「休め、気をつけ。前へならえ、なおれ。
まるで軍隊みたいだな…と思ったことはありませんか? 調べてみたら、まんま軍事訓練が元になっていました!
では、いつから学校で行うようになったのでしょうか。
■学校で行われる号令にによる「集団行動」
小学校で施行されている『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説・体育編』に次のような記述があります。
「集団行動」から抜粋
体育の授業における運動領域の学習では、学級単位あるいは学級を幾つかに分けた小集団で行われることが多く、そこでの活動を円滑に行うには、児童が学級単位あるいは小集団で、秩序正しく、能率的に行動するために必要な基本的なものを身に付けておくことが大切である。
これを実現するため、文部科学省が出している「学校体育実技指導資料 第5集『体育(保健体育)における集団行動指導の手引(改訂版)』」に基づき、全国各地の学校で教えられているというのが現状です。
■そもそものそもそもは、フランス軍がもたらした⁉
1866年、日本への出発前の顧問団(Wikipediaより)
ではこの号令は、何が発祥なのでしょう。
ざっくりと説明すると、1867年(慶応3年)、幕末の動乱期。幕府は軍隊の近代化に向けフランスと関係を持ち、軍事顧問団を招聘します。
フランス軍事顧問団の伝習兵への訓練の模様を小泉清澄が「幕末伝習隊」に記しており、そこに「号令」によって隊列を組むということを初めて習った様子が書いてあります
調練はその日から始まった。(略)およそ従来の古来兵法とは似てもにつかぬ稚児の遊びのような調練をやらされた。これは練体法というものであり、言うなれば基礎体力作りである。また、集団が号令のもと同じ動作をおこなうこと自体に意味があると顧問団の面々は陸軍方に伝えた。号令により、反射的に体を動かせるように成ればなるほど、苛烈な戦況下 で伝習兵達は戦士として威力を発揮すること になるのだと。(略)フランス語の号令とは、attention(気をつけ)、salut(敬礼)、arrêter(止まれ)などの言葉であった。
そして、田邉良輔がフランスの歩兵隊練法の書を和訳します。
そこには兵の隊列の仕方と【号令「直レ」「休 メ」「気ヲ=着ケ」】が書かれており、これが号令が書かれた最初の文書であるとされています。
表記は〈付ケ→着ケ→著ケ〉と変遷しますが、号令による集団行動は、富国強兵の一貫として学校教育の場で用いられるようになります。
しかし終戦後は、アメリカのGHQにより学校体育指導要綱が定められます。それまでの「教練」「体操」「武道」の三分野からなる「体練科」は、「体育科」として改められました。
もちろんこれは軍国主義の習わしを一掃しようとしたもので、一時期は武道である柔道や剣道も禁止となりました。文部省も1946年(昭和21年)に「気をつけ」の号令を使用不可とします。
やがて復興がすすみ、徐々にそういった規制が解除されると、1965年(昭和40年)には文部省から「集団行動指導の手びき」が出され、「気をつけ」号令は復活します。その時に「気をつけ」は平仮名表記になりました。

改正小学校体操教授書(武田鈴三 編、明36.12)

改正普通体操法図解(松木正吉 編、明治37.4)

「氣を着けが難しい」と書く『軍刀の光』〈大正1年(1912)、柴田克士著〉
■体育の言葉の起源は?
「体育」という言葉は、1876 年(明治9年)に文部省の教育雑誌の中に使用されたのが最初とされていますが、広く用いられるようになるのは70年後。
「身体に関する教育→身体之教育→身体教育→身教→体育」という変遷をたどり、1947 年(昭22年)に定着します。
〈変遷まとめ〉
1867年(慶応3年) 「氣ヲ付ケ」 暎國歩兵練法 赤松小三郎
1867年(慶応3年) 「氣ヲ着ケ」 令言図解 田邉良輔
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1940年(昭和15年) 「氣ヲ著ケ」 國民學校の研究 岩下吉衛
1942年(昭和17年) 「氣ヲ著ケ」 國民學校體錬科教授要項並実施細目 岐阜縣 文部省
1943年(昭和18年) 「氣ヲ著ケ」 學校教練教科書 後編 陸軍省兵務課
1946年(昭和21年) 秩序運動に必要な号令・隊列行進・徒手体操などは非軍事的態度で行うこと(通牒)。 文部省
1965年(昭和40年) 「気をつけ」 体育(保健体育)科における集団行動指導の手びき 文部省
1988年(昭和63年) 「気をつけ」 体育(保健体育)科における集団行動指導の手引き 文部省
このことから、体育・保健体育科における「集団行動」の根本は、幕末期フランス軍事顧問団を招聘したときまで遡れるということですね。この号令による集団行動は、現在教育として取り入れているのは、日本だけなのではないでしょうか。
日本国民は協調性や同調性が高いといわれますが、小学校時代に学ぶ「集団行動」の教育も大いに影響がありそうです。
参考:公益財団法人 日本学校体育研究連合会、体育の歴史と役割(城西国際大学)、Jstage(「気をつけ」号令と「気をつけ」姿勢の歴史)など
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