いわゆる「クソゲー」と呼ばれている作品は、カルト的な人気を誇っていることがよくあります。

また、発売から数十年経って「これは本当にクソゲーなのか? むしろ良作ではないか」という見直しが行われることも。
筆者自身、多くの批評家が「これはクソゲー」と評価する作品に対して「いや、決してそうとは言い切れない」と反論するような記事を書いたことがあります。人間の性格は星の数ほどあり、見方によってはむしろ名作ではないかと思わせる作品も確かに存在します。

今回は1985年11月にサンソフトが発売したファミコンソフト『いっき』について解説していきたいと思います。この作品は、果たしてクソゲーだったのか……?

◆たった2人の一揆
『いっき』はタイトルの通り、日本の民衆抵抗運動である一揆を題材にした作品です。

もっとも、江戸時代以降の一揆は単なる暴動だけでなく、「越訴(おっそ)」という手段も用いられました。管轄の役所を通り越して、その上位に位置する役所に訴える方法です。
現代に至るまで稟議書がないと話が進まない「検討の国」日本では、越訴は極めて有効なカードです。

それはさておき、我々一般人が「一揆」と聞いて連想するのはやはり、「鎌と竹槍を持った農民の暴動」ではないでしょうか。『いっき』の世界観はまさにそんな感じで、主人公の権べは無限に取り出せる鎌を投げながら支配者側の刺客を駆逐していきます。

ところが、周りを見る限り登場する一揆側のキャラは権べと2Pの田吾だけ。一揆とは地元住民の不満が爆発したからこそ発生した現象のはずですが、実際に戦っているのはたった2人!?

出てくる敵も、なぜか忍者だったり猪だったりで、「一揆と関係ないんじゃ!?」というツッコミが相次ぎました。そうした要素が相成り、『いっき』は「クソゲー」と呼ばれることになってしまったのです。


しかし、その評価は適切だったのでしょうか?

◆2人協力プレイが可能だった数少ないソフト
『いっき』は1985年7月にアーケード版が稼働し、その後にファミコンへ移植された作品です。

当時、アーケードから家庭用ゲーム機への移植は「機能の省略」と隣り合わせでした。家庭用ゲーム機のほうがスペックが低いため、「登場キャラやステージ数を減らす」といった妥協をしなければなりません。『いっき』も例外ではなく、アーケードからファミコンに移植する際にはステージ数減少などの省略が見られます。

しかし、2人協力プレイを残した点は大いに評価されるべき!

この時代、『スーパーマリオブラザーズ』のように2人が交互にプレイする作品はありましたが、2人同時にプレイできる作品はまだ珍しい代物でした。『いっき』は「省略できない部分」を慎重に選び出したことが奏功し、子供たちの念願だった「自宅にいながらマルチプレイ」を実現させました。


これだけでも、『いっき』は偉大な足跡を残したと言えます。

「たった2人で一揆」という変な世界観に関しても、それだけで作品の評価を毀損できるものではないということは現代では常識になっています。『いっき』の2年後にSNKから発売されたアーケードゲーム『ゲバラ』は、チェ・ゲバラとフィデル・カストロのたった2人でバティスタ政権を打倒するという内容です。ハチャメチャのスケールとしては『ゲバラ』のほうが圧倒的に大きいはずですが、こちらは「良作」として語り継がれています。

◆ゴールデンウィークは「いっき」で盛り上がろう!
必要以上に低評価されてしまったきらいがある『いっき』ですが、21世紀に入るとこの作品の再評価が進みます。

昨年2月にPC向けに、そして今年4月にはニンテンドースイッチ向けに発売された『いっき団結』は、かつての『いっき』の正統進化版と言える作品。
プレイヤードキャラは16人、そして何と16人同時協力プレイが可能という怪物です!

サン電子の『いっき団結』公式サイトには、

収穫の秋、豊作を喜んでいたはずが、イナゴの大発生で大慌て!

危機に瀕した村、それでも年貢を取り立てる役人……。

村を守るため、一揆を起こして米を取り戻せ!

今度は1人で一揆じゃない! 最大16人で「いっき団結」だ!

「最もカジュアル」な「オンライン協力プレイ」は簡単操作で爽快感抜群!

弾幕を避け協力して敵を倒し、アイテムを集めて代官屋敷を目指す!

これぞ団結ローグライクアクション!
という説明文が記載されています。「今度は1人で一揆じゃない!」と書くあたり、そのことでいろいろ言われた過去を良い方向で消化しているようです。

そしてこの取り組みは、穿った見方をされ続けていた怪作の存在を、次世代へ伝える大きなきっかけになるのではないでしょうか。

子供のいるゲーマーにとって、ゴールデンウィークは子供とのコミュニケーションを計る貴重な時間。お父さんやお母さんがかつて遊んだ『いっき』を、子供たちと一緒にプレイする。
これこそがコンピューターゲームの在り方だと、筆者は確信しています。

サン電子が『いっき団結』を開発・発売してくれたことにより、我々80年代生まれは2010年代生まれの子供たちに『いっき』の魅力を伝えることができるようになりました。偉大な歴史人物の業績が世代間で語り継がれるように、また偉大な発明品が改良を重ねながらより良い製品になっていくように、人々を魅了したファミコンソフトはこれからも我々の傍らで生き続けるはずです。

というわけで、2024年のGWは家族みんなで百姓一揆だ!