騒音や雑音など、不快な音に対して使うこの言葉。漢字では「煩い」「五月蝿い」と書き、まるで五月の蝿のように煩(わずら)わしいニュアンスで用いられています。
「夫のいびきがうるさい」とか「灯りがうるさくて眠れない」など、とかくネガティブに使われがちな言葉ですが、その本来は、現代と違った意味を持っていました。
■語源は潤(うるお)い?すみずみまで行き届いた気配りの表現
「うるさい」の原形(古語表現)である「うるさし」という言葉は平安時代から使われており、物事に精通して細かなところまで気配りが行き届いている様子を評価する言葉でした。
例えば掃除や手入れが「うるさく」なされていて、おもてなしの心が感じられる……などと言った具合です。
用例「実に『うるさく』手入れがゆき届いておる……この部屋の主は、さぞや奥ゆかしく魅力的な女性に違いない」
これが転じて、現代でも「エム氏はモーツァルトに関してちょっとうるさい」などと言われ、往々にして「あれこれと知識をひけらかしたり、他人を批評したり煩わしい」という意味で使われ(解釈され)がちですが、本来は「細かなところまで熟知している」などポジティブに使われていました。
ちなみに「うるさし」の語源については諸説あり、その一つに「潤(うるお)されし」、水分がすみずみまで行き届いた瑞々しい状態を表しているなどと考えられます。
■右大臣が流されて、左大臣は死んでしまい……
そんな「うるさし」が、どうして「騒々しい、煩わしい」というネガティブな様子を表すようになったのでしょうか。
一般的には「過ぎたるは猶及ばざるが如し」で、あまりすみずみまで行き届いているのが却って煩わしく、何だか嫌味に感じられてしまったためと考えられています。
他にも諸説ある中で面白かったのが、菅原道真(すがわらの みちざね)と藤原時平(ふじわらの ときひら)のエピソード。
よく知られている通り、道真は時平の讒言(ざんげん。相手を陥れるためのウソ)によって都を追われ、大宰府(現:福岡県)へと流されてしまいました。
※表向きは出世(昇進)ですが、政治の中心である京都からは遠ざけられており、実質的な左遷と言えます。

道真の怨霊が雷神と化して、時平たちを祟り殺す様子。
怨みを呑んで大宰府で亡くなった道真の怨霊が時平を祟り殺し、その怒りを鎮めるために祀られたのが今日の天神様です。
当時、右大臣であった道真が大宰府へ流され、左大臣であった時平が祟りで死んだことによって、世の中は大混乱に陥りました。
その様子を世の人々が「右流左死(うるさし)」と当て字して、騒々しい世の煩わしさを表すようになったということです。
※参考文献:
日本語倶楽部 編『語源500 面白すぎる謎解き日本語』KAWADE夢文、2019年811月
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