海外では『ウルティマ』『ウィザードリィ』が、国内では『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』がきっかけとなり、コンピュータゲームにおけるRPGというジャンルに火が点きました。
以後もRPGは更なる躍進を遂げ、多彩な展開を遂げていきます。
そんなRPGを力強く牽引するメーカーのひとつとして存在感を放つアトラスは、現代を舞台に神や悪魔の台頭を盛り込んだ『真・女神転生』シリーズや、戦略性を高めた『グローランサー』シリーズ、歯応えのあるバランスと手書きによるマップ作成が好評を博した『世界樹の迷宮』シリーズなど、数多くのRPGシリーズを展開。
特に『真・女神転生』シリーズは、ナンバリングを重ねるだけでなく、『デビルサマナー』や『デビルサバイバー』といった派生作を生み出すほどの活躍を遂げ、特に『ペルソナ』シリーズは一際高い注目度と人気を誇っています。
多くのユーザーが長らく待ち望んでいたシリーズ最新作『ペルソナ5』ですが、念願の発売日が先日明らかになりました。9月15日を、今から待ち遠しく思う方も多いことでしょう。シリーズ最新作という点だけでなく、RPGとしての『ペルソナ』シリーズ初となるPS4/PS3進出に期待が膨らむばかりです。
同社のHDタイトルと言えば、『キャサリン』が思い起こされます。『キャサリン』はアクションパズルなので、ゲームシステムの面ではかけ離れており、また主人公たちの年齢層も『ペルソナ』シリーズと比べるとひとつ上の世代。ですが、現代を舞台にポップな明るさと深刻な内面を融合させて描く手法には共通点も感じられ、進化した演出なども含め『キャサリン』を通して新たな『ペルソナ』に想いを馳せた方もいることと思います。
そんな『キャサリン』が登場したのは2011年。あれから5年の月日が流れ、アトラスは『ペルソナ5』に向けていかなる進化をどのように遂げたのか。
同社が開発を手がけ、2015年12月26日に任天堂から発売されたWii Uソフト『幻影異聞録 #FE』は、シリーズ初代の『女神異聞録ペルソナ』を連想させるタイトルとなっており、ゲームそのものも随所に『ペルソナ』らしさを感じさせる出来映えです。
また内容も、RPGとしての進化などをしっかりと感じる手応えに満ちていました。そんな『幻影異聞録 #FE』の魅力に触れると共に『ペルソナ』らしさにも踏み込み、アトラスが生み出す「今」と「未来」のRPGに想いを馳せたいと思います。
◆『幻影異聞録 #FE』に至るまでの道のり
本作の初報は、2013年1月に登場。『キャサリン』リリースから1年以上が経過していますが、今から3年以上も前。「真・女神転生 meets ファイアーエムブレム」として発表され、この時点では『真・女神転生』の色合いが強いような印象を受けましたが、2015年4月に正式タイトルとして『幻影異聞録 #FE』が明らかに。
またこの時に、現代を舞台に少年少女たちが活躍することや、コマンドバトルでのRPGといった要素の数々を感じ取れる映像がお披露目。異質な存在を相手にしながらも、その雰囲気はポップで華やかさがあり、『ペルソナ3』以降で見られるような彩り豊かなデザインが早くも感じられます。
『ファイアーエムブレム』(以下、FE)とのコラボレーションなので、一部のユーザーからは「数多くのキャラクターが登場するシミュレーションRPGになるのでは」といった予測もありましたが、『FE』のキャラクター達のほとんどは、主人公・樹やその仲間たちに力を与える「ミラージュ」として登場。その姿も原作とは違って異形の様相を呈しており、人ならざる存在が主人公たちの傍に立つ様子も、『ペルソナ』を思わせます。
しかし『幻影異聞録 #FE』に盛り込まれた「ペルソナ」らしさは、決して見た目だけの話ではなく、もちろん中身にも及んでいました。
◆舞台は「東京」
『幻影異聞録 #FE』の物語は、東京が舞台。本作での力の源「パフォーマ」は、表現力の高さに比例するもの。そのため、歌唱や作曲、演技など、自己表現能力に優れている人間ほど「パフォーマ」が高い傾向にあります。
異世界から訪れるミラージュたちは、「パフォーマ」を狙ってこの世界に訪れます。そんなミラージュたちに対抗する面々は、必然的に「パフォーマ」の高さが求められるため、芸能界で活躍する歌手や俳優などが立ち向かうという展開に。もちろんこの攻防は一部の人間にしか知られておらず、人知れず戦う姿も『ペルソナ』との共通点と言えるかもしれません。
芸能界に属するキャラが中心となるため、舞台が東京になるのも当然の話でしょう。店舗などはオリジナルのものですが、渋谷や原宿などの街並みを模したフィールドも用意されており、渋谷駅前の交差点なども再現。都会が舞台のRPGもいくつかありますが、その中でも有数の出来映えだと感じました。
至近の『ペルソナ』シリーズとなる『3』と『4』の舞台は、東京の中心部ではなく、特に前作の舞台となった稲羽市は、地方色の色濃い町でした。ですが『ペルソナ5』の舞台は、奇しくも東京。
◆少年少女の成長に迫る物語
「パフォーマ」を求めて侵略してくるミラージュと戦う樹たち。そんな樹達に、クロムを始めとする異世界の英雄達が力を貸し、この世界の崩壊を阻むために立ち向かうといった物語が、『幻影異聞録 #FE』で描かれます。
この主軸の物語は、世界を守る主人公たちvs異世界の侵攻、という構図になっており、凄く単純に語るならば、善と悪の対決とも言えます。これは、複雑な人間関係こそあるものの、強大な敵国と対峙することが多い『FE』シリーズの構造を踏まえたのかもしれません。特に終盤に関しては、ガーネフが登場し悪辣な罠を仕掛けたり、試練としてジェイガンらが立ちはだかったりと、『FE』ファンの胸を打つ展開の数々が。物語面でも見事に、『FE』とのコラボレーションを成功させています。
一方『ペルソナ』シリーズは、こちらも多くの人々を救う物語とはなりますが、敵対する存在が純粋な「悪」とは言い切れません。無論、悪と断じても問題のないキャラクターもいますが、「悪」よりも「人の弱さ」が発端となるものも少なくなく、また主人公たちも迷いや悩み、過去のトラウマなどを引きずっており、心の暗部をさらけ出します。
『幻影異聞録 #FE』の主軸は、王道的な物語が綴られます。その点を踏まえると、ストーリー面で『ペルソナ』シリーズの面影を見ることは難しそうに思えますが、しかし『幻影異聞録 #FE』では同時に、少年少女たちの成長物語も紡がれています。
ヒロインの織部つばさは、本作の序盤で新人アイドルとしてのデビューを果たします。そんな彼女をサポートするため、またミラージュとの戦いのため、樹もつばさと共に、芸能界に関わる形に。そして、歌手の黒乃霧亜やハリウッド女優を目指す弓弦エレオノーラなどの仲間と出会い、ミラージュに立ち向かいながら芸能界で活躍しています。
その活躍の裏には苦悩や不安も交差しており、トップミュージシャンの座に君臨する霧亜であっても葛藤に襲われます。芸能人であると共に、大半はまだ学生。霧亜ですらまだ21歳にしか過ぎません。年相応の少年少女でありながら芸能人でもある、そんな自分と向き合う姿は、“もうひとりの自分”と直面する『ペルソナ』シリーズと共通している部分かもしれません。
『ペルソナ5』で描かれる物語の詳細はまだ不明ですが、昼は学生として、夜は悪いオトナと戦う「怪盗」として暗躍する世直し劇を行うとのこと。謎のスマホアプリ「イセカイナビ」で相手の心に潜り込み、ペルソナの力を駆使して腐った心を盗み出す。これまでのシリーズにはなかったスタイリッシュな展開が、どんな物語を生むのか。『幻影異聞録 #FE』では芸能界、『ペルソナ5』では怪盗と、RPGとしては希有なモチーフを選ぶ両作を比較してみるのも、面白いかもしれませんね。
◆相手の弱点を見極めて、爽快感抜群なバトルシステム
『幻影異聞録 #FE』がRPGとして最も特徴的なのが、戦闘におけるシステムです。
一般的なRPGとは異なり、「単発だけど強いスキル」は本作での有効な攻撃にはなりません。弱点を突くことで「セッション攻撃」が発生し、適応するスキルを持つ仲間が間髪入れずに攻撃を繰り出します。この仲間の攻撃もセッション攻撃の対象となっており、条件を満たせば「一人目のスキル攻撃」に「六人のセッション攻撃」が加わります。
セッション攻撃もバリエーションがあり、戦闘中のモーションも個別なので、代わる代わる多彩なアクションを繰り広げて攻撃する流れは実に心地よく、連携で敵ミラージュが次々と倒れていく爽快感は並ならぬものがあります。
しかもセッション攻撃中に「デュオアーツ」が発生すれば、メンバー2人がコンビを組む攻撃を繰り出します。こちらは、敵全体を攻撃したり体力が回復したりと、特別な効果を伴うものも。しかもデュオアーツの種類によっては、終了後に再びセッション攻撃が繋がるものもあります。
セッション攻撃→デュオアーツ→セッション攻撃と繋がれば、累計10回以上もの攻撃が発生します。ですが、怒濤の連撃が生まれる可能性はまだ残っており、2度目のセッション攻撃にデュオアーツが発生する場合も。このケースは稀ですが、発動すれば「セッション攻撃→デュオアーツ→セッション攻撃→デュオアーツ→セッション攻撃」と、怒濤のラッシュが展開します。筆者の経験では、ここまでの連撃はクリアまでに3~4回見た程度ですが、あまりに一方的かつ圧倒的な攻撃に度肝を抜かれました。
一方的な攻撃と言えば、敵の弱点を突いたりクリティカルを出すことで発生する「ワンモア」を思い出す『ペルソナ』ファンも多いことと思います。細かい点こそ異なりますが、敵をダウンさせることで一方的に攻撃が加えられ、条件が整えば総攻撃も可能と、『幻影異聞録 #FE』の爽快感と近しいものがあります。むしろ、ワンモアを別の形で進化させたのが、セッション攻撃と言えるかもしれません。
『ペルソナ5』のゲームシステムがどのような形になるか、まだ正式に明かされてはいませんが、ワンモアが受け継がれる可能性も充分ありますし、更なる進化を迎えるかもしれません。ワンモアが持つ新たな可能性を、『幻影異聞録 #FE』で味わってみるのも一興ではないでしょうか。
◆随所に見られる『ペルソナ』テイスト
『ペルソナ3』以降から見られるビビットな色使いは、一目瞭然と言えるほど『幻影異聞録 #FE』にも盛り込まれています。UIはもちろん、エフェクトや全体的な演出からもそのテイストが伺えると共に、スタイリッシュさに磨きが掛かっている実感も覚えるほど。
またキャラクターの育成に伴って取得できるスキルを取捨選択していくやり方も、近年の『ペルソナ』シリーズのシステムに近く、プレイヤーの好みに合わせてスキルを選別可能。「出来るだけ多くのキャラに回復系を使わせよう」「とことん攻撃重視に」「キャラの長所を伸ばす方向で」など、個人の好みを反映させられるのも嬉しい点です。
しかも『幻影異聞録 #FE』では、素材と経験さえ費やせば、諦めたスキルの再取得もできます。素材集めもそれほど苦ではないで(極限まで鍛えるとなると、それなりには大変ですが)、やり直しや修正が利くのは非常に助かるというもの。個人的には、『ペルソナ』シリーズの魅力を受け継ぎつつ、新たな進化を遂げた部分と感じました。
もちろんスキルも、「アギ」や「タルカジャ」、「突撃」など、お馴染みのものがずらり。それでいて、使い勝手は『幻影異聞録 #FE』独自のものもあったりと違いもあるため、その差も楽しさのひとつになっています。本作では「メギド」系の使い勝手があまりよくないのも、意外な点かもしれません。
また、色んなアイテムが揃うコンビニ「ヒーホーマート」など、『ペルソナ』ファンなら思わずニヤリとするネタも随所にあり、ひとつひとつを挙げていけばキリがないほど。ビジュアル、バトル、世界観など様々な部分で、『ペルソナ』らしさとその進化系を見ることができます。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
『幻影異聞録 #FE』のプレイを通して、その魅力や『ペルソナ』テイストを綴ってみましたが、いかがだったでしょうか。残念ながら売り上げの方は伸び悩んでいるようですが、ネット上の評判を覗くとプレイ満足度の高さが伺えます。相性こそありますが、良作のJRPGを遊びたい方、またアトラスの進化を垣間見たい人にとっては、見逃しては勿体ない作品と言えます。
ゲームとして残念な点をあげるとすれば、ロード時間は少々長め。待ちきれないという程ではありませんが、ショップの出入りや戦闘前の読み込みで少し待たされるのは惜しいポイントです。ダウンロード版ならば、パッケージ版と比べてロードが短いとの報告もあるので、そちらを検討してみるのもひとつの手です。
また現物派の方ならば、手頃な価格で手に入れやすいというメリットもあります。これは一例ですが、現在Amazonでは通常のパッケージ版が4,000円ほど、ボーカルセレクションなどが入った「Fortissimo Edition」が4,980円で販売されています(記事執筆時点)。音楽面での魅力も高い一作なので、グッとお求めやすくなった「Fortissimo Edition」も選択肢に入れてみてください。
『ペルソナ5』発売まで、あと約4ヶ月ほど。待ちきれないという人にこそ『幻影異聞録 #FE』をお勧めします。『ペルソナ』の魅力を引き継いだ『幻影異聞録 #FE』を通して、更なる進化を見せるであろう『ペルソナ5』に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
『幻影異聞録 #FE』は好評発売中。価格は、通常版が7,236円(税込)、特別版「幻影異聞録 #FE Fortissimo Edition」が9,698円(税込)、Wii U本体セットが40,824円(税込)です。
『ペルソナ5』は2016年9月15日発売予定。価格は8,800円(税抜)です。
(C)2015 Nintendo/ATLUS
FIRE EMBLEM SERIES:(C)Nintendo/INTELLIGENT SYSTEMS
(C)ATLUS (C)SEGA All rights reserved.
以後もRPGは更なる躍進を遂げ、多彩な展開を遂げていきます。
また続編が出たものも数多く、その中には今も最新作がリリースされている人気シリーズもあるほど。その方向性も拡がりを見せ、今日においても新たな進化を遂げているジャンルと言えるでしょう。
そんなRPGを力強く牽引するメーカーのひとつとして存在感を放つアトラスは、現代を舞台に神や悪魔の台頭を盛り込んだ『真・女神転生』シリーズや、戦略性を高めた『グローランサー』シリーズ、歯応えのあるバランスと手書きによるマップ作成が好評を博した『世界樹の迷宮』シリーズなど、数多くのRPGシリーズを展開。
特に『真・女神転生』シリーズは、ナンバリングを重ねるだけでなく、『デビルサマナー』や『デビルサバイバー』といった派生作を生み出すほどの活躍を遂げ、特に『ペルソナ』シリーズは一際高い注目度と人気を誇っています。
多くのユーザーが長らく待ち望んでいたシリーズ最新作『ペルソナ5』ですが、念願の発売日が先日明らかになりました。9月15日を、今から待ち遠しく思う方も多いことでしょう。シリーズ最新作という点だけでなく、RPGとしての『ペルソナ』シリーズ初となるPS4/PS3進出に期待が膨らむばかりです。
同社のHDタイトルと言えば、『キャサリン』が思い起こされます。『キャサリン』はアクションパズルなので、ゲームシステムの面ではかけ離れており、また主人公たちの年齢層も『ペルソナ』シリーズと比べるとひとつ上の世代。ですが、現代を舞台にポップな明るさと深刻な内面を融合させて描く手法には共通点も感じられ、進化した演出なども含め『キャサリン』を通して新たな『ペルソナ』に想いを馳せた方もいることと思います。
そんな『キャサリン』が登場したのは2011年。あれから5年の月日が流れ、アトラスは『ペルソナ5』に向けていかなる進化をどのように遂げたのか。
その全てを正確に把握することは今の時点ではできませんが、その片鱗を伺わせるタイトルが昨年末に登場しました。
同社が開発を手がけ、2015年12月26日に任天堂から発売されたWii Uソフト『幻影異聞録 #FE』は、シリーズ初代の『女神異聞録ペルソナ』を連想させるタイトルとなっており、ゲームそのものも随所に『ペルソナ』らしさを感じさせる出来映えです。
また内容も、RPGとしての進化などをしっかりと感じる手応えに満ちていました。そんな『幻影異聞録 #FE』の魅力に触れると共に『ペルソナ』らしさにも踏み込み、アトラスが生み出す「今」と「未来」のRPGに想いを馳せたいと思います。
◆『幻影異聞録 #FE』に至るまでの道のり
本作の初報は、2013年1月に登場。『キャサリン』リリースから1年以上が経過していますが、今から3年以上も前。「真・女神転生 meets ファイアーエムブレム」として発表され、この時点では『真・女神転生』の色合いが強いような印象を受けましたが、2015年4月に正式タイトルとして『幻影異聞録 #FE』が明らかに。
またこの時に、現代を舞台に少年少女たちが活躍することや、コマンドバトルでのRPGといった要素の数々を感じ取れる映像がお披露目。異質な存在を相手にしながらも、その雰囲気はポップで華やかさがあり、『ペルソナ3』以降で見られるような彩り豊かなデザインが早くも感じられます。
『ファイアーエムブレム』(以下、FE)とのコラボレーションなので、一部のユーザーからは「数多くのキャラクターが登場するシミュレーションRPGになるのでは」といった予測もありましたが、『FE』のキャラクター達のほとんどは、主人公・樹やその仲間たちに力を与える「ミラージュ」として登場。その姿も原作とは違って異形の様相を呈しており、人ならざる存在が主人公たちの傍に立つ様子も、『ペルソナ』を思わせます。
しかし『幻影異聞録 #FE』に盛り込まれた「ペルソナ」らしさは、決して見た目だけの話ではなく、もちろん中身にも及んでいました。
そちらに関しても後ほど迫ります。
◆舞台は「東京」
『幻影異聞録 #FE』の物語は、東京が舞台。本作での力の源「パフォーマ」は、表現力の高さに比例するもの。そのため、歌唱や作曲、演技など、自己表現能力に優れている人間ほど「パフォーマ」が高い傾向にあります。
異世界から訪れるミラージュたちは、「パフォーマ」を狙ってこの世界に訪れます。そんなミラージュたちに対抗する面々は、必然的に「パフォーマ」の高さが求められるため、芸能界で活躍する歌手や俳優などが立ち向かうという展開に。もちろんこの攻防は一部の人間にしか知られておらず、人知れず戦う姿も『ペルソナ』との共通点と言えるかもしれません。
芸能界に属するキャラが中心となるため、舞台が東京になるのも当然の話でしょう。店舗などはオリジナルのものですが、渋谷や原宿などの街並みを模したフィールドも用意されており、渋谷駅前の交差点なども再現。都会が舞台のRPGもいくつかありますが、その中でも有数の出来映えだと感じました。
至近の『ペルソナ』シリーズとなる『3』と『4』の舞台は、東京の中心部ではなく、特に前作の舞台となった稲羽市は、地方色の色濃い町でした。ですが『ペルソナ5』の舞台は、奇しくも東京。
公式サイトにも「大都会・東京で始まる最高に楽しい学生ライフ」とあり、公開中のPVにも高層ビルが立ち並ぶ様子などが描かれています。そのため、『ペルソナ』シリーズが描く今時の「東京」の片鱗を、『幻影異聞録 #FE』で感じ取れるかもしれませんね。
◆少年少女の成長に迫る物語
「パフォーマ」を求めて侵略してくるミラージュと戦う樹たち。そんな樹達に、クロムを始めとする異世界の英雄達が力を貸し、この世界の崩壊を阻むために立ち向かうといった物語が、『幻影異聞録 #FE』で描かれます。
この主軸の物語は、世界を守る主人公たちvs異世界の侵攻、という構図になっており、凄く単純に語るならば、善と悪の対決とも言えます。これは、複雑な人間関係こそあるものの、強大な敵国と対峙することが多い『FE』シリーズの構造を踏まえたのかもしれません。特に終盤に関しては、ガーネフが登場し悪辣な罠を仕掛けたり、試練としてジェイガンらが立ちはだかったりと、『FE』ファンの胸を打つ展開の数々が。物語面でも見事に、『FE』とのコラボレーションを成功させています。
一方『ペルソナ』シリーズは、こちらも多くの人々を救う物語とはなりますが、敵対する存在が純粋な「悪」とは言い切れません。無論、悪と断じても問題のないキャラクターもいますが、「悪」よりも「人の弱さ」が発端となるものも少なくなく、また主人公たちも迷いや悩み、過去のトラウマなどを引きずっており、心の暗部をさらけ出します。
『幻影異聞録 #FE』の主軸は、王道的な物語が綴られます。その点を踏まえると、ストーリー面で『ペルソナ』シリーズの面影を見ることは難しそうに思えますが、しかし『幻影異聞録 #FE』では同時に、少年少女たちの成長物語も紡がれています。
ヒロインの織部つばさは、本作の序盤で新人アイドルとしてのデビューを果たします。そんな彼女をサポートするため、またミラージュとの戦いのため、樹もつばさと共に、芸能界に関わる形に。そして、歌手の黒乃霧亜やハリウッド女優を目指す弓弦エレオノーラなどの仲間と出会い、ミラージュに立ち向かいながら芸能界で活躍しています。
その活躍の裏には苦悩や不安も交差しており、トップミュージシャンの座に君臨する霧亜であっても葛藤に襲われます。芸能人であると共に、大半はまだ学生。霧亜ですらまだ21歳にしか過ぎません。年相応の少年少女でありながら芸能人でもある、そんな自分と向き合う姿は、“もうひとりの自分”と直面する『ペルソナ』シリーズと共通している部分かもしれません。
『ペルソナ5』で描かれる物語の詳細はまだ不明ですが、昼は学生として、夜は悪いオトナと戦う「怪盗」として暗躍する世直し劇を行うとのこと。謎のスマホアプリ「イセカイナビ」で相手の心に潜り込み、ペルソナの力を駆使して腐った心を盗み出す。これまでのシリーズにはなかったスタイリッシュな展開が、どんな物語を生むのか。『幻影異聞録 #FE』では芸能界、『ペルソナ5』では怪盗と、RPGとしては希有なモチーフを選ぶ両作を比較してみるのも、面白いかもしれませんね。
◆相手の弱点を見極めて、爽快感抜群なバトルシステム
『幻影異聞録 #FE』がRPGとして最も特徴的なのが、戦闘におけるシステムです。
本作には武器の相性や弱点などが設定されており、「スキル」で相手の弱点を突くことが重要な戦略となります。
一般的なRPGとは異なり、「単発だけど強いスキル」は本作での有効な攻撃にはなりません。弱点を突くことで「セッション攻撃」が発生し、適応するスキルを持つ仲間が間髪入れずに攻撃を繰り出します。この仲間の攻撃もセッション攻撃の対象となっており、条件を満たせば「一人目のスキル攻撃」に「六人のセッション攻撃」が加わります。
セッション攻撃もバリエーションがあり、戦闘中のモーションも個別なので、代わる代わる多彩なアクションを繰り広げて攻撃する流れは実に心地よく、連携で敵ミラージュが次々と倒れていく爽快感は並ならぬものがあります。
しかもセッション攻撃中に「デュオアーツ」が発生すれば、メンバー2人がコンビを組む攻撃を繰り出します。こちらは、敵全体を攻撃したり体力が回復したりと、特別な効果を伴うものも。しかもデュオアーツの種類によっては、終了後に再びセッション攻撃が繋がるものもあります。
セッション攻撃→デュオアーツ→セッション攻撃と繋がれば、累計10回以上もの攻撃が発生します。ですが、怒濤の連撃が生まれる可能性はまだ残っており、2度目のセッション攻撃にデュオアーツが発生する場合も。このケースは稀ですが、発動すれば「セッション攻撃→デュオアーツ→セッション攻撃→デュオアーツ→セッション攻撃」と、怒濤のラッシュが展開します。筆者の経験では、ここまでの連撃はクリアまでに3~4回見た程度ですが、あまりに一方的かつ圧倒的な攻撃に度肝を抜かれました。
一方的な攻撃と言えば、敵の弱点を突いたりクリティカルを出すことで発生する「ワンモア」を思い出す『ペルソナ』ファンも多いことと思います。細かい点こそ異なりますが、敵をダウンさせることで一方的に攻撃が加えられ、条件が整えば総攻撃も可能と、『幻影異聞録 #FE』の爽快感と近しいものがあります。むしろ、ワンモアを別の形で進化させたのが、セッション攻撃と言えるかもしれません。
『ペルソナ5』のゲームシステムがどのような形になるか、まだ正式に明かされてはいませんが、ワンモアが受け継がれる可能性も充分ありますし、更なる進化を迎えるかもしれません。ワンモアが持つ新たな可能性を、『幻影異聞録 #FE』で味わってみるのも一興ではないでしょうか。
◆随所に見られる『ペルソナ』テイスト
『ペルソナ3』以降から見られるビビットな色使いは、一目瞭然と言えるほど『幻影異聞録 #FE』にも盛り込まれています。UIはもちろん、エフェクトや全体的な演出からもそのテイストが伺えると共に、スタイリッシュさに磨きが掛かっている実感も覚えるほど。
またキャラクターの育成に伴って取得できるスキルを取捨選択していくやり方も、近年の『ペルソナ』シリーズのシステムに近く、プレイヤーの好みに合わせてスキルを選別可能。「出来るだけ多くのキャラに回復系を使わせよう」「とことん攻撃重視に」「キャラの長所を伸ばす方向で」など、個人の好みを反映させられるのも嬉しい点です。
しかも『幻影異聞録 #FE』では、素材と経験さえ費やせば、諦めたスキルの再取得もできます。素材集めもそれほど苦ではないで(極限まで鍛えるとなると、それなりには大変ですが)、やり直しや修正が利くのは非常に助かるというもの。個人的には、『ペルソナ』シリーズの魅力を受け継ぎつつ、新たな進化を遂げた部分と感じました。
もちろんスキルも、「アギ」や「タルカジャ」、「突撃」など、お馴染みのものがずらり。それでいて、使い勝手は『幻影異聞録 #FE』独自のものもあったりと違いもあるため、その差も楽しさのひとつになっています。本作では「メギド」系の使い勝手があまりよくないのも、意外な点かもしれません。
また、色んなアイテムが揃うコンビニ「ヒーホーマート」など、『ペルソナ』ファンなら思わずニヤリとするネタも随所にあり、ひとつひとつを挙げていけばキリがないほど。ビジュアル、バトル、世界観など様々な部分で、『ペルソナ』らしさとその進化系を見ることができます。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
『幻影異聞録 #FE』のプレイを通して、その魅力や『ペルソナ』テイストを綴ってみましたが、いかがだったでしょうか。残念ながら売り上げの方は伸び悩んでいるようですが、ネット上の評判を覗くとプレイ満足度の高さが伺えます。相性こそありますが、良作のJRPGを遊びたい方、またアトラスの進化を垣間見たい人にとっては、見逃しては勿体ない作品と言えます。
ゲームとして残念な点をあげるとすれば、ロード時間は少々長め。待ちきれないという程ではありませんが、ショップの出入りや戦闘前の読み込みで少し待たされるのは惜しいポイントです。ダウンロード版ならば、パッケージ版と比べてロードが短いとの報告もあるので、そちらを検討してみるのもひとつの手です。
また現物派の方ならば、手頃な価格で手に入れやすいというメリットもあります。これは一例ですが、現在Amazonでは通常のパッケージ版が4,000円ほど、ボーカルセレクションなどが入った「Fortissimo Edition」が4,980円で販売されています(記事執筆時点)。音楽面での魅力も高い一作なので、グッとお求めやすくなった「Fortissimo Edition」も選択肢に入れてみてください。
『ペルソナ5』発売まで、あと約4ヶ月ほど。待ちきれないという人にこそ『幻影異聞録 #FE』をお勧めします。『ペルソナ』の魅力を引き継いだ『幻影異聞録 #FE』を通して、更なる進化を見せるであろう『ペルソナ5』に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
『幻影異聞録 #FE』は好評発売中。価格は、通常版が7,236円(税込)、特別版「幻影異聞録 #FE Fortissimo Edition」が9,698円(税込)、Wii U本体セットが40,824円(税込)です。
『ペルソナ5』は2016年9月15日発売予定。価格は8,800円(税抜)です。
(C)2015 Nintendo/ATLUS
FIRE EMBLEM SERIES:(C)Nintendo/INTELLIGENT SYSTEMS
(C)ATLUS (C)SEGA All rights reserved.
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