だからこそ、とっておきの素晴らしい名前をつけたいと願うのが親心ではあるものの、その方向性がちょっとズレてしまうと、昨今で言うところの「キラキラネーム」になってしまうリスクも。
桓武天皇。妻の名が小屎と聞いて、どんな顔をしたのだろうか(画像:Wikipedia)
今回は平安時代、桓武天皇(かんむてんのう。第50代)の妻となった藤原小屎(ふじわらの おぐそ)を紹介。
現代でも屎尿(しにょう)と言う通り、我が子に排泄物の名前をつけるなんて、親御さんは一体何を考えていたのでしょうか……?
■鬼や悪霊も嫌がるゆえに……
言うまでもなく、排泄物は悪臭や細菌など不衛生であり、そのため人間のみならず鬼や悪霊もこれを嫌がるそうです。
なので魔除けになるとして、特に死亡率≒鬼や悪霊にとり憑かれるリスクの高かった子供に「屎」だの「~丸(まる。不浄の容器、おまる)」の名前をつけることで、
「これは汚いものですから、とり憑いたらあなたが汚れてしまいますよ」
というメッセージを発したのだとか。
「うわぁ、汚れちゃかなわん」逃げ出す鬼(イメージ)
なので、成長して免疫力が高まり、死亡率が低くなると元服してちゃんとした名前に改めるのが通例ですが、彼女はなぜか小屎のまま。
『尊卑分脈(そんぴぶんみゃく)』には藤原藤子(とうしorふじこ)との別名が記録されているものの、名づけにちょっと投げやり感も否めず、もしかしたら
「流石に皇統に連なる者に『屎』なんて文字があったら不都合だろう」
と、便宜的に仮称を当てがった可能性も否定できません(藤子≠小屎の別人説もあるようです)が、とりあえず普通に考えれば、小屎が幼名で、成人して藤子と改名したのでしょう。
桓武天皇に入内して延暦7年(788年)に第5皇子の茨田親王(まったしんのう。後に万多親王)を出産、その後のことは記録が残っていません。
■果たされた亡き祖父の悲願
ちなみに、彼女の入内についてはひと悶着あったそうで、祖父の藤原魚名(ふじわらの うおな)があまりにプッシュし過ぎたせいで鬱陶しがられ、魚名は失脚させられてしまったとか。
「我が孫を、可愛い孫娘を、是非とも……」
失脚してから間もない延暦2年(783年)に魚名は没してしまったものの、それを憐れんだのか、あるいは何か祟りでもあったのか、間もなく小屎の入内が決定。
入内を果たした藤原小屎、改め藤子(イメージ)
亡き祖父の悲願が果たされたのですが、もしかしたら小屎から改名させなかったのは魚名が彼女を可愛がるあまり、
「もし美しい名前をつけて、鬼に連れ去られでもしたらどうするつもりだ!大人になったからと言って油断は大敵じゃ!」
などと、頑として変えさせなかったのかも知れません。
入内の前後に藤子と美しい名前に改めたであろう彼女ですが、やはり小屎という名前のインパクトが強すぎて、そのまま記録に残り続けたのでしょう。
やっぱり、可愛い子ほどシンプルに美しい名前をつけるのがいいようですね。
※参考文献:
- 森田悌『日本後紀 下』講談社学術文庫、2007年2月
- 亀田隆之『奈良時代の政治と制度』吉川弘文館、2001年2月
- 荒俣宏『日本仰天起源』集英社文庫、1994年9月
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