「紅葉」と名乗る美しい女性は、実は妖術を操る「鬼」だった……

源経基の奥方に呪いをかけ病へと追い込んだため、京の都から信州の戸隠に追われた鬼女・紅葉。

徐々に盗賊を手なずけ頭となり金品を強奪し、人を殺す恐ろしい鬼へと化していきました。そんな紅葉を成敗すべしと、京の都から討伐隊が送られます……

ここまでの鬼女紅葉のお話は【前編】をぜひご覧ください。

紅葉に染まる山の「鬼伝説」。妖しく恐ろしくも美しい鬼女・その名は紅葉(もみじ)【前編】

■都に焦がれ盗賊へと化した紅葉

紅葉に染まる山の「鬼伝説」。妖しく恐ろしくも美しい鬼女・その...の画像はこちら >>


 鬼女・紅葉が都を追われて身を寄せた戸隠(写真:photo-ac)

さて、呪いの術を使ったことで京の都を追放された紅葉。

村では、紅葉を不憫に思った村人たちが親切に世話をした。
紅葉も村人の病を治すなどして、しばらくは平和な日々が流れた。

しかし、都の暮らしに慣れている紅葉は山暮らしに満足せず、夜中に男の格好をして強盗を働くように……

そして荒くれ者の盗賊団を手下にし、女の鬼を従え、ますます悪事を働くようになった紅葉は、人を喰らい生き血をすする鬼と化してしまった。

【人を喰らう鬼女の噂を聞いた天皇が征伐に乗り出す】

紅葉に染まる山の「鬼伝説」。妖しく恐ろしくも美しい鬼女・その名は紅葉(もみじ)【後編】


 もみじ伝説を記した書/北向山霊験記戸隠山鬼女紅葉退治之傳全(写真:wikipedia)

人喰い鬼女の噂を聞きつけた京都の冷泉天皇は、紅葉征伐のため平維茂を信州へと送り込む。

最初は、紅葉が操る妖術に歯が立たなかった平維茂。

そこで、神仏の力にすがろうと別所北観音に17日間参籠し、必勝祈願をしたところ、ある日夢枕に立った白髪の老僧に「降魔の剣」を授かる。

今度こそ!と紅葉と戦った維茂は、剣の力で妖術を破り紅葉の首をはねることに成功。

紅葉33歳。山々が見事な紅葉に染まる晩秋のことだった。

■今も語り続けられる鬼女伝説

戸隠山に伝わる鬼女伝説は、違うストーリーもあります。また、現在も能や歌舞伎の作品「紅葉狩り」として語り継がれています。

■能の『紅葉狩り』

紅葉に染まる山の「鬼伝説」。妖しく恐ろしくも美しい鬼女・その名は紅葉(もみじ)【後編】


 鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』に描かれた「紅葉狩」(写真:wikipedia)

能の『紅葉狩り』は室町時代の作家による作品です。

紅葉が美しい秋の戸隠山。高貴な美女たちが宴を催しているところに出くわした平維茂は、女たちに誘われ酒を振舞われます。

酒と美女の舞に酔い、維茂はいつしかそのまま眠り込んでしまいました。

実はその美女たちは戸隠山の鬼。正体を知った武内の神(八幡大菩薩の眷属)は、維茂の夢に現れ、鬼女であることを告げ神剣を授けます。

目が覚めた維茂の前には、恐ろしい姿の鬼女が。しかしながら、維茂は神剣の力を借り、鬼女退治に成功したのでした。

■歌舞伎の『紅葉狩り』

紅葉に染まる山の「鬼伝説」。妖しく恐ろしくも美しい鬼女・その名は紅葉(もみじ)【後編】


 紅葉の策にはまり酒を飲んで眠りこむ平維茂(写真:wikipedia)

歌舞伎としては新しい演目で、1887年に初上演となりました。

戸隠山へと紅葉狩りにやってきた平維茂は、美しい姫様一行が酒宴の席を設けているところに遭遇します。誘われるままに酒を飲み、美女たちの踊りを楽しむうちに維茂はうたた寝をしてしまいました。

その姿を見て、山奥へと消えていく美女たち。山の神が「鬼女に食われるぞ」と忠告し、平維茂を起こそうとするも全く起きる気配はありません。

そして、夜。美女は恐ろしい鬼女の姿で戻ってきました。驚いた維茂は、名刀「小烏丸」にて退治したのでした。

■昔も今も妖しくたくましい鬼女に魅せられる

能も歌舞伎も、美女に誘われ酒を飲み寝込んでしまう平維茂が鬼女の罠にはまってしまうお話。

美しくたくましく身勝手で欲深い鬼女・紅葉。妖艶さと残酷さを持ち合わせた鬼女伝説は、今でも現代の人びとを魅了しています。

また、紅葉伝説にはアナザーストーリーも。

恐ろしい鬼女と恐れられた紅葉の伝説も、鬼女伝説が残る周囲を山に囲まれた自然豊かな谷の里・鬼無里では、

紅葉の美しさや芸事や医術に秀でた才能を尊び、村人に与えたさまざまな恵みに感謝の念を込め、「鬼女」ではなく「貴女」と呼ばれています。

紅葉に染まる山の「鬼伝説」。妖しく恐ろしくも美しい鬼女・その名は紅葉(もみじ)【後編】


 旧鬼無里村根上地区にある内裏屋敷跡地(紅葉が住んだという)の鬼女紅葉供養塔(写真:wikipedia)

鬼無里では、紅葉も親しみやすく可愛らしく表現されています。

信州 鬼無里

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