青森を代表する風物詩の一つ・ねぶた祭。Wikipediaより(撮影:663highland氏)。
今回はそんな一つ、よく「青森弁(もっと大雑把な場合は東北弁)」とひとくくりにされがちな青森県の方言について、面白い取り組みがあったので紹介したいと思います。
■南部・下北・津軽…青森県の3大方言による交通安全スローガン
青森県警察では、地元県民に親しみやすく、効果的な広報を目的として青森県の方言を用いた交通安全スローガンを考えたそうです。
そして、選ばれたのがこちら。
青森の三大方言を比較すると
津軽弁意味わからんのがよくわかる pic.twitter.com/ieo9KiHuM0
— 杉@青森の魅力1000まとめ中 (@ke_nek) February 5, 2021

反射材の効果。「んだすけよ 夜出歩ぐんだば 反射材」
【南部弁】…青森県南東部
んだすけよ 夜出歩ぐんだば 反射材
※意訳:だからさぁ 夜に出歩くなら 反射材(をつけなさいよ)
【下北弁】…青森県下北半島(北東部)
わんつかの かもしれないを 持ってけせ
※意訳:少しでも 「かも知れない」という気持ちを 持ってください
【津軽弁】…青森県西部
わんつかだはんで けねでばな んだなへそいだば まねでばな
※意訳:ちょっとなら いいよね 同調しちゃ ダメだよね
南部弁はそのまま「夜間の外出には反射材を身につけよう」、下北弁は「かも知れない運転(※)を心がけよう」と分かりやすいですが、津軽弁は何がちょっとだけならいいのか、ダメなのかと言えば、飲酒運転を指しています。それは確かにちょっとでもダメですね。
(※)運転時の心構えで「あの曲がり角から、人が飛び出してくるかも知れない」などのように、常に用心を怠らないことを言います。
余談ながら筆者も仕事で3年ほど青森県むつ市(下北半島)に住んでいた時、南部弁と下北弁はある程度理解できるようになりましたが、津軽弁はハードルが高かったことを覚えています。

「車だはんで、まいね(車だから、お酒はダメ)」
【ここで登場する青森県の方言あれこれ】
だすけ…~だから。「ん」は強調。
※下北では「だして」or「だっきゃ」の方がよく聞かれました。
だば…~なら。ならば。
わんつか…少し。
け…くれ。下に「せ」をつけるとちょっと丁寧(下さい)に。
※下北ではよく「けじゃよ(下さいよ)」と使っていました。
※ちなみに、文脈によって「食え」の意味も。
だはんで…~だから。「はん」は関西弁の「~はる」からか。
※日本海に面しているから、関西文化が伝わりやすかったのでしょうか。
けね…OK。「構わねぇ」の訛り。
でば…~ではないか。語尾の「な」は同意を求めるニュアンス。
※昔、青森テレビで「いいでば!英語塾」なんて番組がありました。
んだな…同意。「そうだな」
~へ…読みは「He」。津軽弁でよく使われる語尾。「来いへ」
まね…ダメ。「まいね(参らねぇ=行かない)」の短縮形。
全体的に南部弁と下北弁には共通点が多く、西の津軽弁とは違いが際立っており、青森県を東西に二分している印象ですが、これには歴史的な理由があったとも言われています。
■青森方言が東西に分かれた理由?
戦国時代末期、青森県から岩手県北部にかけて支配していた南部(なんぶ)氏に対して、その家臣(一族との説もあり)である津軽為信(つがる ためのぶ)が謀叛を起こし、独立したのでした。

青森県の東西分裂を生みだした?津軽為信と南部信直。Wikipediaより。
そのため、南部地方では津軽地方に対して「裏切り者」と非難し、津軽地方も南部地方に対して「家臣を統率できなかったくせに、いつまでも主君ヅラするな」と負けていません。
現代でもたまにテレビ番組などで「南部と津軽は仲が悪い?」特集が組まれ、お互い「仲が悪いんじゃない。言葉が通じないだけだ(大意)」と言い合っています。
本気で憎しみ合っている訳じゃないのでしょうが、もう400年以上も昔のことですから、そろそろいいんじゃないでしょうか。
それはそうと、青森県警察では他にも方言を活用した広報標語(スローガン)を募集しており、県民から寄せられた豊かな表現を味わうことが出来るので、のぞいてみると楽しいですよ。
※参考:
方言を活用した広報標語 – 青森県警察
※参考文献:
佐藤和之ら編『日本のことばシリーズ2 青森県のことば』明治書院、2003年6月
佐藤亮一監修『標準語引き 日本方言辞典』小学館、2003年11月
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan