくシリーズファンにとっても刺激的な内容になっています。

独自に進化し続けるRPGとして、今日まで己を磨き続けてきた『サガ』シリーズ。今回の完全新作で、より洗練された『サガ』を味わうことができました。
その体験のポイントを、バトルとフィールド全般に絞ってそれぞれお伝えします。

■「BP」を運用して立ち回れ! 一般的なRPGとは一線を画すバトル
『サガ エメラルド ビヨンド』のバトルは、行動順によって攻撃などを繰り出すターン制のバトルで、主人公や仲間への指示はコマンド入力で行います。……が、この説明だけだと、一般的なRPGを連想する人が多いでしょう。しかし『サガ エメラルド ビヨンド』は、王道的なRPGシステムとは一線を画しています。

まず本作には(そして『サガ』シリーズの多くには)「たたかう」といったコマンドはありません。戦いの場において、「たたかう」のはごく当たり前の話。
その上で、どの技や術を繰り出すのか、本作のバトルはそこからがスタートです。

1ターンに行動できる回数は、パーティ全体の共通リソースとなる「BP」に左右されます。攻撃の手段によって消費するBPの数が変動しますが、最低でも1ポイントあれば1回の攻撃が可能です。最大5人でパーティを組むので、BPが5あればそれぞれが1回ずつ攻撃できます。

なお、コマンド入力による攻撃の回数はひとり1回まで。ターン中に複数攻撃する場合もありますが、それは特定の条件を整えた結果なので、BP消費による攻撃の回数はひとり1回に限られています。


そのためBPが6以上ある場合は、発動に2ポイント以上必要な術技を混ぜる等、余らせないのが賢い運用法になります。また、必ずしも全員が攻撃する必要はなく、BPの消費量は多いものの強力な術技を発動する方がいい場合もあるので、その判断はプレイヤーの力量に委ねられています。

一般的なコマンドRPGは、キャラひとりにつき1回の行動が確保されており、術や技などは「MP」を消費する形がほとんどです。一方『サガ エメラルド ビヨンド』は、BPを配分する形で行動を決定。消費するリソースはBPのみですが、その配分次第では行動できないキャラも出てきます。

ただし行動しなかったキャラは「防御」状態になるので、非行動=無意味ではありません。
意図的にヘイトを集めてから「防御」に入り、他の仲間たちを守る……といった戦略も狙えます。この、BP配分による行動枠の変動制ひとつをとっても、本作のバトルが一般的なRPGと大きく違うことが分かります。

■奥深い「連携」と、戦略を視覚化する「タイムライン」
コマンドRPGという大枠は同じなのに、行動回数やアクションの中身は変動し、戦略性が増していることが窺えます。ですが、この独自性はまだ序の口。ここに「連携」が加わることで、プレイヤーの思考と駆け引きが更に加速します。

攻撃行動の術や技は、それぞれ「連携範囲」が設定されており(連携不可の術技を除く)、この範囲が繋がるように攻撃を設定すれば、複数人による「連携」が成立します。「連携」は繋げるほど与えるダメージが増すので、バトルにおける基本中の基本と言えるでしょう。

また「連携」を繋げると「連携率」が上昇し、これが150%を超えると一定確率で、200%以上なら必ず「オーバードライブ」が発生。「オーバードライブ」になると「連携」が再度発動し、自動的にもう1度攻撃を繰り出します。1回のコマンド入力で2度攻撃ができる、とても美味しいシステムです。

その「オーバードライブ」も視野に入れた「連携」が攻撃の要になりますが、こうした説明を見て「複雑で難しそう……」と感じる人もいることでしょう。ですが、実際にプレイすると非常に分かりやすいので、遊ぶ前から抵抗を感じる必要はありません。

1ターンの行動順は、敵味方ともに「タイムライン」上に並べられており、最も左にいるキャラから順番に戦闘行動を実施します。この「タイムライン」には、選択した技や術の「連携範囲」が視覚的に表示されるので、あとは範囲同士を隣接させるよう各キャラの行動を決めるだけ。「連携」の繋がりや発生の可否が視覚的に分かるので、戸惑わずにすみます。

技や術を選んだ後でもキャンセルが効くため、「一通り入力したけど、どうしても攻撃が繋がらない」という時は、ひとりずつやり直すことも可能です。連携がうまく繋がるよう、術技の組み合わせの中から最適解を見つけ出す……その試行錯誤が楽しく、奥深い戦略性に繋がっています。

分かりやすいのに奥深い。そんな「連携」を軸とする『サガ エメラルド ビヨンド』のバトルは、ターン制コマンドRPGが持つ面白さを特定方向に絞り、それを凝縮したようなシステムに仕上がっています。

■自分のペースでゲームを進行できる「ワールド」に、冒険の要素がぎゅっと濃縮
RPGには物語がつきもので、それは主に冒険の中で描かれます。これは『サガ エメラルド ビヨンド』も同様ですが、その構成はやはり一般的なRPGと比べてかなり異色です。

街を出るとフィールドが広がり、草原や山を越えた先にあるダンジョンに入り、その中を探索して最奥のボスと戦う。その道中、幾度も敵と戦い、MPやアイテムを適度に使いながら進んでいく──こうした適切な戦略と長期的なリソースの運用が、大半のRPGにおけるゲーム性の核です。

ですが『サガ エメラルド ビヨンド』の場合、いわゆる街やフィールドといった分け方はなく、ひとつの世界をまとめた「ワールド」が多数存在し、その世界同士を繋ぐ「連結領域」で結ばれています。住民も街も敵とのバトルも全て凝縮された「ワールド」を渡り歩き、主人公ごとに用意された目的を目指す。これが『サガ エメラルド ビヨンド』の主なゲーム進行です。

今回のプレイで選んだ「ディーヴァ ナンバー5」は、見目麗しい容姿と美しい歌声を持った女性型のメカですが、禁じられていた歌を歌ったことでメモリを封じられ、歌うことができなくなりました。そのボディも小柄なロボットへと換装し、日々の目的を失った彼女は、自分の「心」を問う冒険へと挑むことになります。

そんな「ディーヴァ ナンバー5」を待ち受ける「ワールド」はいくつもあり、今回筆者が辿り着いたのは3つの部族がそれぞれ問題を抱えている世界でした。その問題に「ディーヴァ ナンバー5」が関わることで、物語が進展していきます。

物語全体が動く「メインストーリー」や、世界への理解が深まったり報酬がもらえたりする「サブイベント」、敵と戦う「バトル」といった要素があるのは、他のRPGと変わりません。

ですが本作は、「道中で幾度も敵と戦う」といった雑魚戦は存在せず、ストーリーやイベント上で必ず戦う敵を除けば、バトル発生のポイントに任意でアクセスして戦うのみ。道中の足かせになりやすい偶発的な戦闘は一切なく、必要なバトル以外を無理強いされない稀有なシステムになっています。

もちろん、敵と戦えばそれだけ強くなれますし、後々に控えているであろう強敵とのバトルにはキャラの育成が欠かせないでしょう。ですが、それを強制的に押し付けられたりはせず、自分が戦いたいタイミングでバトルに挑むことができます。育成のペースやプレイの配分をプレイヤーに委ねており、その自由度の高さも本作が持つ特徴のひとつです。

「道中の雑魚戦」を駆逐した『サガ エメラルド ビヨンド』は、タイパにこだわる傾向のある現代にマッチした構成と言えるかもしれません。求める時だけ存分に戦えて、それ以外は必要分だけで済む、実に秀逸なゲームデザインです。

■濃密さと「余白」の削除が、プレイの没頭と周回を促すデザインに
「連携」が鍵を握るバトルは毎回試行錯誤があり、それが結果に結びつくので満足感も得られます。一方で、ランダムに遭遇する雑魚戦などは強いられず、バトルの回数はプレイヤーの気分に合わせて調整可能。パーティが十分育っていれば、ストーリー上のバトル以外は一切無視してクリアまでひた走ることもできそうです。

また、メインストーリーやサブイベントの発生場所など、要素の全てが「ワールド」の中にギュッと詰まっています。広大なフィールドを冒険するRPGと比べると、移動の手間は皆無と言っていいほど。そのため、出来事が矢継ぎ早に起こり、物語もバトルもテンポよく進みます。

こうしたゲームデザインを通して見ると、バトルにせよイベント関連にせよ、ゲームとしての面白さを維持したまま「余白」を削ぎ落している印象を受けました。

本作には6人5組の主人公がおり、「ディーヴァ ナンバー5」もそのひとり。セーブデータは主人公ごとに残せるので、本作の物語を一通り堪能しようと思ったら、最低でも5回のプレイが必須です。

しかも、周回プレイを支えるシステムが用意されており、育成状況の引継ぎも可能。サブイベントはプレイヤーの選択次第で分岐するので、2度3度と繰り返したくなる仕掛けもゲーム内に備わっています。

ひとつひとつの要素を深め、しかし手間は少なく調整し、「余白」は可能な限り削除する──そんな、RPG体験を極力まで煮詰めたようなゲームデザインが、周回プレイへの意欲と興味を増大させてくれることでしょう。

実際のプレイではまだそこまで達していませんが、「濃密な体験」と「周回プレイへの誘い」の果てにこそ、『サガ エメラルド ビヨンド』が伝えたいテーマが隠されているのかもしれません。

そこに何があるのかはまだ分かりませんが、「辿り着きたい!」と強く思わせるゲーム体験と物語を感じた『サガ エメラルド ビヨンド』の先行プレイでした。いずれ、その「場所」へ到達したいと思います。そこに、皆様もいることを願いながら。

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