『アトリエ』シリーズ最新作『ユミアのアトリエ ~追憶の錬金術士と幻創の地~(以下、『ユミア』)』が3月21日にリリースされて数か月経ち、クリアしたプレイヤーもいるのではないしょうか?

「「次世代のアトリエ」を目標に、様々な変化と進化に挑戦した作品です」と公式X(旧Twitter)で投稿されているように、シリーズとして新たな要素を盛り込んだ本作は、SNSなどで“アトリエらしくない”との声がひそかに上がっています。

そこで本稿では、本作をトロフィーコンプリートまでプレイし、『トトリのアトリエ』から本作までシリーズ作品のプレイ経験がある筆者が、3つの観点からその“アトリエらしくない”理由を考察します。


◆シリーズ最大の醍醐味「調合」システムがシンプル
シリーズ通して最大の特徴・醍醐味といえるのが、錬金術でアイテムを作り出す「調合」です。そのシステムは作品毎に異なり『ライザのアトリエ』シリーズ(以下、『ライザ』)ではリンケージ調合が魅力でした。

そして、筆者が個人的に考える“アトリエらしい”調合システムが『ソフィーのアトリエ ~不思議な本の錬金術士~(以下、『ソフィー』)』からはじまる『不思議』シリーズです。

この『不思議』シリーズでは、「パネル調合」と呼ばれるシステムで錬金術を行います。素材それぞれに持つピースを選択し、その組み合わせをどのような場所・順番ではめ込んでいくかが重要で、シンプルかつ奥深いパズル性が特徴的でした。

パズル形式なので視覚的にも分かりやすく、能力を高めるパネルやピースを置くのに邪魔となるギミックが施されていることもあり、強力なアイテムを作るために頭を悩ませていました。

序盤は錬金術師として未熟なキャラクターはもちろん、プレイヤーもシステムをよく把握できないためアイテムを上手く作成できません。しかし、物語を進めてキャラクターが成長すると共に、プレイヤー自身が悩みながらアイテムを調合することで理解が深まり、強力なアイテムが作れるようになっていきます。

このパズル調合で体験できる「最初は理解できないけどキャラクターの成長とともに錬金術が上達する」がアトリエシリーズの醍醐味であり、面白さの根幹を成すものです。

一方『ユミア』の調合は、材料を投入しながらマナ・共鳴の数値を高めていくことで、作成するアイテムの特性を発現・強化、品質の向上していくというシステム。過去シリーズと比べてもかなりシンプルで分かりやすいがゆえに、プレイ中はアイテム作成で悩むことはありません。

さらに、アイテム作成にはレベルキャップがあるので、効率良く調合しようとするためにはこの制限を解く必要が出てきます。
その方法はいくつかありますが、メインとなるのは「残響片」を集めること。フィールド上に出現するマナ間欠泉やマナ間欠晶を調べることで入手することができるものの、見つからないときは全然見つかりません。

もうひとつはスキルによって解放する方法です。しかし、こちらはポイント消費でスキルを大量に獲得しなければならず、解放できるのはストーリークリア後。調合するアイテムが多数あるなか「残響片」を必要とせずに済む有用なスキルですが物語中で利用することはなく、「ユミアとともに成長」していく“アトリエらしさ”は感じられませんでした。

『ソフィー』を始めとした過去シリーズでは、錬金術によるアイテム作成の奥深さに頭を悩ませることで“アトリエらしさ”を成しています。しかし、『ユミア』の調合システムは簡単で分かりやすい反面、錬金術でアイテムを作成する際の悩む時間がありませんでした。シリーズ未経験者には遊びやすくなっていますが、シリーズ経験者にとっては物足りなく、“アトリエらしさ”がなくなっています。

ただ『ユミア』は爆発的に名が広まった『ライザ』に続く新作。『ユミア』から初めてシリーズを遊ぶ新規ユーザーにとっては、調合がシンプルになることで「取っつきやすくなる」というメリットもあるのではないでしょうか?

◆オープンワールドで探索、アクション要素が強い戦闘は楽しいが…
本作は、過去作から大きく変わってオープンワールド化し、広大なフィールドを探索することがウリ。さらに、戦闘は過去シリーズと比べてもアクション要素が強くなっており、非常に面白いものになっています。しかし、これらの面白さが逆に“アトリエらしさ”を希薄にさせる要因となっていました。


とにかくマップが広大な『ユミア』は、進めば進むほど景色も変わり入手できる素材の種類も変わるので、フィールドの要素が強め。

道中にはアイテム作成に必要なレシピの入った宝箱や、パズルなど解いてスキルを解放できるアイテムを入手できる「祈念の社」など、ゲーム進行のために探索をこなさなければならない部分もあります。

さらに、今作では自分好みの空間を作ることができる「ハウジング」があります。ただ、この要素は力を入れなくとも物語の攻略自体は可能です。そのため調合やストーリーを楽しみたい筆者は常に野ざらしのアトリエにしていました。

これらの要素はしっかり遊ぶと面白いものの、とにかく時間がかかるのでアトリエの醍醐味である調合がおざなりになってしまっています。

次に戦闘について。本作の戦闘はリアルタイムで進行し、アクション性のあるシステムが特徴的。攻撃モーションやエフェクト、ジャストガードなど楽しめる要素が多くあります。そんな中で、筆者が気になったのは“回避が強すぎる”点です。

本作において敵の攻撃は演出や音によってある程度対応できるため、回避が容易で戦闘が長引いても勝てることがあります。

一方、過去作ではほとんどの作品がターン制となっており、装備やアイテムを駆使して敵を倒す必要があります。
作品によっては適当に作成したアイテム・装備では勝てない敵もおり 、その度に悩んで調合に向き合う時間に錬金術師を主人公とする“『アトリエ』シリーズらしさ”を感じさせます。

もちろん、本作でも弱い装備・アイテムのままでは厳しい戦いが多くなりますが、そこそこのアイテム用意すれば強い敵でも操作によってどうにかなってしまうため、調合でゲームを有利に進める“アトリエらしさ”が希薄になっていたのではないでしょうか?

◆「世界を救うのはもうやめた」とは離れた王道ストーリー
本作は、錬金術によって発展したアラディス帝国が謎の天変地異によって滅び、その数百年後、錬金術が「悪」であり「禁忌」となった時代に、錬金術士「ユミア・リースフェルト」がその真実を求めて旅をするというストーリー。

序盤から錬金術を否定され、禁忌となった理由が進むごとに解き明かされていくので、調合することにどこか後ろめたさを感じます。とはいえ、主人公が錬金術について考えて向き合う姿は“アトリエらしさ”があると思います。

では、なぜ「アトリエらしさが無い」と言われるのか。それはシリーズで有名なキャッチコピー「世界を救うのはもうやめた」があるからでしょう。

これはシリーズ1作目にして原点となる『マリーのアトリエ』のもの。『マリーのアトリエ』 は従来のRPGみたいな世界を救うことはせずに、落ちこぼれの学生マリーがアカデミー卒業のために錬金術のアトリエを運営します。

ストーリーについては作品によって異なるので一概に“アトリエらしさ”を述べることはできませんが、ファンの間では「スローライフRPG」のイメージが強いシリーズ。

対して『ユミア』では、失われた歴史を追うために旅をし、その道中で“ある目的” のために暗躍するヴィランと対峙し戦う、シリーズにしては王道すぎるほどのRPGです。

スローライフをイメージしてプレイするとそのギャップから“アトリエらしくない”と感じたプレイヤーもいたのではないでしょうか?

◆まとめ(総評)
さて、ここまで「調合システム」「探索・戦闘」「ストーリー」の3つのポイントから本作と『アトリエ』シリーズについて比較してきました。以上を踏まえると、“アトリエらしさ”とはプレイヤーが「錬金術と向き合えるか」であると筆者は考えます。


「錬金術と向き合えるか」は、プレイヤーが「調合」システムを理解し、強敵を倒すなど目的のために頭を悩ませながらアイテム作成する過程を体験すると共に、ストーリー中にキャラクターが錬金術を通じて成長していく姿を見ることです。

『ユミア』は、主人公が成長していく姿を見ることができたものの、過去シリーズと比べても「調合システム」に奥深さをあまり感じられなかったため、プレイヤーとしては錬金術に向き合うことができませんでした。

一方で、そんな“アトリエらしくない”「探索・戦闘」「ストーリー」要素には光るものがあります。オープンワールドでの探索や、アクション性が増した戦闘は面白く、失われた歴史を追うストーリーにもマッチしていました。過去シリーズと比べて、王道のRPGとして魅力がある作品です。

「次世代のアトリエ」を目標にした本作。『アトリエ』シリーズはシステムが難しそうと考えている未経験の方や、王道JRPGが大好きという人にはオススメの作品に仕上がっているので、ぜひプレイしてみてはいかがでしょうか?
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