♪しょ しょ 証城寺(しょうじょうじ) 証城寺の庭は
つ つ 月夜だ みんな出て こいこいこい……♪

昔むかし、狸と和尚さんが楽しくコラボした情景を愉快に歌った「証城寺の狸ばやし」。

千葉県木更津市に実在する證誠寺(しょうじょうじ)を舞台に、現地で伝わる民話をモチーフとした童謡として有名ですが、実は歌詞で言及されていない「悲しい結末」があったのをご存じでしょうか。


今回は明るくリズミカルな童謡「証城寺の狸ばやし」について紹介したいと思います。

■「お化け寺」に住み着いた和尚

今は昔、證誠寺の一帯は鈴森(すずもり)と呼ばれ、鬱蒼と生い茂った竹やぶで昼なお暗く薄気味悪い場所だったそうです。

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昼なお暗い不気味な鈴森(イメージ)。

そんな場所なので、自然と「お化けが出るに違いない」と噂になり、その期待?に応えるかのごとくお化けが出没。

そのお化けたちは鈴森に棲む狸たちが変化(へんげ)したもので、人間を驚かせては退屈しのぎに興じたり、慌てて落とした御馳走や金品を巻き上げたりしていたそうです。

かくして誰も近寄らなくなった證誠寺は「お化け寺」と呼ばれ、住職など当然いませんでしたが、ある時、とある和尚が寺に住み着くようになると、狸たちは和尚を追い出そうと変化の術を試みます。

しかし、この和尚がたいそう風変りで、どんなお化けが現れようと一向に驚く様子どころか、出ていく気配も見せませんでした。

このままでは狸が廃る……万策尽きた親分狸は「どうにかして、あの和尚を驚かせてやろう」と一策を講じるのでした。

■月夜の狸ばやしに大興奮!

……ある月の晩のこと。和尚さんが寝ていると、寺の庭先で何やら賑やかな音がします。

太鼓の音や笑い声……唄なんかも聞こえてきて、ワクワクした和尚さんは居ても立ってもいられなくなって庭に飛び出しました。

「おぉ……これは!」

愉快な歌なのに(泣)しょ、しょ、証城寺♪童謡「証城寺の狸ばやし」に歌われなかった悲しすぎる結末


狸ばやしにびっくり仰天(イメージ)。


見れば威勢よく腹鼓(はらつづみ)を打ち鳴らす親分狸を中心に、一緒に腹鼓を打つ者、唄う者に踊る者……みんな、みんな、何十頭の狸です。

和尚さんは確かに驚きました。お化けが怖いなんてのは当たり前ですが、狸が祭りばやしに興じている姿は、天下広しといえどなかなか見られるものではありません。

「どうじゃ和尚!参ったか!」

目を丸くした和尚を前に、勝ち誇る親分狸。ここで和尚が一言「参った」と言っておけば、後の悲劇は起こらなかったかも知れません。

「わ……わ……」

和尚は完全に驚いていましたが、その感情は恐怖よりも歓喜の勝ったものでした。

「……わぁい!わしも負けんぞ!待っておれ!」

そう言うなり奥へ引っ込み、自慢の三味線を持ってきました。

「お主らが腹鼓なら、わしはこの三味線で勝負じゃ!」

さっきまで気圧されていた和尚が元気を取り戻したのを見て、親分狸は気が気ではありません。

「おのれ和尚め……野郎ども、こうなったら本気で行くぞ!」

「「「おおぅ……っ!」」」

愉快な歌なのに(泣)しょ、しょ、証城寺♪童謡「証城寺の狸ばやし」に歌われなかった悲しすぎる結末


祭りばやしに興じる親分狸と和尚(イメージ)。

それからと言うもの、和尚と狸たちは毎晩々々、夜が明けるまで腹鼓と三味線で祭りばやしに興じたそうで、狸たちはともかく、昼間の勤行(おつとめ)もあろう和尚の睡眠不足が気になるところです。

■「人間ながら天晴れ」……親分狸の死

しかし、そんな楽しい?オールナイト合戦も、いつまでもは続きませんでした。

三味線を構えながら「さぁ来い、狸たちよ!」と意気込んでいた和尚ですが、その晩はいつまでも経っても狸たちはやって来ませんでした。


「あれ……?」すっかり拍子抜けしてしまった和尚の持っていた三味線の弦が、いきなりバチンと切れました。

「これは……もしや!」

和尚の不安は的中してしまい、明け方になったころ、一匹の子狸がやって来て言いました。

「……これこれしかじか……」聞けばあの親分狸は腹鼓の打ち過ぎで、腹が破けて死んでしまったそうです。

「そうじゃったのか……あまりに楽しかったもんじゃから……悪いことをしたのぅ……」

「いえいえ、親分は最期に和尚さまを『人間ながら天晴れ』と褒め称えておりました……命を賭けて張り合えたことを、誇りに思っておりましょう……」

愉快な歌なのに(泣)しょ、しょ、証城寺♪童謡「証城寺の狸ばやし」に歌われなかった悲しすぎる結末


親分の死を悼む狸たち(イメージ)。

悲しみにくれる和尚は子狸の案内で狸たちを弔問し、親分狸の菩提を懇ろに弔ったということです。

■エピローグ

♪負けるな 負けるな 和尚さんに負けるな
来い 来い来い 来い来い来い
みんな出て 来い来い来い……♪

はっちゃけ過ぎてあんな結末になってしまったものの、狸と人間が月の下で楽しいひとときを共にしたエピソードは広く人々に親しまれ、童謡として現代に歌い継がれています。

ちなみに実在の寺は「證誠寺」ですが、童謡のタイトルが「証城寺」となっている理由については諸説あるそうです。

愉快な歌なのに(泣)しょ、しょ、証城寺♪童謡「証城寺の狸ばやし」に歌われなかった悲しすぎる結末


野口雨情。Wikipediaより。

一、作詞家の野口雨情(のぐち うじょう)が単純に「誠」と「城」を見間違えた(証は證の新字体)。

一、最初は実在の寺院名(證誠寺)にしたが、檀家から「和尚を狸と対等に扱うな」等のクレームが来たので変えた。

一、最初からあえて架空の寺院名にすることで、特定の地域にとらわれず広くみんなに愛される歌にしたかった。


結局どれなのかは謎のままですが、三つ目あたりが真相だと(童謡に親しんで欲しいという)子供たちへの愛に満ちていていいですね。

♪しょ しょ 証城寺 証城寺の萩(はぎ)は
つ つ 月夜に花盛り……
己等(おいら)は浮かれて ポンポコポンの ポン……♪

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