舞楽図 画:高島千春 文政11(1828)蘇利古
前回、蘇利古の紹介において、“古代の朝鮮において酒を醸造する時には、必ず先ず井戸と竈とを祀り、また舞を演じたので、竈祭舞(かまどまつりのまい)とも呼ぶ”とご紹介しました。
千と千尋の神隠しにも出ていた?雅楽の舞「蘇利古(そりこ)」の実に奇妙な面の謎【その1】
その竈祭舞とは何かというと、以下のような記述が見られます。
『古事記』に「諸人の以ち拝く竈神」といい、『続日本紀』天平三年(七三一)正月条に庭火御竈四時の祭祀を常例とするとある。また『延喜式』臨時祭には「鎮竈祭」および「御竈祭」がみえる。
竈は日常の飯食を炊ぐところであり、そのために火の穢を忌み竈神を祭ってその守護を祈ることが行われた。
ジャパンナレッジ(https://japanknowledge.com/introduction/keyword.html?i=735)より引用
このなかで“火の穢を忌み竈神を祭ってその守護を祈ることが行われた”と記されています。
日本では古来より“火”は穢れやすいものと考えられてきました。
火は時には人に火傷を負わせ、またあるときには家を、またあるときは山々をも燃やし尽くす危険なものだと知っていたからでしょう。
“竈(かまど)神”とは竈・囲炉裏・台所など家の中で火を使う場所に祀られる神であり、“火の神”であると同様に農業や家畜、家族を守る守護神とも考えられています。
日本の竈の神様

三宝荒神(ギメ東洋美術館)ウィキペディアより
日本仏教における尊像・“三宝荒神”は竈神として祀られることで有名です。
三宝荒神とは仏法僧の三宝を守護し、“清浄を尊んで不浄を排する”という仏神であり、竈神の火の神に繋がったと考えられています。
つまり“火”は不浄のものをも焼き尽くし、穢れも祓うという側面も持っているということです。
三宝荒神は、三面六臂または八面六臂で頭髪を逆立てて眼を吊り上げた、暴悪を罰せんとする慈悲が極まった憤怒の表情を示しています。
日本における陰陽道の竈の神

仏像図彙(部分) 堅牢地神の画:土佐秀信 国立国会図書館デジタルコレクションより
近畿地方や中国地方では、陰陽道の神・『土公神』が竈神がとして祀られました。
日本の神道における竈神とは

西野神社竈神鎮火札 ウィキペディアより
神道では三宝荒神ではなく竈三柱神を祀ります。
竈三柱神はオキツヒコ(奥津日子神)・オキツヒメ(奥津比売命)・カグツチ(軻遇突智、火産霊)とされ、オキツヒコ・オキツヒメが竈の神で、カグツチ(ホムスビ)が火の神とされています。
■竈はその家を表す
縄文時代の昔から、人は煮炊きをして食事をして生きていかなければなりませんでした。
“かまどが賑わう”と言えば、その家の繁栄を表します。
“かまどを破る”と言えば、破産する、身代をつぶすというように、その家の状況を表す言葉であり、竈とは家の幸不幸を表す、家の中心の場であるとも言えるでしょう。
そのためにも人々は古くから竈神を大切に祀り、繁栄や豊穣を祈り、災難のないよう願ってきたのです。
家の中で竈や台所は暗い印象があったので、影の領域・霊界と現世との境界として、竈神は両界の媒介をするという説もあります。
また、とても性格の激しい神といわれ、この神は粗末に扱うと罰が当たる、祟りをおよぼすといった伝承は強く残っています。
■余談
一大ブームとなった漫画『鬼滅の刃』の主人公の名前は“竈門炭治郎”ですね。
この名前を主人公に名付けたのは“竈”が家の中心であり、霊界と現世との境界であって、人間が生きていく上で“竈”が命を育む一番大切な場所として名付けたのではないでしょうか。
さて、次回は、ついに蘇利古の面の謎に具体的に迫っていきます。
“千と千尋の神隠しにも出ていた?雅楽の舞「蘇利古(そりこ)」の実に奇妙な面の謎【その3】”に続きます。お楽しみに。
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