奥州から駆けつけた源義経(演:菅田将暉)がいよいよ初陣。
三浦義澄(演:佐藤B作)「九郎殿。戦には二通りござってな。しなければならない戦と、しなくてもすむ戦。しなくてすむ戦なら、しないに越したことはない」そんな大人の意見など耳に入らぬ義経は、早くも周囲と対立することに。
天才軍略家の片鱗を見せたものの……老獪な上総介広常(演:佐藤浩市)の調略によって戦が終わり、せっかくの策が不発に終わってしまいましたね。
ついカッとなって佐竹義政(演:平田広明)を殺してしまった広常。歌川国芳「本朝水滸伝豪傑八百人一個 上総助広常」
まぁ、そう焦りなさんな。これから「しなければならない戦」が、たんと起こるでな……そんな気持ちで、若い九郎を観ていました。
片や、北条義時(演:小栗旬)の「感服いたしました」というフォローに、彼の成長ぶりを感じます。
今回は全体を通して、胃の腑がジリジリするような、陰鬱なもどかしさに包まれていた印象です。
■武功を焦る義経と周囲の温度差
何故そなたはヘイトを集めたがるのか……本人に悪気がないからなおタチが悪い。
持ち前の純粋さが、大好きな兄・源頼朝(演:大泉洋)の「坂東の者どもは信じ切ることができぬ」という言葉を真に受けさせたのでしょうか。
いきなりやって来て苦難を乗り越えてきた御家人たちに偉そうな態度をとれば、そりゃ嫌われるのも当然……でもまぁ、彼は二十歳前後の若者。筆者や読者諸賢だって、その頃は生意気盛りだったはず。

初陣に意気込む義経(イメージ)歌川国芳「名高百勇傳 源義経」
義経「ハハハ。経験もないのに自信もなかったら何もできない。違うか」強がる義経を、北条時政(演:坂東彌十郎)は笑って見守っていたのでしょう。時政は今回、最も共感できた一人でした。
時政「しかし九郎殿は面白い。『経験もないのに自信もなかったら何もできない』とは、よう言うたもんだのぅ。ハハハ。結構々々。うん、ハハハハハ……」これは嫌味なしで、純粋に若者らしい九郎の心意気を慈しんでいる父親のそれです。
(義時がホッとした笑みを浮かべていることから、そうと分かります)。しかし当の若者である義経にはまだわからず、苛立っている様子。
義時と義経って、年齢がそう変わらないはずですが、こういうところに苦労の差が出るものでしょうか。
ところで義経って、若い時に見ると「ひたすらカッコいいヒーロー」で、少し社会が解った気になると「才能や血統を鼻にかけた、いかすかねぇヤツ」に変わります。
そしてもう少し歳をとると「可愛い若者」になるような気がします。そんな気がしませんか。
北条政子(演:小池栄子)を義姉上と呼んで思いっきり甘えたりいじけたり、膝枕してもらっている姿はとても可愛かったですね。
しかし当時の御家人たちにそんな余裕などありません。頼朝は彼を可愛がっているようですが、やむにやまれず「その末路」をたどる未来が見えてしまいそうなデビュー戦でした。
■大庭景親(演:國村隼)の最期、史実との違い
広常をして「どちらが敗軍の将か、わからんな」と言わせしめた堂々たる態度。さすがは東国の御後見。実に立派な最期でした。

「東国の御後見」大庭景親の雄姿。
何なら泣きながら命乞いをする山内首藤経俊(演:山口馬木也)のみじめな態度は、景親を引き立てるためにあえてしてやったのではないかと思うほど。
(史実の経俊はその後も鎌倉の御家人として活動しますが、大河ドラマ的にはここでフェイドアウトでしょうか)
今まさに斬首されんとする時に笑い声を上げて見せた胆力から、平素の覚悟が察せられます。
ちなみに『吾妻鏡』によると、景親が降伏したのは治承4年(1180年)10月23日。その身柄はまず広常に預けられ、のち兄・大庭景義(かげよし。未登場)に引き渡されました。
「弟の助命嘆願をするか?」
頼朝の問いかけに対し、景義は助命嘆願をせず、命じられるまま弟の首を刎ねたと言います。
ここで助命嘆願をすれば、後に一族に累が及ばぬとも限らない……景義の胸中は複雑だったことでしょう(もともと仲が悪かった説もあり)。

せめて、兄の手で(イメージ)
そして10月26日、景親の首級は固瀬河(境川。現:神奈川県藤沢市)で梟首(きょうしゅ。さらし首)にされたのでした。
時政「一つ間違えば、俺たちの首があそこにかけられてたんだな」逆らった者は決して許さない……そんな頼朝の意思表明を前に、義澄は舅である伊東祐親(演:浅野和之)の身を案じるのですが……。
義澄「悪い男ではなかった……」
■実衣「得体の知れない人が、どんどん増えてく」
足立遠元(演:大野泰広)、牧宗親(演:山崎一)、源範頼(演:迫田孝也)……頼朝の勢力が拡大するにつれ、人材もどんどん集まります。
今まで「戦や政治は男のすること」とばかり、のんびりしていた政子や実衣(演:宮澤エマ)たちも、鎌倉殿の身内としてあれやこれや求められることに。
宗親のお作法レッスンにうんざりする実衣の様子は、まさに視聴者として感じる鎌倉の息苦しさでした。
また、人が増えればトラブルも増えます。
頼朝の愛妾である亀(演:江口のりこ)が八重姫(演:新垣結衣)の素性を知り、あえて頼朝との仲を見せつける場面などはその極致。

佐殿との仲をあえて見せつける亀と、傷つく八重姫(イメージ)
こういう人リアルにいますが、そんなことをして本人は楽しいのでしょうか。実に陰湿で裏表のある演技が光っていました。
また八重姫をめぐって義時と三浦義村(演:山本耕史)が三角関係?どっちもダメなのですが、義時の実にしつこいこと。
「もうやめとけよ小四郎。絶対に脈ないよ」誰か言ってやって下さい。平六(義村)辺りが「そろそろ前へ進めよ」って。
ところで草餅って、あんな音がするほど硬い食い物でしたっけ……あと、変な味がしたらためらわずに捨てて下さい。
男女の恋愛がらみでは、全成(演:新納慎也)に「あなたには赤が似合います」と声をかけられた実衣が、そこはかとなく照れていたのが一服の清涼剤でした。
■第11回「許されざる嘘」
以上、第10回「根拠なき自信」を振り返ってきました。サブタイトルは義経の態度を示していたんですね。
その他、頼朝に出す魚の小骨を取り除く場面や、和田義盛(演:横田栄司)の捕まえてきたヒヨドリ(実はツグミ)、義時がせっせと摘んだキノコなど細かな演出が盛りだくさんでした。
次週3月20日(日)放送の第11回「許されざる嘘」、いったいこれは何を示しているのでしょうか。
「得体の知れない」登場人物が増えてますます賑やかな「鎌倉殿の13人」、来週も目が離せませんね!
※参考文献:
- 『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 前編』NHK出版、2022年1月
- 『NHK2022年大河ドラマ 鎌倉殿の13人 完全読本』産経新聞出版、2022年1月
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