リストラする方も辛いけど、リストラされる方は食い扶持を失うわけですから、何としてでも生き残ろう、しがみつこうと必死に抵抗するもの。
徳川吉宗。Wikipediaより
今回紹介するのは第8代将軍・徳川吉宗(とくがわ よしむね)による大奥のリストラ。一筋縄ではいかない女性たちを、一体どのように納得させたのでしょうか?
■リストアップされた50人の美女たち
江戸時代、将軍の後継ぎを一人でも多く確保するために女性たちを囲い込んだ大奥ですが、時代が下るにつれて組織がどんどんふくれ上がり、財政を圧迫するようになってしまいました。
「上様。試算したところ、八百から千人ばかりの女性に暇を出さねば収支が追いつきませぬ」
「ふぅむ」
確かに、いくら後継ぎを確保するためとは言っても、そんなにたくさんの女性を抱えていたところで、将軍一人では相手し切れるものではありません。
「いきなり千人では混乱も大きかろうから、まずは五十人ずつ段階的に暇を出していくことにしよう」

楊洲周延「千代田之大奥 歌合 橋本」
そこでまず、大奥に対して50名分の名簿を提出するように命じますが、最初からリストラ候補と伝えたら、みんな明日は我が身とかばい合うに決まっています。
なので吉宗は一計を案じて、こんな風に伝えました。
「大奥の中から、気立ての良い者、美しい者、なるべくならその双方を兼ね備えた者を、皆の推薦でリストアップして欲しい」
これを聞いた大奥の女性陣は、吉宗が側室選びを始めたのだと思って、我も我もと大はしゃぎ。大奥の中でも、あっという間に選りすぐりの美女50名がリストアップされたのでした。
■そなたたちであれば……リストラ候補に選ばれた理由
「ほぅ……これはなかなか見事だなあ……」
連れて来られた美女たちの中には、これまで一度も手をつけていないような者も少なくありません。
何ともったいない、どれ一つ味を見ておこう……などとスケベ心が湧かないでもありませんが、ここは目的を思い出して我慢します。
「えー、いついつをもってそなたたちに暇(いとま)をとらせる」
吉宗の通告に、美女たちは我が耳を疑いました。
側室候補ならともかく、よもや自分がリストラ候補になろうとも夢にも思わなかった美女たちは、口々に抗議したことでしょう。
「何でですか!納得いく説明を求めます!」
「「「そーよそーよ!」」」
「私なんか召されてこの方、一度も味見すらされてないのに、一体何が気に入らないの!」
……などなど、怒れる美女たちに対して、吉宗は答えました。
「そなたたちほどの美女であれば、大奥を出ても良縁に恵まれるであろうからだ」

美女であれば、再就職も比較的容易?(イメージ)
普通、リストラと言えば役に立たない人材から順に切り捨てていくものですが、吉宗としてみればお気に入りの数名を除けば、後は美しかろうが醜かろうが、手をつけることのないカネ食い虫であることに違いはありません。
それなら、再就職先の見つけやすい美女から切ることで、リストラ≒むしろ評価されたという空気を作り、トラブルの緩和に努めたのでした。
「むしろ、今まで飼い殺し状態にしていて申し訳なかったと思う。どうかこれからは、よいところに嫁いでより幸せに暮らして欲しい」
確かに、指一本ふれられることのない将軍の妾より、他の武家でも公家でも商家でも、しっかりと愛情を注いでもらえる方が幸せになれる可能性は高いでしょう。
「上様……」
そこまで言われては、逆に大奥に居残るのも気まずすぎる……と思ったかはともかく、美女たちは将軍側室の夢を諦め、江戸城を去って行ったのでした。
■終わりに
かくして段階的に大奥のリストラを断行、最終的には1/3以下にまで削減していった吉宗でしたが、かつて自分を将軍に指名してくれた天英院(てんえいいん。第6代・徳川家宣の正室・近衛熙子)たちの威光には逆らえず、上層部には手が出せなかったと言います。
後世「暴れん坊将軍」とあだ名されるなど英邁闊達、豪気果断なイメージの吉宗ですが、女性陣には頭が上がらなかったと知ると、少し親近感が湧いてきますね。
※参考文献:
- 「歴史の真相」研究会『おもしろ日本史』宝島社、2021年10月
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan