2025年2月10日、Key×ライトフライヤースタジオが贈るドラマチックRPG『ヘブンバーンズレッド』(以下、「ヘブバン」)が配信から3周年を迎えた。日付も変わり、3周年を迎えようとしているほんの30分前、まさに新たな月曜日を迎えようとしているタイミングで、公式Xと公式YouTubeチャンネルでは恒例の生放送が行われていた。
ゲームの最新情報などは一切なく、公式生放送でお馴染みのキャスト陣もいない。3周年記念に描き下ろされたアートビジュアルをバックに、プロデューサー・柿沼洋平氏と開発統括/ゲームデザイン・下田翔大氏らが、たわいもない雑談を交えながら直近の施策を振り返りつつ、3周年をただただお祝いするという趣旨である。
だが、そんな番組であっても多くのヘブバンユーザーたちに視聴されていたのが記憶に新しい。もちろん筆者もスマートフォンを片手に、華もなく成人男性2人きりの生放送をリアタイ視聴していた身だ。
意識はせずともそれだけ自分の生活の中に『ヘブバン』の存在が根を張っていることに気がついた瞬間だった。それは純粋に作品が「好き」だからに他ならないのだろう。先日開催されたリアルイベント「ヘブンバーンズレッド3rd Anniversary Party!」の取材案内がインサイド編集部から打診されたときは、仕事を引き受けられることより、むしろ私欲的な部分から快諾させてもらった。
最近は『ヘブバン』について筆を取ることもめっきりと減っていたのだが、作品に対する熱意や気持ちをテキストに変換せずとも“『ヘブバン』が好きだから摂取し続けたい”とは考えている。その純粋な気持ちに嘘偽りはない。
今回は普段の特殊記事などと趣向を変えて、ゲームライターとして活動してきた筆者自身と『ヘブバン』の3年間について、ゲームファンらしい視点を意識しながら書き殴ってみることにした。締まりもなく、稚拙な乱文に過ぎないエッセイのようなものと捉えてほしい。
ここまで書いておきながら「そんなものはnoteかブログにでも勝手に書けよ」と、ひとりごちる自分もいないことはないが、それはさておく。
※本記事では物語のネタバレを含みます。
※本記事に掲載されている内容は、著者個人の見解や活動に基づくものです。
◆まさか3周年まで続くとは思わなかったリリース当初の記憶
『ヘブバン』がリリースを迎えたのは2022年2月10日。カレンダーを遡ってみると平日の木曜日であった。当時の記憶そのものはまだ鮮明に思い出すことができる。この日、筆者は攻略Wikiで知られるゲームメディア「GameWith」で活動していた。
その日は業務の中で『ヘブバン』のゲームレビューを記事化することになったのだが、メインストーリーの過剰な作り込みに圧倒され、うっかり記事化を忘れてのめり込んでしまっていた。なんだかんだ時間に都合を付けて、率直に批評を書き残すことはしてきたつもりだが、今は読み直すのも気恥ずかしい。
このとき自分はゲームライターとしてまだまだ駆け出し始めたばかりの頃であり、『ヘブバン』については認知していたもののノーマークであった。なにせ、選ばれた少女たちが人類の脅威に対抗するため、武器を手に取り戦う......みたいな触れ込みである。
その前年には当時グリーの子会社であったポケラボ(※2025年1月1日にWFSへ統合された)が、『アサルトリリィ Last Bullet』を配信しており、こちらのタイトルも表層的な設定だけをかい摘んで見てみれば、『ヘブバン』と似ている。
おまけに筆者はこれまでKey作品に触れてこなかったため、「Key初のRPG」と聞いてもそこまでの衝撃がない。むしろ、Keyであることより“ゆーげん氏のキャラクターデザイン”の方に興味があったほどだ。
ゆーげん氏は『ソフィーのアトリエ ~不思議な本の錬金術士~』以降の4作品「不思議」シリーズから、NOCO氏と共にメインキャラクターデザインを手がけており、それらの作品にのめり込んできたいちプレイヤーとしては大変馴染み深いイラストレーターだった。
ただ、仕事は仕事なので、何かしらニュースにできる情報があれば『ヘブバン』について発信する機会が自ずとやってくる。そんな日常を過ごしている折に、配信後の注目作として、GameWithに依頼されたゲームレビューこそが、いわゆる“ヘブバン沼”へどっぷり浸かっていくキッカケに繋がった。
遊んでみるとKey・麻枝准氏の紡ぐメインシナリオを読み進めたくて、寝る暇も惜しんでプレイしたのを覚えている。ゆーげん氏のキャラクターデザインも自主的にプレイする意欲に繋がったのは間違いない。
麻枝氏の世界観を生きるキャラクターたちは、一見すると想像が及ばないほどにエキセントリック、そして生きる活力に満ちた人物たちばかりだ。そんなキャラクターたちをゆーげん氏は、見事に一人ひとり丁寧に描き分けている。だが、その裏では『ヘブバン』のために自身の絵柄を変えていく必要があったことが、氏から語られている(※YouTube『ヘブンバーンズレッド』新作ゲーム発表会【WRIGHT FLYER STUDIOS × Key】より)
『ヘブバン』は、主人公・茅森月歌のハイテンションがとにかく強烈である。ゲーム冒頭から茅森と和泉ユキによるボケ、ツッコミの応酬が怒涛の勢いで繰り広げられ、プレイヤーは容赦なく置き去りにされる。
しかしその最中、狙い澄ましたかのようにボケの選択肢がゲーム内で提示され、プレイヤーの選択一つで茅森のボケが加速するのだ。それを選んだプレイヤーも、場の空気を乱す茅森の共犯となる。それが遊ぶ側としてはなんだか心地良い。
配信当初はこうした人を選びそうなノリがなんだかんだとユーザーたちに受け入れられていったことに驚いたものだった。某匿名掲示板においても、本作の天丼ギャグ以外、主にストーリーのボリューム感やシナリオの展開、音楽性、フルボイスなどについては高く評価する声が挙がっていたほど。気が付けばプレイヤーたちは皆、麻枝氏の世界観に釘付けになっていたのである。
筆者はスマートフォンゲームであることを忘れてしまうようなのめり込み方をしていき、やがていちプレイヤーとして『ヘブバン』にハマっていく。本作のギャグ描写とシリアス展開がシーソーゲームのようにかわるがわる転調する様子も、フルボイスだからこそよりドラマティックに魅せられる大きな魅力だ。ちなみに天丼ギャグは三週ほど回って、もはや微笑ましく感じられる。なければないで逆に物足りない。
今になって思えば、ここまでストーリーボリュームにバロメーターを振り切った、やたらと手間の掛かるスマートフォンゲームが、英語圏での海外展開までに漕ぎ着けることになるとは誰も予想し得なかったことだろう。おまけに英語版は日本人プレイヤーにとっても馴染みのある、Yostar Gamesというのが大きい。
麻枝氏による、日本向けのローカル過ぎるギャグ描写を英語圏ではどうローカライズしているのか、興味が尽きないところだが、プレイヤーとしては妙に感慨深いものがある。ただ、当時の心残りとしてはこの反響を読み切れなかったGameWithが攻略Wikiを作らず、競合他社のGame8に『ヘブバン』で主導権を握られたことが、関係者として実に残念でならない。
◆『ヘブバン』は口コミ的に広がっていける話題性の“塊”だった
『ヘブバン』が登場した2022年当時、国内のスマートフォン向けタイトルでは『ウマ娘 プリティーダービー』『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』のほか、『Fate/Grand Order』『モンスターストライク』『パズル&ドラゴンズ』などが相変わらず強い時期。
海外タイトルは『原神』『ブルーアーカイブ -Blue Archive-』が特に強力で、この時期から既に多くのプレイヤーたちが触れている。同じスマートフォンRPGの観点で見るとそれらは純粋に競合タイトルだったろうし、素人目から見ても『ヘブバン』の成功は初動だけのもの、そう考える者は少なくなかった。
だが、いざゲームがリリースされてみると、麻枝氏による起伏に富んだ突拍子もないギャグノリや、選択肢における細かすぎる会話分岐、「ドラマチックRPG」の名前に負けていないストーリー体験が、徐々に口コミ的な広がり方を見せていく。
メディアもその話題性から積極的に取り上げるようになり、ヘブバンフォロワーは確実にその数を伸ばしていった。結果的に“初動だけの成功者”では終わらず、近年稀に見る新規IPの成功例として注目を集めた。
サービス開始直後におけるライトフライヤースタジオの動きも素早い。運営は次回アップデートの情報や、ゲームの改善施策、キャンペーンなどの情報発信を絶え間なく行い続けてサポートし、フォロワーをしっかり定着させている。
これはゲームの配信前から実施されている公式生放送「ヘブバン情報局」という情報発信の土台が存在としても大きい。ゲームの配信直後から「ホロライブヘブバンWEEK」と題したVTuberの配信企画も早々に行われていた。
「ヘブバン情報局」は、プロデューサーである柿沼氏に加えて、メインキャストの前川涼子さん、天海由梨奈さんらの3人で進行する公式の情報番組だ。月に2、3回の発信と、運営型タイトルの情報番組にしては異様なペースで実施され、プレイヤーたちにとってもある種のメインコンテンツと化していった。
泣きゲーブランド・Keyの存在感も『ヘブバン』というIPを大いに牽引している。Key作品の古参ファンから、SNSの話題を目にして始めた新規プレイヤーたちが交流する、プレイヤー主導のファンコミュニティが複数誕生。古参と新規が対立することなく、同じ“麻枝准の物語”を触媒にして溶け合った結果、現在の根強く活発なヘブバンプレイヤーの層が凝固して生まれている。
さらにキャラクターやストーリー以外にも“楽曲”が強い。こちらも作詞・作曲を麻枝氏が自身で行っているのは有名な話だ。アーティストにはやなぎなぎ、鈴木このみ&XAIのツインボーカルバンドと、ゲームを構成する副次的な要素にしてはあまりに高い訴求力を持つ。
その麻枝氏の音楽性がコンテンツの柱になっているのは言うまでもない。実際、筆者の友人は楽曲から『ヘブバン』デビューを飾ることになった。しかも、現在では「ライブモード」を経由して多くの作中楽曲をリズムゲームとして遊べてしまう。
ライトフライヤースタジオの間口を広げた幅広いプロモーション展開によって、『ヘブバン』はその存在感を大きく強めていた。
推し活需要を狙ったさまざまなキャラクターグッズの販売、人気声優によるラジオ番組、アーティストの「Animelo Summer」出演、コラボカフェや街頭広告...etc。やれることはなんでもやりつつ、ファンコミュニティが盛り上がるような方向性を目指す。
特に近年から続いている推し活需要による効果は、運営型タイトルの『ヘブバン』とも相性が良い。ファンの推し活への熱量を見越し、全47人+1頭もの部隊員キャラクターたちの多彩なグッズ展開を用意する。ゲームではそれら部隊員キャラクターにスポットを当てたコンテンツが毎月登場し、プレイヤーも推しキャラクターをより推せるようなサイクルが続いている。
新キャラクターをほとんど出さず、既存のキャラクターたちを深掘りし続けていくビジネスモデルは、音楽ゲームやアイドルゲームで頻繁に見られるメジャーな手法だ。いわゆる偶像崇拝に通じる、「推し活」を基軸とした“キャラクター商売”である。
麻枝氏のキャラクターたちは皆一筋縄ではいかない奥深さがあって、作中での意外なキャラクター同士の組み合わせが、また新たな推しの魅力を創出していく。その相性の良さに筆者もやられたわけだ。
中でも筆者の推しは「第31X部隊」に所属するロシア出身の「シャルロッタ・スコポフスカヤ(シャロ)」だ。根暗で寂しがり屋でヤンデレで、茅森の正妻ポジションの座をいつも狙っているストーカー気質な少女である。
念願の最高レアリティが実装された際には、それが嬉しくてわざわざ記事化したほど。記事は思いの外反響があり、“Yhaoo!ニュースでライターが暴走している”だとか当時は言われてしまっていたが、それはそれで懐かしい思い出。
その後の第2弾として寄稿した【『ヘブバン』にシャロの季節がやって来た!ヴァンパイアシャロにシャロオンリーのシャロガチャとゲーム内はシャロずくめ。最近のシャロについて語り尽くす】では、シャロの未知なる部分について触れている。それこそ、意外なキャラクター同士の組み合わせで創出された、シャロの新たな魅力に迫る内容だった。
だが、ここで疑問を投げかけて考察した内容について、まさかゲーム側がアンサーを指し示すかのように描写するとは思っておらず、記事公開後とその当該エピソードのタイミングから冷や汗が出たものだった。書き手としては読んでくれた読者に対し、その答え合わせのタイミングになって良かったと、前向きに考えている。
『ヘブバン』は、これまでゲームの魅力と外部への話題性をファンが自主的に併用することで、知らないユーザーへの訴求活動に繋げる好循環を生み出してきた成功例だと思う。たとえばインフルエンサーの投稿や人気Vtuberによる配信企画、TVCMの放映、IPコラボなど。ゆーげん氏も自身のアカウントで積極的に『ヘブバン』のイラストをあげていたのは話題にしやすいポイントだった。
作中ガールズバンド「She is Legend」で人気アニメソング歌手である、鈴木このみさんを起用したのも人への話題に繋げやすい。ただ、こういった施策のほとんどはどこの企業でも話題作りとして行うことから、別段珍しくはないと言える。
ではなぜ、『ヘブバン』は同じようなやり方をしつつも成功できたのか。それはプレイヤーの期待値を超える妥協なきクリエイティビティが、間口を広げた市場戦略に伴っていたから、と勝手に推察している。ライトフライヤースタジオとKeyの真っ当な努力の賜物。
ゲーム以外にもありとあらゆる娯楽が溢れた今の時代、それでも「良いものは良い」と納得して商品を手に取るユーザーは決して少なくない。企業やクリエイターの努力が正しく評価され、今の時代に合った売れ方をしていると思えてならない。
『ヘブバン』の過剰な作り込みは、「他人からおすすめされる」という微妙に触れる気を失くす勧誘が、逆に触れた者にとってギャップを生み出すスパイスでもある。ただ、勧誘するファンも人におすすめされることの微妙な感覚を知っているので、あくまでネタバレは避けつつ、自身が得た感情的な体験や推しの魅力を、世間での話題性と合わせて紹介することで、それとなく知り合いに勧められる。
特に「Angel Beats!」コラボでは、外部への話題性もさることながら、続編が一向に出ないPCゲーム版『Angel Beats!』に代わって、コラボストーリーで「Angel Beats!」キャラクターの過去を掘り下げるパワープレイを見せた。ついにはコラボストーリーの中で、出ない続編について自虐ネタまで披露している。
麻枝氏の大胆さにはいつも恐れ入るが、人におすすめする上でこれほど惹きのある話題の見出しはそうない。知っている人はそれだけで興味をそそられるだろうし、『ヘブバン』はストーリー主体のRPGとして、おすすめされた人の期待値を超えるポテンシャルが高い。
異様なスピード感で幅広いコンテンツ展開と、話題性の確立、根強いフォロワー数を獲得してきたKey&ライトフライヤースタジオの手腕は、評価せざるを得ないところだ。しかもライトフライヤースタジオはKeyの監修と、プレイヤーたちの絶え間ない要望に挟まれ、もみくちゃにされながらも柔軟に応え続けてきた。
モバイルゲームの運営が難しい時代、最初の1年間はどんなタイトルでも、市場に存続できるか否かが問われてくるだろうから、開発チームとしても心休まらない期間だったのではなかろうか。献身的な努力もあってか、Sensor Towerが公開したレポート【2022年日本のモバイルゲーム市場インサイト】では、「収益成長量ランキング」「ダウンロード数成長量ランキング」共に1位を記録した。
また、『ヘブバン』が好調に推移し続けたことはグリーの決算資料でも説明されている。ゲームとしての評価では「Google Play ベスト オブ 2022」を受賞するなどして、大きな実績を残すことに成功している。
ここまで評価され、3周年もゲームが続けられるとは思っていなかったが、プレイヤーならばやはり嬉しい。運営の立ち行かないゲームが増えてくる中、『ヘブバン』は令和における国産新規IPの希少なヒット作だ。
3周年を迎えた現在も新たなプレイヤー層を取り入れるための施策がゲーム内外で続けられている。既存プレイヤーにも嬉しいキャンペーン施策や、TVアニメ「ガールズバンドクライ」作中ガールズバンド「トゲナシトゲアリ」と、『ヘブバン』の「She is Legend」による対バンライブなどは、外部への話題としても大きなトピックだ。
しかしながら、Key作品ではない外部IPとの絡みはこの対バンライブが初めて。これからも熱量の高いファンと新しい試みを掛け合わせることで、口コミ的に広がり続けられるプロモーション展開を続けていくのだろうか。
◆「Angel Beats!」コラボの反響とWFSが提示した“再構築”の影響
配信後の『ヘブバン』にとって新規プレイヤーたちを再び取り入れる大きな転機になったのは、やはり前述した「Angel Beats!」コラボだろう。1周年のタイミングで初めて実施されたコラボレーションは大きな話題を呼び、新規プレイヤーへの訴求には十分だった。
『ヘブバン』プレイヤーの中には「Angel Beats!」を視聴して育った世代がたくさんいる。麻枝氏のファンにとっても思い出の作品として挙げる人が多く、かく言う筆者の周りでも、学生時代は「Angel Beats!」の話題を耳にすることが多々あったくらいだ。
そんなコラボレーションが発表されたのは、1周年記念のリアルイベント「ヘブンバーンズレッド1st Anniversary Party!」だった。当時会場の取材に訪れていた筆者は、「Angel Beats!」コラボのPVが発表された瞬間の会場の反応がいまだに忘れられない。
アニメのオープニング楽曲「My Soul,Your Beats!」のピアノの旋律が響くイントロが始まると、会場のファンは喜びというよりも一瞬困惑していたのだ。それは「嬉しさ」と「驚き」が同時に込み上げてきたからにほかならない反応だった。
映像が進むにつれて会場のボルテージはやがて最高潮に達していき、大歓声となっていく。映像が終わると余程感極まったのか、今度は客席から啜り泣く声まで聞こえてきた。
それほどまでに麻枝氏の作品に対し、並々ならぬ愛着を持ったファンが多いことの証明であった。今ではインターネットやSNSを通して誰もが自由に気持ちや思いを発信できる。しかし、どこの誰でその作品が本当にどれほど好きなのか、テキストや動画配信だけでは伝わりにくいもの。
こうしたリアルの場で人の情緒が大きく揺り動かされる姿を目撃したことで、そういう世界があることを改めて知ることができた。記者としての貴重な経験にもなったし、『ヘブバン』にそれだけの力があることを知っているからこそ、その光景には説得力がある。
コラボストーリー「コスモスが咲き続けた場所」では、茅森率いる「第31A部隊」と、仲村ゆり、立華かなで、入江みゆきら3人の交流を描きつつ、やがて入江の過去へと物語は収束していく。
これまで描かれなかった分、入江の独白パートは特に濃密に描かれており、「Angel Beats!」ファンにとっても満足できるボリュームとなった。ゆーげん氏が描き下ろす「Angel Beats!」のキャラクターたちも『ヘブバン』の世界に調和して溶け込んでおり、コラボレーションで嫌がる“異物感”はない。
コラボによる盛り上がりを見せた後、1.5周年では「再構築」をテーマに、ゲーム全体の遊びやすさを向上させる大型アップデートを行った。運営型のタイトルでこうした施策を行うのは珍しい話ではないが、“1.5周年”と比較的早いタイミングで舵を切ったことが、休眠プレイヤーたちの早期復帰に寄与している。
『ヘブバン』はストーリーを除くとキャラクター育成がゲームの主要コンテンツだ。その育成関連に割く時間が大幅に短縮され、ゲーム進行のフローも大きく改修されることになった。これにより新規プレイヤーはよりストーリーを集中して楽しむことができている。
これまで積み上げてきたものを大きく変化させていくのは、開発チームとして恐らく苦渋の決断だったろう。中にはオミットされた要素も多く含んでいたからだ。だが、ライトフライヤースタジオは私情を呑み込んでプレイヤーファーストな姿勢を貫いたようだった。この頃から目に見えてゲーム内での基本的なキャラクター育成が楽になる。
1.5周年の記念施策と合わせて、新規プレイヤーはここでも増加していた。Sensor Tower公開のレポート【1.5周年を迎えたヘブンバーンズレッド、記念施策が好調でDAUが大きく伸び、ランキングも上昇】では、より詳細なデータが公開されている。いちプレイヤーから見ても人に勧めやすいタイミングであった。
◆WFSの焦りを感じた2年目。『ヘブバン』はRPGであるべきか否か
2周年ではメインストーリー第五章前編と、「Angel Beats!」コラボ第2弾が目玉となった。第五章前編ではついに茅森の過去にスポットが当たる。メインストーリーは毎度相当な開発コストを掛けて制作をしており、情報番組における柿沼氏の口ぶりからは、家庭用ゲームソフトのような作り込み加減であることが伺い知れる。
イベントストーリーを含めて全編フルボイス、かつスタミナ消費なしでメインストーリーを丸々遊べてしまうタイトルは、RPGだとかなり珍しい。そのイベントストーリーもよくあるスピンオフドラマ的なものと言うよりは、ほとんどが“メインストーリー内におけるどこかの時間軸”といったテイスト。といっても、その中には切り口を大きく変えたIF展開のイベントストーリーも見られる。
コラボストーリー以外は基本的にゲーム内にアーカイブされ、いつでも過去のイベントストーリーを楽しむことができる。しかも当時取れなかったイベント報酬まで回収できる親切設計だ。
メインストーリーの開発が進められている期間中は、こうしたイベントストーリーが毎月配信されていき、他部隊の日常やキャラクターの過去を深掘りしていくというのが主な流れとなっている。
追加されるメインストーリーのリリースに時間が掛かっていることは、これまでも情報番組の中で度々触れられてきた。それについて批判的なユーザーもいる一方、気長に待つユーザーもいる。
市場に出回る多くのスマートフォンゲームタイトルは、アップデートの度に少しずつ物語が進行していく。しかし、『ヘブバン』はほとんどの場合、メインストーリーにひとつの区切りを付けるところまで1度に実装する。
結果、ストーリー体験を損なわないための方針が、プレイヤーを待たせてしまっているという状況が生まれた。ただし、メインストーリーを少しずつ小出しにされる方が、『ヘブバン』の物語の魅力は薄まってしまう。
長い時間をかけて熟成されたひとつのコンテンツを、配信直後に集中して駆け抜けた方がストーリー体験は確実に濃密。確かにプレイヤーたちがメインストーリーを渇望するのも頷けるが、ぶつ切りではドラマ性が弱まるだろうから悩ましい。
やがてプレイヤーの反応を気にし過ぎたのか、結局ライトフライヤースタジオは第五章中編をPart1、Part2と分けてしまった。その間もイベントストーリーや「Angel Beats!」コラボ第3弾、サイドストーリーの側面を持った「制圧戦」を配信してきたが、第五章中編のPart1、Part2をプレイした上で言わせてもらうならば、やはり勿体無いと感じてしまった。
Part1、Part2は前編・後編ではなく、ボリューム感で言えばプロローグと本編のような分け方で違和感こそ少ない。が、だからこそ一つにまとめてさえいれば、よりまとまったシナリオボリュームとして楽しめたはずである。Part1プレイ後は次が楽しみになるよりも「え、これで終わり?」と、素で声が出てしまっていたくらいだ。流石にこれは、ライトフライヤースタジオの焦りを感じた瞬間であった。
リリースが遅れることについての批判的な声の中には、開発工数がかかりそうな3D探索パートや、RPGの戦闘部分をオミットして、アドベンチャーパートだけを楽しみたいとする声もある。その理屈自体は理解できるが、それは『ヘブバン』の進化と発展、ライトフライヤースタジオの挑戦と理念を軽視している意見だと思ってしまう。
運営型タイトルなのに家庭用ゲーム機向けRPGに近いプレイフィールを誇る『ヘブバン』だが、そこには同じライトフライヤースタジオのタイトル『アナザーエデン 時空を超える猫』のDNAを随所で感じ取ることができる。この作品もまた腰を据えて遊べるスマートフォンRPGとして知られており、『ヘブバン』が大きく評価されているポイントには、そうした既存作で積み上げている影響も大きい。
3D探索パートは操作性の部分でまだ改善する余地があるものの、作中の世界観を3Dのロケーションで密に表現することが、結果的に章のクライマックスで登場するハブキャンサーの超常的な特性や、キャンサーたちの無機質な恐怖感、あるいは人類にとって脅威である存在を再認識させることに一役買っている。
プレイヤーが茅森を操作して、キャンサーの影響を強く受けたエリアを歩き回ることが、ストーリーにおいても“いつ誰が死亡するか分からない”決死の戦いの緊張感を引き立てている。なので、少なくとも筆者は開発に時間がかかったとしても、3D探索パートで重要局面を描写してあげる必要がある、と良き方向に考えている側だ。
それに『ヘブバン』プレイヤーたちはストーリーだけを語らない。新スタイルの性能、スコアアタックの感想、キャラクターの2Dイラストや3Dモデル、新楽曲にライブモードのクリア報告、声優陣に関することから柿沼氏の年中半袖姿についてまで、ゲーム内外問わず多彩なのだ。
基本無料のスマートフォンアプリゲームだからこそ、幅広い層のプレイヤー同士がさまざまな要素で自分なりに作品について語り合える。これらの多くが開発を行うライトフライヤースタジオのRPGづくりの中で付帯していった魅力要素だったろうし、遊びやすいRPGだからこそプレイし始めたユーザーは多い。ゆえにRPG要素は必要不可欠な売り文句である。
そして、ライトフライヤースタジオはコーポレートサイトにおいて「新しいゲーム体験を生み出すこと。」「多くの人に楽しんでもらえるものを作ること。」「クオリティに妥協せず、最高のゲームを生み出すこと。」と、これら3つを掲げている。
同社のモノづくりにおける姿勢は『ヘブバン』で大いに発揮されて、やがてプレイヤーたちにも評価されるに至った。ゲーム開発の姿勢はそもそもここからブレていないし、Key側も妥協しないライトフライヤースタジオだからこそ、『ヘブバン』を託しているはず。これらがなければライトフライヤースタジオとKeyの化学反応は起こり得なかったろうし、今ほどのヒットに繋がったかどうか、大きな疑問が残るところだ。
筆者自身も本作をRPGとして楽しみ、自分のパーティ編成を育て上げてメインストーリー第二章、第四章後編と続き、第五章前編でも、麻枝氏の楽曲に乗せたシナリオ運びで涙腺を滲ませてきた。その感触自体は心地良いものだし、ストーリーもしっかり面白い。物語の続きが読みたくて、戦闘部分を煩雑に感じることもなくはないが、天塩にかけて育てたキャラクターたちと物語を歩めるからこそ、一層ゲームとして楽しめている。
ゲームライターは日々ゲームの最新情報に触れ、ゲームを遊び、ゲームを分析し、ゲームについてアウトプットする。まさしくゲーム三昧な日常ではあるが、それが仕事になると、別に趣味の時間を設けなければ、他のサブカルチャーに触れている時間がない。
自分の話で言えば、感動的な映画やアニメーションは基本見ないし、評判のノベルゲームはいつも途中で辞めてしまう。だが、『ヘブバン』ならばRPGを遊べて、ストーリーも良い感じの起伏と共に楽しめる。あと泣ける。
泣くことがめっきりと減った最近では、唯一『ヘブバン』に泣かせてもらうことで、心の濁りを洗い出すような生活。そんなRPGとアドベンチャーの掛け合わせを濃密に楽しめている自分は『ヘブバン』に魅了されている証明になれているだろうか。
『ヘブバン』の2.5周年までには、実に色々なことがあった。筆者は単にプレイヤーとして『ヘブバン』が好きなわけだが、なんだかんだそれが公式の取材以外で仕事に繋がることが増えてきたのだ。
2.5周年を控えている頃、作中のシネマティックを担当したStealthWorks(ステルスワークス)の米岡氏とSNSでやんわりと繋がり、そこから同じく『ヘブバン』で米岡氏と繋がっていた高校生のインタビュー企画が動いた、なんてこともある。
筆者は仕事で『ヘブバン』の周年イベントの取材に出かけて、ほんのたまにSNSで『ヘブバン』について呟く程度だ。だが今になって振り返ると、自分の記者キャリアの中にはいつも『ヘブバン』という存在がいた。
ゆーげん氏のイラスト投稿を記事化したときは、本人がSNSで拡散してくれたのが嬉しかった。だが、ファンの自分と記者の自分は明確に分けなくてはならない。有名イラストレーターや声優陣へのインタビューをしたとき、サインをねだりたくなる気持ちは押し殺す。それが大人というもの。
ゲームライターとして大きく成長させてくれたのは、厳密に言うと他のタイトルだが、自分にとっては今や『ヘブバン』も欠かすことができないゲームである。2.5周年はそんな感謝と共に、ゲーム内のキャンペーン施策でたっぷりと楽しませてもらっていた。
◆やっと来た第五章中編 Part2。これからの『ヘブバン』はどんな話題を生み出すのか
2月21日にはついにメインストーリー第五章中編のPart2がリリースを迎えた。この日を待ち望んでいたプレイヤーは多い。もう少し時間を遡ってみると、2月9日には制圧戦の後編が配信されていて、期間限定ピックアップキャラクターの七瀬七海が実装されている。セラフ部隊員ではなく司令部所属の七瀬は、武器のセラフを扱うことができないため、専用の乗り物であるフロートバイクに跨って戦う。
七瀬は淡々とした物言いで、軍の業務を日々真面目にこなしているキャラクターなのだが、顔色ひとつ変えず淡々とボケもかますシュールさ加減がユニークで、キャラクター人気は非常に高い。「ヘブバン人気投票」ではプレイアブルキャラクターではないのに、2023年度、2024年度ともに上位入賞を果たすほどの人気ぶりだった。
3部にわたって実装された制圧戦では七瀬が茅森たちに同行し、フロートバイクで任務をサポートする。また、このコンテンツでは七瀬の過去についても掘り下げられていく。
「ヘブンバーンズレッド3rd Anniversary Party!」の中で、七瀬のプレイアブル化は大いに盛り上がった発表だが、タイミングなどから何となく予想していたプレイヤーもいたようだ。司令部のキャラクターで戦うことができるのは七瀬だけでないため、今回の実装を機に、他の司令部キャラクターに期待を寄せているプレイヤーたちもいる。
これから『ヘブバン』は4周年に向けて動いていくことになる。プレイヤーたちの知らないところで、さまざまな企画や展開がすでに動いているだろうし、それを予想するのもプレイヤーたちの楽しみだ。大きく期待されているのは、他のKey作品とのコラボだったり、TVアニメ化の話だったりだろうか。
メインストーリーも第五章後編がこれから実装されていく。早速、第五章中編のPart2を夜通しプレイして、今回も感情が置いていかれるような心持ちでエンディングを迎えた。ようやく五章に区切りが付くと思うと、物語自体が着々と完結に向けて動いている気がしてならない。プレイヤーたちの間では、ゆーげん氏の描くキービジュアルから、あらゆる予想が立てられているが、果たして麻枝氏は今後どんな方向性にシナリオを転がしていくのか。
ここまで長々と好き放題に書いてきたが、特に誰かに依頼されたわけでもなく、たまにはこういうチャレンジをしても良いだろうと思い立ち、筆を好き放題に走らせてみた次第。今後も自身のキャリアの中でまた『ヘブバン』に関連した新しいチャレンジができたらこれほど嬉しいことはない。
そういえば、昨年末はお酒の勢いでGAME Watch編集部員に『ヘブバン』を激推しするなんて一幕があった。別に仕事に繋げようとかは考えておらず、その編集部員がたまたま『ヘブバン』を少し遊んでいただけの話ではあるが。何はともあれ、今後もプレイヤーとして『ヘブバン』との距離を縮めていきながら、まったり推しであるシャロを育成していこうと思う。ゲームライターとしても『ヘブバン』ファンとしても、末永く楽しんでいきたいものである。
ゲームの最新情報などは一切なく、公式生放送でお馴染みのキャスト陣もいない。3周年記念に描き下ろされたアートビジュアルをバックに、プロデューサー・柿沼洋平氏と開発統括/ゲームデザイン・下田翔大氏らが、たわいもない雑談を交えながら直近の施策を振り返りつつ、3周年をただただお祝いするという趣旨である。
だが、そんな番組であっても多くのヘブバンユーザーたちに視聴されていたのが記憶に新しい。もちろん筆者もスマートフォンを片手に、華もなく成人男性2人きりの生放送をリアタイ視聴していた身だ。
意識はせずともそれだけ自分の生活の中に『ヘブバン』の存在が根を張っていることに気がついた瞬間だった。それは純粋に作品が「好き」だからに他ならないのだろう。先日開催されたリアルイベント「ヘブンバーンズレッド3rd Anniversary Party!」の取材案内がインサイド編集部から打診されたときは、仕事を引き受けられることより、むしろ私欲的な部分から快諾させてもらった。
最近は『ヘブバン』について筆を取ることもめっきりと減っていたのだが、作品に対する熱意や気持ちをテキストに変換せずとも“『ヘブバン』が好きだから摂取し続けたい”とは考えている。その純粋な気持ちに嘘偽りはない。
今回は普段の特殊記事などと趣向を変えて、ゲームライターとして活動してきた筆者自身と『ヘブバン』の3年間について、ゲームファンらしい視点を意識しながら書き殴ってみることにした。締まりもなく、稚拙な乱文に過ぎないエッセイのようなものと捉えてほしい。
ここまで書いておきながら「そんなものはnoteかブログにでも勝手に書けよ」と、ひとりごちる自分もいないことはないが、それはさておく。
本稿が1人でも多くのヘブバンユーザーに、何らかの共感をもたらすことができれば、それはそれで幸いなのである。
※本記事では物語のネタバレを含みます。
※本記事に掲載されている内容は、著者個人の見解や活動に基づくものです。
◆まさか3周年まで続くとは思わなかったリリース当初の記憶
『ヘブバン』がリリースを迎えたのは2022年2月10日。カレンダーを遡ってみると平日の木曜日であった。当時の記憶そのものはまだ鮮明に思い出すことができる。この日、筆者は攻略Wikiで知られるゲームメディア「GameWith」で活動していた。
その日は業務の中で『ヘブバン』のゲームレビューを記事化することになったのだが、メインストーリーの過剰な作り込みに圧倒され、うっかり記事化を忘れてのめり込んでしまっていた。なんだかんだ時間に都合を付けて、率直に批評を書き残すことはしてきたつもりだが、今は読み直すのも気恥ずかしい。
このとき自分はゲームライターとしてまだまだ駆け出し始めたばかりの頃であり、『ヘブバン』については認知していたもののノーマークであった。なにせ、選ばれた少女たちが人類の脅威に対抗するため、武器を手に取り戦う......みたいな触れ込みである。
その前年には当時グリーの子会社であったポケラボ(※2025年1月1日にWFSへ統合された)が、『アサルトリリィ Last Bullet』を配信しており、こちらのタイトルも表層的な設定だけをかい摘んで見てみれば、『ヘブバン』と似ている。
というより、ありきたり感があったのは否めなかった。
おまけに筆者はこれまでKey作品に触れてこなかったため、「Key初のRPG」と聞いてもそこまでの衝撃がない。むしろ、Keyであることより“ゆーげん氏のキャラクターデザイン”の方に興味があったほどだ。
ゆーげん氏は『ソフィーのアトリエ ~不思議な本の錬金術士~』以降の4作品「不思議」シリーズから、NOCO氏と共にメインキャラクターデザインを手がけており、それらの作品にのめり込んできたいちプレイヤーとしては大変馴染み深いイラストレーターだった。
ただ、仕事は仕事なので、何かしらニュースにできる情報があれば『ヘブバン』について発信する機会が自ずとやってくる。そんな日常を過ごしている折に、配信後の注目作として、GameWithに依頼されたゲームレビューこそが、いわゆる“ヘブバン沼”へどっぷり浸かっていくキッカケに繋がった。
遊んでみるとKey・麻枝准氏の紡ぐメインシナリオを読み進めたくて、寝る暇も惜しんでプレイしたのを覚えている。ゆーげん氏のキャラクターデザインも自主的にプレイする意欲に繋がったのは間違いない。
麻枝氏の世界観を生きるキャラクターたちは、一見すると想像が及ばないほどにエキセントリック、そして生きる活力に満ちた人物たちばかりだ。そんなキャラクターたちをゆーげん氏は、見事に一人ひとり丁寧に描き分けている。だが、その裏では『ヘブバン』のために自身の絵柄を変えていく必要があったことが、氏から語られている(※YouTube『ヘブンバーンズレッド』新作ゲーム発表会【WRIGHT FLYER STUDIOS × Key】より)
『ヘブバン』は、主人公・茅森月歌のハイテンションがとにかく強烈である。ゲーム冒頭から茅森と和泉ユキによるボケ、ツッコミの応酬が怒涛の勢いで繰り広げられ、プレイヤーは容赦なく置き去りにされる。
しかしその最中、狙い澄ましたかのようにボケの選択肢がゲーム内で提示され、プレイヤーの選択一つで茅森のボケが加速するのだ。それを選んだプレイヤーも、場の空気を乱す茅森の共犯となる。それが遊ぶ側としてはなんだか心地良い。
配信当初はこうした人を選びそうなノリがなんだかんだとユーザーたちに受け入れられていったことに驚いたものだった。某匿名掲示板においても、本作の天丼ギャグ以外、主にストーリーのボリューム感やシナリオの展開、音楽性、フルボイスなどについては高く評価する声が挙がっていたほど。気が付けばプレイヤーたちは皆、麻枝氏の世界観に釘付けになっていたのである。
筆者はスマートフォンゲームであることを忘れてしまうようなのめり込み方をしていき、やがていちプレイヤーとして『ヘブバン』にハマっていく。本作のギャグ描写とシリアス展開がシーソーゲームのようにかわるがわる転調する様子も、フルボイスだからこそよりドラマティックに魅せられる大きな魅力だ。ちなみに天丼ギャグは三週ほど回って、もはや微笑ましく感じられる。なければないで逆に物足りない。
今になって思えば、ここまでストーリーボリュームにバロメーターを振り切った、やたらと手間の掛かるスマートフォンゲームが、英語圏での海外展開までに漕ぎ着けることになるとは誰も予想し得なかったことだろう。おまけに英語版は日本人プレイヤーにとっても馴染みのある、Yostar Gamesというのが大きい。
麻枝氏による、日本向けのローカル過ぎるギャグ描写を英語圏ではどうローカライズしているのか、興味が尽きないところだが、プレイヤーとしては妙に感慨深いものがある。ただ、当時の心残りとしてはこの反響を読み切れなかったGameWithが攻略Wikiを作らず、競合他社のGame8に『ヘブバン』で主導権を握られたことが、関係者として実に残念でならない。
◆『ヘブバン』は口コミ的に広がっていける話題性の“塊”だった
『ヘブバン』が登場した2022年当時、国内のスマートフォン向けタイトルでは『ウマ娘 プリティーダービー』『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』のほか、『Fate/Grand Order』『モンスターストライク』『パズル&ドラゴンズ』などが相変わらず強い時期。
海外タイトルは『原神』『ブルーアーカイブ -Blue Archive-』が特に強力で、この時期から既に多くのプレイヤーたちが触れている。同じスマートフォンRPGの観点で見るとそれらは純粋に競合タイトルだったろうし、素人目から見ても『ヘブバン』の成功は初動だけのもの、そう考える者は少なくなかった。
だが、いざゲームがリリースされてみると、麻枝氏による起伏に富んだ突拍子もないギャグノリや、選択肢における細かすぎる会話分岐、「ドラマチックRPG」の名前に負けていないストーリー体験が、徐々に口コミ的な広がり方を見せていく。
メディアもその話題性から積極的に取り上げるようになり、ヘブバンフォロワーは確実にその数を伸ばしていった。結果的に“初動だけの成功者”では終わらず、近年稀に見る新規IPの成功例として注目を集めた。
サービス開始直後におけるライトフライヤースタジオの動きも素早い。運営は次回アップデートの情報や、ゲームの改善施策、キャンペーンなどの情報発信を絶え間なく行い続けてサポートし、フォロワーをしっかり定着させている。
これはゲームの配信前から実施されている公式生放送「ヘブバン情報局」という情報発信の土台が存在としても大きい。ゲームの配信直後から「ホロライブヘブバンWEEK」と題したVTuberの配信企画も早々に行われていた。
「ヘブバン情報局」は、プロデューサーである柿沼氏に加えて、メインキャストの前川涼子さん、天海由梨奈さんらの3人で進行する公式の情報番組だ。月に2、3回の発信と、運営型タイトルの情報番組にしては異様なペースで実施され、プレイヤーたちにとってもある種のメインコンテンツと化していった。
泣きゲーブランド・Keyの存在感も『ヘブバン』というIPを大いに牽引している。Key作品の古参ファンから、SNSの話題を目にして始めた新規プレイヤーたちが交流する、プレイヤー主導のファンコミュニティが複数誕生。古参と新規が対立することなく、同じ“麻枝准の物語”を触媒にして溶け合った結果、現在の根強く活発なヘブバンプレイヤーの層が凝固して生まれている。
さらにキャラクターやストーリー以外にも“楽曲”が強い。こちらも作詞・作曲を麻枝氏が自身で行っているのは有名な話だ。アーティストにはやなぎなぎ、鈴木このみ&XAIのツインボーカルバンドと、ゲームを構成する副次的な要素にしてはあまりに高い訴求力を持つ。
その麻枝氏の音楽性がコンテンツの柱になっているのは言うまでもない。実際、筆者の友人は楽曲から『ヘブバン』デビューを飾ることになった。しかも、現在では「ライブモード」を経由して多くの作中楽曲をリズムゲームとして遊べてしまう。
ライトフライヤースタジオの間口を広げた幅広いプロモーション展開によって、『ヘブバン』はその存在感を大きく強めていた。
ゲームに内包されている一つひとつの魅力的な要素を、販促するためのファクターとして全面的に打ち出してきている。
推し活需要を狙ったさまざまなキャラクターグッズの販売、人気声優によるラジオ番組、アーティストの「Animelo Summer」出演、コラボカフェや街頭広告...etc。やれることはなんでもやりつつ、ファンコミュニティが盛り上がるような方向性を目指す。
特に近年から続いている推し活需要による効果は、運営型タイトルの『ヘブバン』とも相性が良い。ファンの推し活への熱量を見越し、全47人+1頭もの部隊員キャラクターたちの多彩なグッズ展開を用意する。ゲームではそれら部隊員キャラクターにスポットを当てたコンテンツが毎月登場し、プレイヤーも推しキャラクターをより推せるようなサイクルが続いている。
新キャラクターをほとんど出さず、既存のキャラクターたちを深掘りし続けていくビジネスモデルは、音楽ゲームやアイドルゲームで頻繁に見られるメジャーな手法だ。いわゆる偶像崇拝に通じる、「推し活」を基軸とした“キャラクター商売”である。
麻枝氏のキャラクターたちは皆一筋縄ではいかない奥深さがあって、作中での意外なキャラクター同士の組み合わせが、また新たな推しの魅力を創出していく。その相性の良さに筆者もやられたわけだ。
中でも筆者の推しは「第31X部隊」に所属するロシア出身の「シャルロッタ・スコポフスカヤ(シャロ)」だ。根暗で寂しがり屋でヤンデレで、茅森の正妻ポジションの座をいつも狙っているストーカー気質な少女である。
念願の最高レアリティが実装された際には、それが嬉しくてわざわざ記事化したほど。記事は思いの外反響があり、“Yhaoo!ニュースでライターが暴走している”だとか当時は言われてしまっていたが、それはそれで懐かしい思い出。
その後の第2弾として寄稿した【『ヘブバン』にシャロの季節がやって来た!ヴァンパイアシャロにシャロオンリーのシャロガチャとゲーム内はシャロずくめ。最近のシャロについて語り尽くす】では、シャロの未知なる部分について触れている。それこそ、意外なキャラクター同士の組み合わせで創出された、シャロの新たな魅力に迫る内容だった。
だが、ここで疑問を投げかけて考察した内容について、まさかゲーム側がアンサーを指し示すかのように描写するとは思っておらず、記事公開後とその当該エピソードのタイミングから冷や汗が出たものだった。書き手としては読んでくれた読者に対し、その答え合わせのタイミングになって良かったと、前向きに考えている。
『ヘブバン』は、これまでゲームの魅力と外部への話題性をファンが自主的に併用することで、知らないユーザーへの訴求活動に繋げる好循環を生み出してきた成功例だと思う。たとえばインフルエンサーの投稿や人気Vtuberによる配信企画、TVCMの放映、IPコラボなど。ゆーげん氏も自身のアカウントで積極的に『ヘブバン』のイラストをあげていたのは話題にしやすいポイントだった。
作中ガールズバンド「She is Legend」で人気アニメソング歌手である、鈴木このみさんを起用したのも人への話題に繋げやすい。ただ、こういった施策のほとんどはどこの企業でも話題作りとして行うことから、別段珍しくはないと言える。
ではなぜ、『ヘブバン』は同じようなやり方をしつつも成功できたのか。それはプレイヤーの期待値を超える妥協なきクリエイティビティが、間口を広げた市場戦略に伴っていたから、と勝手に推察している。ライトフライヤースタジオとKeyの真っ当な努力の賜物。
ゲーム以外にもありとあらゆる娯楽が溢れた今の時代、それでも「良いものは良い」と納得して商品を手に取るユーザーは決して少なくない。企業やクリエイターの努力が正しく評価され、今の時代に合った売れ方をしていると思えてならない。
『ヘブバン』の過剰な作り込みは、「他人からおすすめされる」という微妙に触れる気を失くす勧誘が、逆に触れた者にとってギャップを生み出すスパイスでもある。ただ、勧誘するファンも人におすすめされることの微妙な感覚を知っているので、あくまでネタバレは避けつつ、自身が得た感情的な体験や推しの魅力を、世間での話題性と合わせて紹介することで、それとなく知り合いに勧められる。
特に「Angel Beats!」コラボでは、外部への話題性もさることながら、続編が一向に出ないPCゲーム版『Angel Beats!』に代わって、コラボストーリーで「Angel Beats!」キャラクターの過去を掘り下げるパワープレイを見せた。ついにはコラボストーリーの中で、出ない続編について自虐ネタまで披露している。
麻枝氏の大胆さにはいつも恐れ入るが、人におすすめする上でこれほど惹きのある話題の見出しはそうない。知っている人はそれだけで興味をそそられるだろうし、『ヘブバン』はストーリー主体のRPGとして、おすすめされた人の期待値を超えるポテンシャルが高い。
異様なスピード感で幅広いコンテンツ展開と、話題性の確立、根強いフォロワー数を獲得してきたKey&ライトフライヤースタジオの手腕は、評価せざるを得ないところだ。しかもライトフライヤースタジオはKeyの監修と、プレイヤーたちの絶え間ない要望に挟まれ、もみくちゃにされながらも柔軟に応え続けてきた。
モバイルゲームの運営が難しい時代、最初の1年間はどんなタイトルでも、市場に存続できるか否かが問われてくるだろうから、開発チームとしても心休まらない期間だったのではなかろうか。献身的な努力もあってか、Sensor Towerが公開したレポート【2022年日本のモバイルゲーム市場インサイト】では、「収益成長量ランキング」「ダウンロード数成長量ランキング」共に1位を記録した。
また、『ヘブバン』が好調に推移し続けたことはグリーの決算資料でも説明されている。ゲームとしての評価では「Google Play ベスト オブ 2022」を受賞するなどして、大きな実績を残すことに成功している。
ここまで評価され、3周年もゲームが続けられるとは思っていなかったが、プレイヤーならばやはり嬉しい。運営の立ち行かないゲームが増えてくる中、『ヘブバン』は令和における国産新規IPの希少なヒット作だ。
3周年を迎えた現在も新たなプレイヤー層を取り入れるための施策がゲーム内外で続けられている。既存プレイヤーにも嬉しいキャンペーン施策や、TVアニメ「ガールズバンドクライ」作中ガールズバンド「トゲナシトゲアリ」と、『ヘブバン』の「She is Legend」による対バンライブなどは、外部への話題としても大きなトピックだ。
しかしながら、Key作品ではない外部IPとの絡みはこの対バンライブが初めて。これからも熱量の高いファンと新しい試みを掛け合わせることで、口コミ的に広がり続けられるプロモーション展開を続けていくのだろうか。
◆「Angel Beats!」コラボの反響とWFSが提示した“再構築”の影響
配信後の『ヘブバン』にとって新規プレイヤーたちを再び取り入れる大きな転機になったのは、やはり前述した「Angel Beats!」コラボだろう。1周年のタイミングで初めて実施されたコラボレーションは大きな話題を呼び、新規プレイヤーへの訴求には十分だった。
『ヘブバン』プレイヤーの中には「Angel Beats!」を視聴して育った世代がたくさんいる。麻枝氏のファンにとっても思い出の作品として挙げる人が多く、かく言う筆者の周りでも、学生時代は「Angel Beats!」の話題を耳にすることが多々あったくらいだ。
そんなコラボレーションが発表されたのは、1周年記念のリアルイベント「ヘブンバーンズレッド1st Anniversary Party!」だった。当時会場の取材に訪れていた筆者は、「Angel Beats!」コラボのPVが発表された瞬間の会場の反応がいまだに忘れられない。
アニメのオープニング楽曲「My Soul,Your Beats!」のピアノの旋律が響くイントロが始まると、会場のファンは喜びというよりも一瞬困惑していたのだ。それは「嬉しさ」と「驚き」が同時に込み上げてきたからにほかならない反応だった。
映像が進むにつれて会場のボルテージはやがて最高潮に達していき、大歓声となっていく。映像が終わると余程感極まったのか、今度は客席から啜り泣く声まで聞こえてきた。
それほどまでに麻枝氏の作品に対し、並々ならぬ愛着を持ったファンが多いことの証明であった。今ではインターネットやSNSを通して誰もが自由に気持ちや思いを発信できる。しかし、どこの誰でその作品が本当にどれほど好きなのか、テキストや動画配信だけでは伝わりにくいもの。
こうしたリアルの場で人の情緒が大きく揺り動かされる姿を目撃したことで、そういう世界があることを改めて知ることができた。記者としての貴重な経験にもなったし、『ヘブバン』にそれだけの力があることを知っているからこそ、その光景には説得力がある。
コラボストーリー「コスモスが咲き続けた場所」では、茅森率いる「第31A部隊」と、仲村ゆり、立華かなで、入江みゆきら3人の交流を描きつつ、やがて入江の過去へと物語は収束していく。
これまで描かれなかった分、入江の独白パートは特に濃密に描かれており、「Angel Beats!」ファンにとっても満足できるボリュームとなった。ゆーげん氏が描き下ろす「Angel Beats!」のキャラクターたちも『ヘブバン』の世界に調和して溶け込んでおり、コラボレーションで嫌がる“異物感”はない。
コラボによる盛り上がりを見せた後、1.5周年では「再構築」をテーマに、ゲーム全体の遊びやすさを向上させる大型アップデートを行った。運営型のタイトルでこうした施策を行うのは珍しい話ではないが、“1.5周年”と比較的早いタイミングで舵を切ったことが、休眠プレイヤーたちの早期復帰に寄与している。
『ヘブバン』はストーリーを除くとキャラクター育成がゲームの主要コンテンツだ。その育成関連に割く時間が大幅に短縮され、ゲーム進行のフローも大きく改修されることになった。これにより新規プレイヤーはよりストーリーを集中して楽しむことができている。
これまで積み上げてきたものを大きく変化させていくのは、開発チームとして恐らく苦渋の決断だったろう。中にはオミットされた要素も多く含んでいたからだ。だが、ライトフライヤースタジオは私情を呑み込んでプレイヤーファーストな姿勢を貫いたようだった。この頃から目に見えてゲーム内での基本的なキャラクター育成が楽になる。
1.5周年の記念施策と合わせて、新規プレイヤーはここでも増加していた。Sensor Tower公開のレポート【1.5周年を迎えたヘブンバーンズレッド、記念施策が好調でDAUが大きく伸び、ランキングも上昇】では、より詳細なデータが公開されている。いちプレイヤーから見ても人に勧めやすいタイミングであった。
◆WFSの焦りを感じた2年目。『ヘブバン』はRPGであるべきか否か
2周年ではメインストーリー第五章前編と、「Angel Beats!」コラボ第2弾が目玉となった。第五章前編ではついに茅森の過去にスポットが当たる。メインストーリーは毎度相当な開発コストを掛けて制作をしており、情報番組における柿沼氏の口ぶりからは、家庭用ゲームソフトのような作り込み加減であることが伺い知れる。
イベントストーリーを含めて全編フルボイス、かつスタミナ消費なしでメインストーリーを丸々遊べてしまうタイトルは、RPGだとかなり珍しい。そのイベントストーリーもよくあるスピンオフドラマ的なものと言うよりは、ほとんどが“メインストーリー内におけるどこかの時間軸”といったテイスト。といっても、その中には切り口を大きく変えたIF展開のイベントストーリーも見られる。
コラボストーリー以外は基本的にゲーム内にアーカイブされ、いつでも過去のイベントストーリーを楽しむことができる。しかも当時取れなかったイベント報酬まで回収できる親切設計だ。
メインストーリーの開発が進められている期間中は、こうしたイベントストーリーが毎月配信されていき、他部隊の日常やキャラクターの過去を深掘りしていくというのが主な流れとなっている。
追加されるメインストーリーのリリースに時間が掛かっていることは、これまでも情報番組の中で度々触れられてきた。それについて批判的なユーザーもいる一方、気長に待つユーザーもいる。
市場に出回る多くのスマートフォンゲームタイトルは、アップデートの度に少しずつ物語が進行していく。しかし、『ヘブバン』はほとんどの場合、メインストーリーにひとつの区切りを付けるところまで1度に実装する。
結果、ストーリー体験を損なわないための方針が、プレイヤーを待たせてしまっているという状況が生まれた。ただし、メインストーリーを少しずつ小出しにされる方が、『ヘブバン』の物語の魅力は薄まってしまう。
長い時間をかけて熟成されたひとつのコンテンツを、配信直後に集中して駆け抜けた方がストーリー体験は確実に濃密。確かにプレイヤーたちがメインストーリーを渇望するのも頷けるが、ぶつ切りではドラマ性が弱まるだろうから悩ましい。
やがてプレイヤーの反応を気にし過ぎたのか、結局ライトフライヤースタジオは第五章中編をPart1、Part2と分けてしまった。その間もイベントストーリーや「Angel Beats!」コラボ第3弾、サイドストーリーの側面を持った「制圧戦」を配信してきたが、第五章中編のPart1、Part2をプレイした上で言わせてもらうならば、やはり勿体無いと感じてしまった。
Part1、Part2は前編・後編ではなく、ボリューム感で言えばプロローグと本編のような分け方で違和感こそ少ない。が、だからこそ一つにまとめてさえいれば、よりまとまったシナリオボリュームとして楽しめたはずである。Part1プレイ後は次が楽しみになるよりも「え、これで終わり?」と、素で声が出てしまっていたくらいだ。流石にこれは、ライトフライヤースタジオの焦りを感じた瞬間であった。
リリースが遅れることについての批判的な声の中には、開発工数がかかりそうな3D探索パートや、RPGの戦闘部分をオミットして、アドベンチャーパートだけを楽しみたいとする声もある。その理屈自体は理解できるが、それは『ヘブバン』の進化と発展、ライトフライヤースタジオの挑戦と理念を軽視している意見だと思ってしまう。
運営型タイトルなのに家庭用ゲーム機向けRPGに近いプレイフィールを誇る『ヘブバン』だが、そこには同じライトフライヤースタジオのタイトル『アナザーエデン 時空を超える猫』のDNAを随所で感じ取ることができる。この作品もまた腰を据えて遊べるスマートフォンRPGとして知られており、『ヘブバン』が大きく評価されているポイントには、そうした既存作で積み上げている影響も大きい。
3D探索パートは操作性の部分でまだ改善する余地があるものの、作中の世界観を3Dのロケーションで密に表現することが、結果的に章のクライマックスで登場するハブキャンサーの超常的な特性や、キャンサーたちの無機質な恐怖感、あるいは人類にとって脅威である存在を再認識させることに一役買っている。
プレイヤーが茅森を操作して、キャンサーの影響を強く受けたエリアを歩き回ることが、ストーリーにおいても“いつ誰が死亡するか分からない”決死の戦いの緊張感を引き立てている。なので、少なくとも筆者は開発に時間がかかったとしても、3D探索パートで重要局面を描写してあげる必要がある、と良き方向に考えている側だ。
それに『ヘブバン』プレイヤーたちはストーリーだけを語らない。新スタイルの性能、スコアアタックの感想、キャラクターの2Dイラストや3Dモデル、新楽曲にライブモードのクリア報告、声優陣に関することから柿沼氏の年中半袖姿についてまで、ゲーム内外問わず多彩なのだ。
基本無料のスマートフォンアプリゲームだからこそ、幅広い層のプレイヤー同士がさまざまな要素で自分なりに作品について語り合える。これらの多くが開発を行うライトフライヤースタジオのRPGづくりの中で付帯していった魅力要素だったろうし、遊びやすいRPGだからこそプレイし始めたユーザーは多い。ゆえにRPG要素は必要不可欠な売り文句である。
そして、ライトフライヤースタジオはコーポレートサイトにおいて「新しいゲーム体験を生み出すこと。」「多くの人に楽しんでもらえるものを作ること。」「クオリティに妥協せず、最高のゲームを生み出すこと。」と、これら3つを掲げている。
同社のモノづくりにおける姿勢は『ヘブバン』で大いに発揮されて、やがてプレイヤーたちにも評価されるに至った。ゲーム開発の姿勢はそもそもここからブレていないし、Key側も妥協しないライトフライヤースタジオだからこそ、『ヘブバン』を託しているはず。これらがなければライトフライヤースタジオとKeyの化学反応は起こり得なかったろうし、今ほどのヒットに繋がったかどうか、大きな疑問が残るところだ。
筆者自身も本作をRPGとして楽しみ、自分のパーティ編成を育て上げてメインストーリー第二章、第四章後編と続き、第五章前編でも、麻枝氏の楽曲に乗せたシナリオ運びで涙腺を滲ませてきた。その感触自体は心地良いものだし、ストーリーもしっかり面白い。物語の続きが読みたくて、戦闘部分を煩雑に感じることもなくはないが、天塩にかけて育てたキャラクターたちと物語を歩めるからこそ、一層ゲームとして楽しめている。
ゲームライターは日々ゲームの最新情報に触れ、ゲームを遊び、ゲームを分析し、ゲームについてアウトプットする。まさしくゲーム三昧な日常ではあるが、それが仕事になると、別に趣味の時間を設けなければ、他のサブカルチャーに触れている時間がない。
自分の話で言えば、感動的な映画やアニメーションは基本見ないし、評判のノベルゲームはいつも途中で辞めてしまう。だが、『ヘブバン』ならばRPGを遊べて、ストーリーも良い感じの起伏と共に楽しめる。あと泣ける。
泣くことがめっきりと減った最近では、唯一『ヘブバン』に泣かせてもらうことで、心の濁りを洗い出すような生活。そんなRPGとアドベンチャーの掛け合わせを濃密に楽しめている自分は『ヘブバン』に魅了されている証明になれているだろうか。
『ヘブバン』の2.5周年までには、実に色々なことがあった。筆者は単にプレイヤーとして『ヘブバン』が好きなわけだが、なんだかんだそれが公式の取材以外で仕事に繋がることが増えてきたのだ。
2.5周年を控えている頃、作中のシネマティックを担当したStealthWorks(ステルスワークス)の米岡氏とSNSでやんわりと繋がり、そこから同じく『ヘブバン』で米岡氏と繋がっていた高校生のインタビュー企画が動いた、なんてこともある。
筆者は仕事で『ヘブバン』の周年イベントの取材に出かけて、ほんのたまにSNSで『ヘブバン』について呟く程度だ。だが今になって振り返ると、自分の記者キャリアの中にはいつも『ヘブバン』という存在がいた。
ゆーげん氏のイラスト投稿を記事化したときは、本人がSNSで拡散してくれたのが嬉しかった。だが、ファンの自分と記者の自分は明確に分けなくてはならない。有名イラストレーターや声優陣へのインタビューをしたとき、サインをねだりたくなる気持ちは押し殺す。それが大人というもの。
ゲームライターとして大きく成長させてくれたのは、厳密に言うと他のタイトルだが、自分にとっては今や『ヘブバン』も欠かすことができないゲームである。2.5周年はそんな感謝と共に、ゲーム内のキャンペーン施策でたっぷりと楽しませてもらっていた。
◆やっと来た第五章中編 Part2。これからの『ヘブバン』はどんな話題を生み出すのか
2月21日にはついにメインストーリー第五章中編のPart2がリリースを迎えた。この日を待ち望んでいたプレイヤーは多い。もう少し時間を遡ってみると、2月9日には制圧戦の後編が配信されていて、期間限定ピックアップキャラクターの七瀬七海が実装されている。セラフ部隊員ではなく司令部所属の七瀬は、武器のセラフを扱うことができないため、専用の乗り物であるフロートバイクに跨って戦う。
七瀬は淡々とした物言いで、軍の業務を日々真面目にこなしているキャラクターなのだが、顔色ひとつ変えず淡々とボケもかますシュールさ加減がユニークで、キャラクター人気は非常に高い。「ヘブバン人気投票」ではプレイアブルキャラクターではないのに、2023年度、2024年度ともに上位入賞を果たすほどの人気ぶりだった。
3部にわたって実装された制圧戦では七瀬が茅森たちに同行し、フロートバイクで任務をサポートする。また、このコンテンツでは七瀬の過去についても掘り下げられていく。
「ヘブンバーンズレッド3rd Anniversary Party!」の中で、七瀬のプレイアブル化は大いに盛り上がった発表だが、タイミングなどから何となく予想していたプレイヤーもいたようだ。司令部のキャラクターで戦うことができるのは七瀬だけでないため、今回の実装を機に、他の司令部キャラクターに期待を寄せているプレイヤーたちもいる。
これから『ヘブバン』は4周年に向けて動いていくことになる。プレイヤーたちの知らないところで、さまざまな企画や展開がすでに動いているだろうし、それを予想するのもプレイヤーたちの楽しみだ。大きく期待されているのは、他のKey作品とのコラボだったり、TVアニメ化の話だったりだろうか。
メインストーリーも第五章後編がこれから実装されていく。早速、第五章中編のPart2を夜通しプレイして、今回も感情が置いていかれるような心持ちでエンディングを迎えた。ようやく五章に区切りが付くと思うと、物語自体が着々と完結に向けて動いている気がしてならない。プレイヤーたちの間では、ゆーげん氏の描くキービジュアルから、あらゆる予想が立てられているが、果たして麻枝氏は今後どんな方向性にシナリオを転がしていくのか。
ここまで長々と好き放題に書いてきたが、特に誰かに依頼されたわけでもなく、たまにはこういうチャレンジをしても良いだろうと思い立ち、筆を好き放題に走らせてみた次第。今後も自身のキャリアの中でまた『ヘブバン』に関連した新しいチャレンジができたらこれほど嬉しいことはない。
そういえば、昨年末はお酒の勢いでGAME Watch編集部員に『ヘブバン』を激推しするなんて一幕があった。別に仕事に繋げようとかは考えておらず、その編集部員がたまたま『ヘブバン』を少し遊んでいただけの話ではあるが。何はともあれ、今後もプレイヤーとして『ヘブバン』との距離を縮めていきながら、まったり推しであるシャロを育成していこうと思う。ゲームライターとしても『ヘブバン』ファンとしても、末永く楽しんでいきたいものである。
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