今回は日本人と天然痘の戦いについて紹介したいと思う。
■「天然痘」とは
天然痘ウイルス
「天然痘」は、天然痘ウイルスによって引き起こされる非常に感染力の強い伝染病の1つ。空気感染・飛沫感染・接触感染など、感染経路は多岐に及ぶ。感染後には10日~15日程度の潜伏期間をへて、急激な発熱や頭痛、悪寒や吐き気などの症状が認められる。
その後、全身に特徴的な発疹が出現し、やがて膿疱化(のうほうか)。病変は内臓にも及び、呼吸困難や呼吸不全を引き起こし最悪の場合死に至る。
天然痘の歴史は古く正確な起源は不明とされているが、紀元前1100年代のエジプトでは天然痘で死亡したと見られる例が確認されており、少なくともそれ以前から人類の間で感染があったと考えられている。
■日本人と天然痘
日本では「日本書紀」に天然痘と見られる記載が確認されている。また、737年には九州を中心に天然痘が大流行し、時の政治権力を掌握していた藤原4兄弟が相次いで死亡。天然痘によるものと考えられている。奈良にある大仏の建立は、天然痘の流行が1つのきっかけのようだ。
その後も、日本では定期的に大流行を繰り返し、時の天皇や、歴史的著名人の感染記録も多数残されている。独眼竜で有名な伊達政宗などの感染が有名だ。

緒方洪庵肖像 Wikipediaより
1796年、イギリス人医師エドワード・ジェンナーは、牛の牛痘から天然痘に対する効果的なワクチンの存在を証明。1848年に日本にもたらされた。
国内では、医師の緒方洪庵(おがたこうあん)を中心としてワクチン拡大事業が推進され、天然痘予防に貢献する。
■現在
ワクチンの誕生により、天然痘の罹患者は徐々に減少傾向を辿り1955年に国内最後の感染者を確認。1977年、ソマリアで感染が確認された患者が、事実上世界最後の天然痘感染者となった。
1980年、WTOは「世界天然痘根絶」を宣言。人類史上初めてにして唯一、根絶に成功した感染症となった。
ただし、現在の日本では定期的な予防接種は行われておらず、免疫保有者はほぼいないと考えられているため、生物兵器として用いられた場合の天然痘対策が懸念されている。
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