よく「日本の心」と言われる通り、男女の恋慕や日本の情緒を、花鳥風月の美や四季の移ろいに寄せて歌われる演歌。

中高年の人気は元より、近ごろでは若い方の中にもファンやアーティストが生まれている演歌ですが、そのルーツは決して今日のように艶めかしいものではありませんでした。


今回は、そんな演歌のルーツについて紹介したいと思います。

■演歌の起源は「政治演説の歌」

演歌は明治時代、自由民権運動の一環(ツール)として生み出されたものでした。

♪権利幸福 嫌いな人に 自由湯(※1)をば飲ませたい……♪

という唄い出しで有名な「オッペケペー節」は、歴史の教科書で見覚えの方もいるでしょう。

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オッペケペー節を演ずる作者・川上音次郎。

あれは決してふざけているのではなく、愉快なリズムに合わせて世の中を諷刺しているのです。

言わば政情や時局をテーマにした演説であり、ただ大真面目に堅苦しく熱弁しても誰も興味関心を持ってくれないから、路上ライブの形で注目を集めたのが「演(説)歌」という訳です。


(※1)じゆうとう。自由の湯(くすり)を、自由党にかけている。

■愉快な歌と音楽に隠した抵抗の精神

徳川幕府が倒れて明治維新を成し遂げたものの、今度は薩摩・長州が権力を牛耳る藩閥(はんばつ)政治がはびこり、真の国民国家を実現するべく、多くの志士たちがこれに抵抗。

しかし巨傑・西郷隆盛(さいごう たかもり)が西南戦争で敗死すると、武力闘争の限界を感じた不平士族らは、槍刀から言論へと武器を替えたのでした。

音楽に隠した抵抗精神…日本の心「演歌」、実は明治時代の自由民権運動の演説歌がルーツだった!?


歴史の教科書でもおなじみ、ビゴーの諷刺画。

これが自由民権運動の始まりですが、お上のご意向の前には庶民の人権など無きに等しかった時代にあって、政治的な主張を行うことは文字通り命懸けのリスクでした。


そこで、唄と音楽で擬装した演歌というパフォーマンスで官憲の目をごまかし、民権思想の普及と同時進行で新たな同志のリクルート活動に努めたのです。

記録に残る活字と違い、その場で消えてしまう言葉(唄声)なので、摘発の証拠が残りにくい点でも、演歌は政治的ツールとして有利なのでした。

抑圧された者たちが、抵抗の心を音楽や演技でカムフラージュする様子が、南米の武術・カポエイラを彷彿とさせます。

■「ダイナマイト、どん!」テロをも辞さぬ壮士たちの心意気

かくして「オッペケペー節」「民権数え唄」など様々な演歌が生み出され、民意を踏みにじる藩閥政治が大いに批判される中、世直しのためとあればテロをも辞さぬ心意気を歌う者たちも現れました。

その先駆けと言われる「ダイナマイト節」では、このように唄われています。

♪四千余万(よんせんよまん)の同胞(そなた)のためにゃ 赤い囚衣(しきせ)も苦にゃならぬ……
国利民福(こくりみんぷく)増進して民力(みんりょく)休養せ もしも成らなきゃ……ダイナマイト、どん!……♪

音楽に隠した抵抗精神…日本の心「演歌」、実は明治時代の自由民権運動の演説歌がルーツだった!?


随分と過激な歌詞ですが、これは当時およそ四千万人の日本国民みんなを、自分の大切な「そなた」と見立てた上で、日本の未来を救うためなら、命懸けで腐った権力者を倒し、入獄や死刑だって覚悟する……そんな心意気が歌われています。


普通選挙制度など、民主主義国家としてのシステムが確立した現代では決して許されないテロですが、かつて幕末の志士たちが日本の未来を信じて命懸けで闘ったように、民権運動の闘士たちにもまた、守り抜きたい日本の理想があったのです。

ちなみに、国利民福とは庶民に対する福祉の充実によって国力増強に利することを唱えたスローガンで、まずは民間の力を養い、民権を強化して国権を支える堅固な土壌とするよう訴えたのでした。

■エピローグ

やがて自由民権運動は衰頽し、いつしか演歌も政治闘争の武器から庶民の娯楽に変わっていったのですが、今日でもたまに社会問題などをテーマに熱唱しているミュージシャン?らしき方を見ると、演歌のルーツである反骨精神がいまだ息づいているように感じます。

音楽に隠した抵抗精神…日本の心「演歌」、実は明治時代の自由民権運動の演説歌がルーツだった!?


自由民権運動の集大成・民選議院の設立を訴えた志士たち。明治時代の教科書より。

かつて誰もが社会に対して声を上げられ、自由闊達な議論によってよりよい方向を模索して行ける日本を目指す闘争があったことを、憶えておいて頂ければと思います。


♪悔やむまいぞ 苦は楽の種 やがて自由の花が咲く……
国利民福(こくりみんぷく)増進して民力(みんりょく)休養せ もしも成らなきゃ……ダイナマイト、どん!……♪

「ダイナマイト節」より。

※参考文献:
大久保慈泉『うたでつづる明治の時代世相 上―幕末から明治二十九年まで―」国書刊行会、平成九1997年8月1日

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