魚へんに神……何だかとてもカリスマ性の高そうな魚ですが、他の魚をさし措いてなぜハタハタにこの漢字が当てられたのでしょうか。
■ハタハタ……と近づく雷雲
まず、ハタハタ(霹靂)とは雷が鳴る様子を表した古代の擬音語で、現代で言うところの「ゴロゴロ……」に相当します。
これはハタハタが雷(=神鳴り)の多い晩秋~初冬ごろに獲れることからつけられた名前で、常用外漢字では魚へんに雷でハタハタと読んだり、文字通り雷魚(かみなりうお)と呼んだりする地域もあります。

冬の日本海。波多波多の豊漁が期待される
他にも、この時期は海が大きく荒れて、波の多い中を漁に出ることから、波多波多と表記される事もあります。
■お殿様を慕った「佐竹魚」たち
また、秋田県ではハタハタを「佐竹魚(サタケウオ)」とも呼ぶそうですが、こんな逸話が伝わっています。
かつて関ケ原の戦い(慶長五1600年)で敗れた戦国大名・佐竹義宣(さたけ よしのぶ)が本国の常陸(現:茨城県)から秋田に左遷されてきた慶長七1602年は、なぜかハタハタが豊漁だったそうです。

ハタハタ達に慕われた?佐竹義宣。Wikipediaより。
「これはきっと、義宣様の人徳を慕ってハタハタ達がついて来たに違いない!」
関東近海は日本海側と海流が異なるため、ハタハタはあまり棲息していない筈で、また、東北(津軽海峡)をぐるっと迂回してハタハタ達がついて来るとも考えにくいですが、きっと敗残の義宣に対する判官贔屓の心情が、そのような物語を生み出したのでしょう。
何だか、秋田美人の発祥(徳川にくれてやるまいと、佐竹義宣が常陸じゅうの美女をみんな秋田に連れて行ったというエピソード)に似ていますね。
■終わりに
ハタハタは深海魚なのでウロコがなくて小骨が少なく、また身ばなれもいいので食べやすい魚として親しまれ、煮てよし焼いてよし、あるいは魚醤(しょっつる。
かつては乱獲のため一時禁漁などの措置もとられましたが、資源保全の努力が功を奏して、現代では再び往時の活況を取り戻しつつあるようです。
自然の恵みに感謝しながら、これからも日本海の味覚を楽しみたいものですね。
※参考文献:
野村祐三『旬の地魚料理づくし』講談社、2005年
澁澤敬三『日本魚名集覽 第二部』生活社、1944年
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