さて、男性のなかにひとりだけいる女性のことを、「紅一点」といいます。しかし、「紅一点」は本来女性のことを指す言葉ではありません。
本来「紅一点」の「紅」は女性のことではなく、異彩を放ちひときわ目を引く存在のことを指しています。
本来は似たり寄ったりの多数のなかにあって、ひとつだけ際立って目を引くようなものという意味だった「紅一点」が、男性のなかにいるたった一人の女性を指すようになったのです。
もともと、この「紅」とは、「柘榴(ざくろ)の花」のこと。
ザクロの花
「紅一点」とは、もともと中国の宋の詩人・王安石(おうあんせき・1021~1086)によって書かれた「詠柘榴 (えいせきりゅうし;ざくろをよむ)」という詩の一節、「万緑叢中紅一点」から来ています。
これは、「ばんりょくそうちゅうこういってん」と読み、一面の緑の草むらなかにある一輪の紅色の花の様子が読まれたものです。この詩から「紅一点」が、たくさんの同じようなものの中にあってただひとつ際立って異彩を放っているもののことを指すようになりました。
それが転じて、多数の男性の中の唯一の女性を指すようになったのです。
「紅一点」の類語として、「鶏群の一鶴」という言葉があります。
これは、「けいぐんのいっかく」と読み、鶏の群れの中にいる一羽の鶴が際立って目立つことから、凡庸な大勢のなかにひとり優れた人物が混じっていることを例えたものです。

群鶏図(画:伊藤若冲 )
「鶏群の一鶴」は、たくさんのもののなかでひとつだけ際立っていることを表しいることから、「紅一点」の本来の意味での類語といえそうです。
「紅一点」のように、長い時間をかけて意味を変えていく日本の言葉、調べてみると結構あったりするので、とても面白いです。
参考:前田 富祺 監修 『日本語源大辞典』(2005 小学館)
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