少し前の大河ドラマ「おんな城主 直虎」の直虎は女性でしたが、実は上杉謙信(うえすぎけんしん)にも「女性説」が存在します。
上杉謙信像(春日山城址)
この「上杉謙信=女性」説はいくつかの論拠によって支えられている一方、それに対する反論もあり、少しごちゃごちゃしています。
まずはっきりと結論を言えば、「上杉謙信は女性だったかも知れないが、確たる証拠はない」のが現状です。
もしも本当に上杉謙信が女性だったら『リボンの騎士』みたいで大変面白いのですが、今のところ「女性説」の根拠として挙げられているものはどれも証拠として完璧とは言えず、いくらでも反論可能なものばかりです。
とはいえ、「女性説」を完全に否定できるほどの根拠もありません。つまり「女性説」は、「もしかするとそうだったかも知れない仮説」の域を出ないのです。
まず、最初に「上杉謙信=女性」説を唱えたのは、作家である八切止夫氏です。
彼の著作には『上杉謙信は女人だった』というタイトルもあり、本人も歴史資料を綿密に調べた上で執筆するタイプの作家だったので(作風は決して硬派なものではありませんでしたが)、「女性説」はある程度の信頼性と興味を持って一般にも受け入れられました。
「女性説」が、歴史学の研究者界隈から出てきた説ではなかった点は興味深いですね。以下では、この説を支える根拠とその反論などを整理していきます。
■①スペインで発見された書簡
まず八切氏は、スペイン内戦の際に使用されたトレドの修道院から、15~16世紀の日本について記された文書を発見しています。
スペイン・トレドの建物
それは、ゴンザレスという人物が、戦国時代当時に日本からフェリペ2世に送った書簡で、そこには「上杉景勝は叔母が開発した佐渡の金を持っている」と記されていたそうです。
上杉景勝は謙信の姉である仙桃院の子です。
これに対する反論ですが、まずこのスペインで発見されたという文書は、その実在が確認されていません。また、上杉が佐渡を所有したのは謙信が亡くなった後なので内容的にも辻褄が合いません。
■②「毎月の腹痛」
八切氏によると、謙信は毎月10日頃に腹痛を起こしていたといいます。この腹痛はかなり激しいもので、戦の途中でもこの腹痛が起きると、謙信は陣を引き払って部屋に引き籠っていたそうです。
これを聞いて、女性の生理痛を連想する人も多いでしょう。ではこの「腹痛」の存在を示す史料にはどう書いてあるのかというと、徳川家康の外孫・松平忠明が記したとされる『当代記』です。これに、謙信の死因は「大虫」であると書かれているのです。
八切氏によると、「大虫」は実は「月経」の隠語だそうです。よって謙信は婦人病や月経に関する病気で亡くなったのではないか、というのです。
しかし、そもそも「大虫=月経」というのは誤りで、近い言葉で「おむし」という月経の隠語があるのでそれと間違えた可能性があるようです。
では大虫というのは何かというと、これは腹痛全般のことを指します。
実際、当時の史料で上杉謙信が「虫気」が原因で亡くなったと記しているものがあり、謙信が腹痛で亡くなったのは間違いないようです(脳卒中説は俗説で誤りの可能性が高い)。ただ、それが婦人病や月経に関するものだとする証拠は存在しません。
ちなみに付記しておくと、現代医療の観点からも、更年期障害の悪化が直接的な死因になることはないとされています。
【後編】では、有名な「生涯不犯」を根拠とする論説などを詳細に説明します。
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