“国民的RPG”と呼ばれることも多い人気作の記念すべき1作目であり、シリーズと同名の『ドラゴンクエスト』が、本日5月27日に39周年を迎えました。

ファミコン版『ドラゴンクエスト』は1986年5月27日に発売され、以降ナンバリング作品だけでも11作品が登場。
現在は、シリーズ最新作『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』や、1作目と2作目をリメイクした『HD-2D版 ドラゴンクエストI&II』が開発中です。

昭和から令和まで、時代を問わず活躍を続けてきた『ドラクエ』シリーズは、作品が魅力的なだけでなく、RPGというジャンルを牽引する役目も果たしてきました。特に、黎明期のファミコン時代は、『ドラクエ』の活躍がゲーム業界に大きな影響を与えています。

40年目に突入した『ドラクエ』が、ファミコン時代にどんな役割を果たしたのか。アニバーサリーを記念し、『ドラクエ』の足跡と功績に迫ります。

■『ドラクエ』以前のRPG事情
シリーズ1作目の『ドラゴンクエスト』が発売されたのは、ファミコンが登場してからまだ2年も経っていない頃です。当時はアクションやSTGの人気が高く、ファミコン向けのRPGは『ドルアーガの塔』(1985年8月6日発売)や『ハイドライド・スペシャル』(1986年3月18日発売)といったアクションRPGがあった程度でした。

『ドラゴンクエスト』の発売前は、ターン制RPGの人気がなかった……と思われるかもしれませんが、正確に言えば事情は少々異なります。それまでファミコンには、アクション要素などが絡まない“純正のRPG”は1本も出ておらず、「人気がなかった」のではなく「存在していなかった」のです。

もちろん、ゲーム業界の中にはRPG作品がいくつもありました。コンピュータRPGの源流とも呼ばれている『ウィザードリィ』や『ウルティマ』といった作品も、すでに国内に入ってきています。

ただし、当時『ウィザードリィ』などを遊べたのは、PCユーザーだけでした(ファミコン版は1987年12月22日発売)。
そしてPC自体の普及もまだまだ途上だったため、国内でRPGを遊んでいた人は一握り。ファミコンユーザーにとってRPGは、まったく馴染みのないジャンルだったのです。

■『ドラゴンクエスト』:1986年5月27日発売
RPGがないファミコン市場に踏み込んだ『ドラゴンクエスト』が人気を博したのは、ゲーム自体の魅力もさることながら、RPGの基本的な面白さをシンプルかつ丁寧に伝えた点にあります。

その好例と言える展開が、ゲームを始めた直後に訪れます。プレイヤーは玉座がある部屋からスタートしますが、扉は施錠されていて開きません。近くにある宝箱を調べれば「鍵」が手に入り、そのアイテムを使うことで扉が開いて外に出られます。

この工程には、「進行を阻むギミックがある」「乗り越えるには一定の条件が必要」「条件をクリアすると先に進める」という、RPGの基本とも言うべき要素が詰まっています。つまり、部屋から出る流れを通して、この先に待ち受ける困難を乗り越えるフォーマットを学ばせる仕組みになっているのです。

一言でまとめてしまえば、簡易的なチュートリアルと言えるでしょう。しかし、当時のゲームは「説明書を読んでから始める」という流れが一般的だったため、チュートリアルという概念はほとんどありませんでした。

「説明書を読んで理解しろ」と突き放すことは簡単ですが、RPGというファミコンユーザーにとって未知のジャンルを伝えるにはそれだけでは足りないと考え、この時代にチュートリアルを実装した先見の明は見事と言うほかありません。

また、『ウィザードリィ』など複数のキャラクターを編成するパーティプレイはすでに存在していましたが、『ドラゴンクエスト』は勇者が最後までひとりきりで戦います。
キャラを増やせば戦略性は増しますが、必然的に複雑化も免れません。

RPG初体験のファミコンユーザーに過多な情報を与えず、RPGの面白さをシンプルにまとめた『ドラゴンクエスト』の引き算がなければ、RPGの面白さを知る前に脱落した人が増えたことでしょう。

■『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』:1987年1月26日発売
『ドラゴンクエスト』が丁寧かつシンプルに、RPGの基本と魅力を伝えました。その発売から数えて約8ヶ月後、続編の『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』がリリースされました。

このリリースの早さも、RPGに初めて触れたユーザーには嬉しいポイントでした。『ドラゴンクエスト』でRPGの面白さを知ったら、次の作品を遊びたくなるのは自然な流れです。わずか8ヶ月後なら、まだ1作目の興奮や思い出も色濃いことでしょう。その気持ちのまま、『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』が遊べたのは実に幸せな話です。

そして本作では、シリーズ初のパーティープレイを提供しました。武芸に優れており、装備できる武具も多いローレシアの王子、武器攻撃とじゅもんを両立するサマルトリアの王子、防御面は心もとないものの、強力なじゅもんを使いこなす「ムーンブルクの王女」と、役割がそれぞれ明確です。

味方だけでなく敵も複数登場するため、仲間同士の連携は非常に重要です。仲間たちは得意とする面だけでなく、それぞれ弱みもあるため、どのように補い合うか。
1作目にはなかった戦略性が、RPGの奥深さを伝えてくれます。その一方で、パーティ編成は固定されており、1作目にもあった情報量の調整が本作でも感じられます。

また、広がりを見せたのは仲間の存在だけではありません。1作目は徒歩と「ルーラ」だけが移動手段でしたが、本作では新たに「船」が登場します。これにより、繋がりのない大陸や島々にも移動できるようになり、冒険の幅も大きく広がりました。

パーティープレイと冒険の拡大を味わい、RPGには予想を超える可能性があることを、『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』を通して多くのファミコンユーザーが知ったことでしょう。

■『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』:1988年2月10日発売
1作目でRPGを知り、2作目でRPGの広がりを知ったファミコンユーザーは、その熱意を『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』に向け、社会現象になるほどの大ヒットに繋がりました。

『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』発売日当日には、各ショップに長大の列が作られ、その盛り上がりはニュースや新聞で取り上げられたほどです。1作目と2作目だけで、すでにRPGの面白さは日本中に広まっており、その人気と関心が一気に爆発した瞬間でした。

これだけの期待を集めた『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』は、その想いに応える出来映えで登場し、多くのユーザーを魅了します。シリーズ屈指の名作として語る人が今も絶えないほどです。

特に、本作で初めて自由なパーティー編成が可能となった点は、驚きと賞賛をもって迎えられました。
勇者だけは必須ながら、残り3人の構成を任意で選べるようになり、そのバリエーションはユーザーによって様々。編成だけで話が大いに盛り上がるほどでした。

『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』では、3人編成でバトルにおける選択肢が増えました。そして『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』では、編成が自由になったことで目的地に向かう道中の選択肢も増し、RPGの面白さが一層広がったと言えるでしょう。

またゲームに慣れてくると、敢えて仲間を連れず、勇者の一人旅を楽しむ人も出始めます。『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』でも、仲間を蘇生させずに疑似的な一人旅に挑むことは可能でしたが、こうしたプレイをユーザーが自分の意志で選択できる点も、『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』が示したRPGにおける面白さのひとつでしょう。

しかも本作は、シリーズ初の「転職」も実装。このシステムのおかげで、パーティー構成の選択肢が膨大なものになりました。この時に、キャラクターをどうやって強化するか、その試行錯誤を楽しむ「育成」の面白さに目覚めた人も多いはず。

シンプルに、そして丁寧にRPGの核となる部分を伝えた『ドラゴンクエスト』。RPGの広がりと可能性を示した『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』。そして『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』ではRPGの自由さを提示し、ユーザーに新たな世界を提供したのです。


■“RPG”をチュートリアルした『ドラクエI・II・III』
まだRPGを知らないファミコンユーザーに超本格的なRPGを用意しても、理解が追い付く前に挫折したり、面白さを感じられずに挫折したかもしれません。

そして『ドラクエ』は、情報量を抑えた基本的な1作目、面白さを肉付けした2作目、冒険の楽しさを広げた3作目と、作品ごとにRPGの奥深さを段階的に、そして丁寧に伝えていきました。まるで、“RPGそのもの”を教えるチュートリアルのように。

3作品かけて行った壮大な“RPGのチュートリアル”は見事に功を奏し、一大ブームを巻き起こすほどの反響を得ました。もはやRPGは“未知”ではなくなり、多くのユーザーが熱狂する人気ジャンルへと変貌したのです。

『ドラクエ』は作品の面白さに加え、RPGの伝道師ともいえる役割を自ら担い、見事に果たしたと言っても過言ではないでしょう。その功績がなければ、現在のゲーム業界は少し違った形になっていたかもしれません。

■『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』:1990年2月11日発売
この偉大な功績は、初代から3作目を区切りとして語られることもありますが、個人的にはファミコン最後の『ドラクエ』となった『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』も、RPGの伝道師という役目の一端を担ったと考えています。

『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』は、前作で提示した「自由なパーティ編成」を一部変更し、仲間のキャラメイク要素を省略しました。パーティ編成は変えられるものの、仲間になるキャラは変更できず、決まったメンバーの中から選ぶ形です。

自由度という点では、逆に下がった感も否めません。しかし、それはただ不自由になっただけではなく、引き換えにして深い物語性を獲得したためです。


仲間になるキャラクターは章ごとに主人公を務め、冒険に出る背景や経緯が詳しく語られました。自らの立場から魔物に立ち向かう者もいれば、仇を討つための復讐として立ち上がった者もおり、その事情は千差万別です。

主人公となる勇者自身も、過去作では旅立ちがシンプルに描かれた程度でした。しかし本作では、生まれ育った村が魔物に襲われ、幼馴染との別れも経験する辛い経緯が描かれます。勇者の旅立ちをここまで丁寧に描いたのは、シリーズで初めてのことです。

こうした作り込みを通じて、キャラクターと物語を密接に結びつけ、豊かで深みのある物語をRPGで味わうことができる──という魅力を、『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』が明確に示してくれました。

もちろん、RPGの伝道師という役目を果たしたのは、『ドラクエ』だけの手柄ではないでしょう。ほかの作品がRPGの楽しさを広げた部分もありますし、『ドラクエ』よりも先に物語性を重視した作品も複数存在します。

しかし、そうした作品が生まれる土壌をファミコン市場で切り拓いたのは、『ドラクエ』に他なりません。そして、『ドラクエ』を含めた様々な作品が影響し合う環境が生まれ、RPGというジャンルが日本中に浸透していきました。

『ドラゴンクエスト』の発売から39年が経ち、今もまたRPGの楽しさを伝え続けてくれる『ドラクエ』。40年目の活躍にも、大いに期待しましょう。
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