■「指切りげんまん」の由来は吉原遊郭にあり

子供の頃に、「約束を絶対に守る」ことを誓う動作として「指切りげんまん」をやったことがある人は多いと思います。と言うより、やったことがない人はほとんどいないのではないでしょうか。


今回は、この子供らしくかわいらしい「指切りげんまん」に秘められた恐るべき意味について説明します。

「指切りげんまん」の動作は皆さんご存じですね。小指を絡め合ってあのフレーズを口にし、最後は「指切った」で小指同士を離します。

なんで絡めるのが「小指」なのかというと、昔は本当に「小指を切る」ことをもって約束の証としていたからです。

そんな恐ろしい形で約束しなくちゃいけないなんて、どこの世界の話だ……と思われるかも知れません。それは江戸時代の吉原遊郭です。小指を切断することは、男と女の愛の証だったのです。

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江戸時代の遊郭と言えば、男女の愛憎が入り乱れる場所でもありました。男にとっては歓楽街であり、女にとっては商売どころです。しかし時として、そこで出会った男女が恋愛関係に落ちることもありました。

そこで、客に惚れた遊女は、自らの愛情の証拠として、自らの「分身」を男に差し出していたのです。それは最初は髪の毛だったり、爪だったりしましたが、これがエスカレートして「小指」になったと言われています。


遊女が客に本気を伝える「心中立て」で行われた「切指」その凄まじい方法とは?

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もちろん女は不具の身となるので、男は相応の責任と覚悟を負うことになります。他の遊女と遊ぶわけにはいかなくなるでしょうし、見受けも考えなければいけないでしょう。

遊郭という場所で結ばれる男女の関係は、一夜限りのかりそめのものです。だからこそ、そこで本物の愛を証明するには、ただの言葉以上のものが必要だったのでしょう。

■「愛の証に小指を切断」はどこまで本当か?

……という話を聞くと、あまりにも重すぎて、聞いているこちらも気が重くなりますね。しかしこれは一種の都市伝説の可能性が高いです。当時の絵や戯曲で「小指を切るのは愛の誓いの証」という“考え方”は登場するのですが、では本当にそういう行為が慣習として定着していたのかというと、それを示す証拠はありません。

むしろ当時の文芸作品に登場する「指切り」のお話は、おふざけ、冗談、演技ばかりです。例えば寛政3年の『九替十年色地獄』には、指を切ろうとしている遊女の姿が描かれていますが、文章をよく読むと「ついでにこのち(血)ででき合のきしやうを二三枚かいて……」などと言っています。

遊郭で生まれた恐怖の風習!?「指切りげんまん」から読み解く人類文化の秘密


『九替十年色地獄』より。画像左上に「ついでに……」の文言が読み取れます

「きしやう」とは起請文のことで、男女が心中する時に誓いの言葉を書いて血判を押し、神社に納めるもの。「ついでに」という言い草には緊張感が感じられません。
江戸時代には小指の模造品が出回っていたという話もあり、本当に小指を切る遊女というのは多くはなかったのではないでしょうか。

ただ、責任の証として指を切断するという習慣は、別の世界には存在しますね。そう、ヤクザの「指詰め」です。これなどは、生活や身分が遊女と近い博徒に「指切り」の考え方が伝わり、これがその後もヤクザの慣習として受け継がれたと考えられています。

ですから、「本当に指を切る奴なんているわけないだろ」と一笑に付すこともできません。ちょっと話が広がりますが、ニューギニアのダニ族の女性は、家族が亡くなると指を切断し、苦しみや痛みを死者と分かち合う風習があるそうです。身体の一部を愛情や責任の証として捧げるという考え方は、世界共通の文化なのでしょう。

■「指」と人間の文化の関係

さて、「指切りげんまん」の「指切り」の由来は分かりました。では「げんまん」とは何かというと、漢字で書くと「拳万」になります。パンチで一万回ぶん殴るという意味なのです。

しかも、この歌は最後に「嘘ついたら針千本飲ます」と言っています。改めて歌詞の全体を見てみると「誓いの証に指を切った。
これで嘘ついたら一万回ぶん殴って千本の針を飲ませてやる」という凄まじい内容だと分かります。

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「針千本飲ます」はハリセンボンのことだという説もありますが、これは俗説

こうなると、もはや約束の歌ではなく脅迫の歌ですね。

ちなみに、指と指の触れ合いで約束を交わすという仕草は海外でも見られます。ベトナムでは人差し指で指切りを行いますし、台湾、中国、韓国では親指を触れ合わせて約束の証とするそうです。

アジアだけかと思ったらアメリカにもあるそうです。英語では「小指の約束」でピンキー・プロミス(pinky promise)、あるいは「小指の誓い」としてピンキー・スウェア(pinky swear)と呼ぶとか。日本と同じく、小指を絡ませるそうです。

アメリカの方の由来ははっきりしませんが、発祥は日本で、ペリーの来日がきっかけでアメリカに広まっていったという説があるそうです。

もともと西洋では「愛」の象徴は「薬指」とされています。だから結婚指輪は左手薬指につけるのですが、この、結婚指輪における「左手の指」の伝承と指切りげんまんの「小指」の伝承が合わさって、日本で「運命の赤い糸は左手の小指につながっている」という伝承が生まれたとされています。

しかも、そもそも「運命の赤い糸」という伝承は中国の物語が由来です。調べていくと、芋づる式にさまざまな伝承と結びついていくのは興味深いですね。


人間の文化と「指」は、どうやら「切っても切れない」関係にあるようです。

参考資料
火田博文『本当は怖い日本のしきたり』(彩図社・2019年)

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

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