「嘘を吐(つ)いたら、地獄で閻魔(えんま)様に舌を引っこ抜かれるんだからね!」

子供の頃、よくそう言われたものですが、大人になると地獄を治めているのは閻魔様だけじゃなく、十人の王様「十王(じゅうおう)」がいることを知りました。

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鎌倉・円應寺の御朱印。
運慶作と伝えられる十王像を御本尊としている。

十人もいるからには皆それぞれに役割がある筈で、今回は私たちが死後出会うことになるであろう十王たちの顔ぶれを紹介したいと思います。

■一人目は「殺生の罪」を裁く秦広大王

私たちが死んでから最初の七日目を「初七日(しょなぬか)」と言い、ここから生前の罪業についてお裁きが下されますが、その時の裁判官がこの秦広大王(しんこうだいおう)です。

秦広大王が担当する審査項目(罪状)は「殺生をしていないか」、言い換えれば「命を粗末にしなかったか」。

たとえあなた自身が虫一匹殺さなかったとしても、例えば食べ物を無駄にすれば、その元になった命を粗末にしたことになりますし、自殺などすればそれも自分の命を粗末にしたことになります。

審判に際して発言は可能みたいですが、虚偽の申告をすると舌を引っこ抜かれるのは、どの王様でも同じなのでご注意下さい。

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不動明王

ここで弁護をしてくれるのが不動明王(ふどうみょうおう)。遺族たちが初七日の供養を行うのは、故人を護ってくれる不動明王に対する心づけの意味もあります。

■二人目は「盗みの罪」を裁く初江大王

続いて十四日目「二七日」を迎えると、今度は初江大王(しょこうだいおう)が「盗みの罪」について審判を下されます。

ここで言う「盗み」とは、金品に限らず「時間」や「心」についても含まれており、例えば待ち合わせに遅れたり、誰かの心を奪ってしまうのも立派な罪となります。

ここでは釈迦如来(しゃかにょらい)が弁護をしてくれるので、遺族たちがそのお礼に二七日の供養を行います。

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故人を偲ぶのが、何よりの供養(イメージ)

基本的に、故人に対する供養は生前の功徳を讃えることで弁護すると共に、現場で弁護してくれている仏様に対する感謝の意味が込められています。


■2年間も続く!?地獄でのお裁き

……とまぁこんな具合にあと七人の大王がそれぞれの罪にお裁きを下され、じっくり紹介していきたいところですが、このノリでずっと読み進めていくのがしんどい方もいるでしょうから、おさらいもかねて十王様のデータを一覧表にまとめました。

閻魔大王だけじゃなかった!地獄を支配している「十王」たちの顔ぶれを紹介


基本的に四十九日までは七日ごとにお裁きがあり、その後は100日、1年後、2年後で全10回のお裁きを経て、罪を悔い改めた後に極楽浄土へ旅立てるのです。

ちなみに図の中にある欺瞞とは心にもないキレイゴト、慳貪(けんどん)とは欲深くむさぼる心、瞋恚(しんに)とは怒りに任せてキレること、そして邪見(じゃけん)とは私欲によって物事を正しく判断できない状態を言います。

どのお裁きでも必ず弁護してくれる仏様がいますが、どんな極悪人であっても決して見捨てず、お救い下さる慈悲の心を表わしており、地獄の王様をお祀りする寺院では、たいてい弁護して下さる仏様も一緒にお祀りされていることが多いので、ご参詣の時に注目してみると興味深いです。

■エピローグ

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鎌倉・円應寺の本尊である閻魔大王像(伝:運慶作)。その表情から「笑い閻魔」とも呼ばれる。

ところで、閻魔様は元々人間で、この世で一番始めに亡くなってから地獄のお裁きを手伝っているのですが、来る者来る者片っ端から悪人ばかりで、おまけに揃ってキレイゴトで罪を粉飾するものですから、怒りで顔が真っ赤になってしまったと言われています。

※また一説に、人間の身でありながら人間を裁き、傷つけた罪によって熔(と)けた銅を呑まされ、いつも全身が焼け爛(ただ)れているためとも言います。

誰かが罰された時、最も辛いのは罰した者。いつか閻魔様はじめ十王の皆様が誰も罰しなくてすむよう、よりよい生き方を求めていきたいものです。

十王(じゅうおう)※参考文献:
津原茂 『お地蔵さま』あずさ書店、2007年6月
川村邦光 『地獄めぐり』ちくま新書、200年5月

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