桜が散ったら次に見頃を迎える花が藤だ。藤棚から下がる淡い薄紫色のカーテンのような花は、風がそよぐと甘い香りが漂い優しい気持ちにさせてくれる。


人気漫画『鬼滅の刃』では鬼が嫌う花とされており、作中の舞台の一つである藤襲山に咲き誇る藤は非常に美しく印象深いシーンでもある。

江戸で藤の名所として有名だったのが亀戸宰府天満宮だ。花が見頃を迎えると境内は藤見客で賑わい、名物の船橋屋の葛餅を頬張った。

■『古事記』や『源氏物語』にも登場。古くから日本人に親しまれてきた藤

【浮世絵で見る】もうすぐ見頃!江戸っ子たちも楽しんだ「亀戸天...の画像はこちら >>


歌川国貞『豊国国芳東錦絵 亀戸藤乃景』(国立国会図書館デジタルコレクション)

日本最古の歴史書である『古事記』には、春山之霞壮夫(ハルヤマノカスミヲトコ)が美しい藤の花を伊豆志乙女(イズシヲトメ)に贈って求婚し、結ばれるという神話が記されている。
『万葉集』には藤を詠んだ和歌があるほか、清少納言は『枕草子』の中で藤の色合いを詠んでいるし、紫式部も『源氏物語』で明石の君の美しさを藤の花に例えている。

【浮世絵で見る】もうすぐ見頃!江戸っ子たちも楽しんだ「亀戸天神」の藤の花


歌川広重『東都三十六景 亀戸天満宮』(国立国会図書館デジタルコレクション)

室町幕府の将軍 足利義詮や豊臣秀吉も観藤会を催しており、藤は古くから日本人に親しまれてきた。
江戸時代までは藤から取った繊維を使った「藤衣」と呼ばれる仕事着も作られていらようだ。

■江戸時代から現代まで変わらない藤の名所 亀戸天神

【浮世絵で見る】もうすぐ見頃!江戸っ子たちも楽しんだ「亀戸天神」の藤の花


歌川広重『名所江戸百景 亀戸天神境内』(国立国会図書館デジタルコレクション)

その藤の花の名所として江戸で随一の人気を誇ったのが亀戸宰府天満宮だった。

亀戸宰府天満宮は、寛文3(1663)年に太宰府天満宮を分祠したのが始まりで、学問の神様として江戸庶民の信仰を集めた。祀られている菅原道真が愛した梅の名所でもあるが、藤も同じくらい名高く「亀戸の五尺藤」「亀戸の藤浪」として広く親しまれていた。

歌川広重は境内に咲く藤を多くの作品に残しており、代表作の『名所江戸百景』では太鼓橋と藤の花を描いている。


【浮世絵で見る】もうすぐ見頃!江戸っ子たちも楽しんだ「亀戸天神」の藤の花


小林清親『亀井戸藤』

明治6(1873)年に東京府社となってから亀戸神社と号し、昭和11(1936)年に亀戸天神社となった。江戸が東京に変わってからも庶民に親しまれ続け、最後の浮世絵師 小林清親も明治になってからの藤咲く亀戸天神を描いている。繊細に描かれた水面に映る藤と太鼓橋が清親らしい。

亀戸天神といえば忘れてはいけないのが、葛餅で有名な船橋屋だ。天神を訪れる際は江戸っ子も愛した甘味もぜひ堪能してほしい。

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

編集部おすすめ