しかし実際には、髪が薄くなって髷が結えなくなったら力士をやめなければならないなどの規定は存在しないということは「あの噂は本当なの?相撲の力士は髷(まげ)が結えなくなったら引退しなくてはいけない?」でも述べたとおりです。
それどころか、過去には力士人生の中で1度も髷を結うことがなかった力士も存在したのですよ。
いったいどんな力士だったのでしょうか?
■相撲人生の中で一度も髷を結ったことのなかった力士「太閤丸」
その力士の四股名は「太閤丸」。2012(平成24)年に引退した、元東関部屋所属の力士です。
彼は入門前から脱毛症で、治療のために髪をすべて剃ったスキンヘッドでした。2004(平成16)年3月場所で初土俵を踏みましたが、当時の東関親方(元関脇・高見山)にスカウトされた時にはこのことに加え、身長が決して高いとは言えなかったこともあり、入門を断るつもりだったのだそうです。
しかし東関親方は「髷が結えないことは、力士になる上で問題にはならない」と言い、さらに脱毛症の治療に協力するとも約束し、彼を説得しました。東関親方が、相撲の経験がないとはいえ運動能力の高かった太閤丸に大きな期待を寄せていたことが分かります。

太閤丸(写真右) 画像出典:Wikipedia「太閤丸豊」
そこまで期待された太閤丸でしたが、髪がないため頭からぶつかることが苦手で、引く癖がついてしまうなど、苦労は多かったようです。また取組み以外にも、髪がないことで部屋の行事への参加を拒否されたことが何度かあったのだとか。
2012(平成24)年には自身の力の限界を感じるようになり、その年の3月に通信制のNHK学園高等学校を卒業して高卒の資格を取得するなど「第2の人生の準備」を始め、5月場所で引退しました。
■髪のなかった力士の「断髪式」はどうなったの?
さて、力士が引退すると、力士のシンボルといえる髷を切り落とす「断髪式」が行われます。
その規模は、30場所以上関取を務めた力士は両国国技館で引退相撲とともに行うことができますが、そうではない力士は所属部屋の千秋楽パーティーの中で行われるなど、番付によって異なります。

髪の毛そのものがなかった太閤丸の場合は、切り落とす髷がないため、断髪式の代わりに握手会が行われました。
太閤丸の最高位は西三段目78枚目、関取になることはついにありませんでしたが、「何らかの理由で髷が結えなくても、力士になることをあきらめる必要はない!」ということを見事に証明した力士だったことは、間違いないでしょう。
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