目もくらむような高い工事現場を跳び回るように働く鳶(とび)職人。その颯爽とした姿から「現場の華」と呼ばれる彼らのトレードマークに「ニッカポッカ」を挙げる人は多いでしょう。


ニッカポッカと聞いてピンと来ない方でも「よく土建業の人が穿いているダボダボしたズボン」なら、イメージしやすいかと思います。

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あれを見て「カッコいい」と思う方や「ちょっとガラが悪そう」と思う方など、身近にいる着用者の印象から色んなイメージを持たれることでしょうが、どうして鳶職人はニッカポッカを愛用しているのでしょうか。

パッと見「ダボダボの裾が現場の突起物などに引っかかって危なそう」と思ってしまいますが、実は意外な合理性があったようです。

■意外と便利で安全?ニッカポッカのこんなメリット

ニッカポッカは裾が絞られ、その上にゆったり余裕を持たせた形状から、以下のような特徴があります。

  • 足首回りは自由が利いて小まめな足運びがしやすい
  • ゆったりした部分が軽く触れることで、障害物をあらかじめ察知しやすい
  • 熱がこもりにくく、快適
  • 汗をかいても膝回りに貼りつきにくく、動きを損ないにくい
  • 火花や破片などが散っても身体に直接ダメージを受けにくい
  • ダボダボ部分が風になびいて、風の強さをあらかじめ察知しやすい
  • カッコいい?怖そう?鳶職人がニッカポッカを愛用する意外な利便性と伝統を紹介


  • こうしたメリットから、やがて鳶職人だけでなく広く建築職人に広まり、現代のイメージとなっていったようです。

    中にはだらしなく着ていて、実際に危ない職人さんもいるのでしょうが、本来はそうした合理性・安全性のもとに愛用されていったのでした。

    ■欧米由来のニッカポッカと伝統的な袴の共通点

    ちなみに、ニッカポッカ(Knickerbocker)とはアメリカでオランダ系移民を意味しているそうで、彼らがよく穿いていた膝下丈の短ズボンに由来していると言います。

    当初はスポーツウェアとして使われ、日本でも同じ用途で入って来ましたが、誰かが「これは袴の代用(※)になる」と思ったのか、職人の服装として使われるようになったそうです。

カッコいい?怖そう?鳶職人がニッカポッカを愛用する意外な利便性と伝統を紹介


袴の裾をまとめた一例(イメージ)

(※)かつて日本人が袴を常用していた時代、給仕の際などに指貫(さしぬき。裾に紐を指し貫いて口を締められるようにした袴)を膝下で締めるなどの作法がありました。

洋の東西で生活文化は大きく違っていながら、合理性や安全性を突き詰めていくと、こうした共通点が見えてきて実に興味深いですね。

■終わりに

そんなニッカポッカですが、近年では安全基準の厳格化や作業服の機能向上、そして周囲に悪印象を与えるなどの理由から大手企業を中心に使用を禁止するところも増えていると言います。


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いつの時代も、安全第一(イメージ)

安全基準は順守すべきですし、より優れたものがあるならそちらが選ばれるのは妥当ですが、伝統的な美意識や価値観が悪しきものと印象づけられてしまうのは残念でなりません。

こういうイメージは、とかく着用者の立ち居振る舞いにかかっているものですから、是非ともニッカポッカを着用している方々は、職人としての誇りを胸に社会を支えて欲しいものです。

※参考文献:

  • 株式会社 労働調査会「雇用管理研修「基礎講習」資料 いま建設業に求められている雇用管理・改善の課題<令和3年度版>」2021年5月

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