桜の花を肴に飲んで食べてわいわいするのも楽しいが、収穫物がある潮干狩りもまた違った楽しさがある。
お花見と同じように江戸時代から今日まで変わらない春のレジャー 潮干狩りを江戸っ子たちはどのように楽しんだのだろうか。
今回も浮世絵とともに見ていきたい。
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■早朝から舟で沖へ繰り出す春の一大イベント
『品川汐干狩之図』歌川広重(浮世絵検索)
晩春から初夏は潮の干満差が大きく、引き潮が日中にあたる。秋も同じように干潮差が大きいが、潮引きが深夜になってしまうため春が絶好の潮干狩りシーズンなのだ。
江戸の定番の潮干狩りスポットは芝浦、高輪、品川、佃島、深川州崎、中川沖などの江戸湾に面した地域だった。現在は埋め立てと都市化が進んだために海に面していないが、広く開けた江戸湾の風景が良かったことや宿場町で賑わっていたため、特に品川は人気が高かったという。

『江戸名所 品川沖汐干狩之図』歌川重宣(国立国会図書館デジタルコレクション)
近世後期の江戸やその近郊の年中行事をまとめた斎藤月岑による『東都歳事記』には、
潮干狩りについて次のように書かれている。
卯の刻過ぎより引き始めて午の半刻には海底陸地と変ず、ここに降り立ちて、蠣蛤を拾い、砂中の平目をふみ、引き残りたる浅汐に小魚を得て宴を催せり卯の刻は早朝6時頃で、午の刻は正午の頃にあたる。つまり、当時の潮干狩りは潮が引き始める早朝から舟で沖に出て、潮が完全に引く正午頃に船から降りてスタート。そして、獲れたアサリや蛤、小魚、ヒラメをその場で調理して宴を開いた。
■浮世絵で見る江戸時代の潮干狩り

『東京名所四十八景 洲崎乃汐干』歌川一景(国立国会図書館デジタルコレクション)
一回の収穫量もかなり多く、遠浅の江戸湾のわりと沖まで出ていたことが窺える。アサリはざくざく獲れたし、今では高級食材の蛤やヒラメまで獲れることもあった。
浮世絵にも潮干狩りを楽しむ女性や子供とともに、バシャバシャと跳ねるヒラメを力業で押さえる男性の姿が描かれている。

『江戸名所道外尽 十二 洲崎の汐干』歌川広景(国立国会図書館デジタルコレクション)
着物の裾を膝まで上げて、かごいっぱいのアサリを抱えた女性、
潮が引いた際に残ってしまったのであろうタコの出現に慌てふためく男女、
カニを捕まえて遊ぶ少年たち。
暖かい春の陽気の中、足元をジャブジャブさせながら江戸っ子たちは思い思いに遊び楽しんだ。そして、午後から夕方にかけて潮が満ちてくるので、再び舟に乗って戻る。
戻ったら家族や親戚、仲の良いご近所さんはもちろん、その場に居合わせた人達も混ざり獲れたての江戸前の海鮮を味わっただろうか。

『東都三十六景 洲さき汐干狩』歌川広重(国立国会図書館デジタルコレクション)
江戸っ子たちにとって、潮干狩りは早朝から海へと繰り出す一日がかりの一大イベントであったのだ。
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