終戦直後、GHQ(General Headquarters:連合国最高司令官総司令部)は日本にあるさまざまなものを破壊しましたが、理化学研究所にあった「サイクロトロン(円形加速器)」もそのひとつです。
現存する「理研・第3号サイクロトロン」のイオン加速器(Wikipediaより)
しかしこれは、GHQの無知といい加減さによる「暴挙」だったことが明らかになり、後に世界の科学者たちから非難されました。
事の経緯を追っていきます。
サイクロトロンとは、高周波電場と電磁石を使った荷電粒子加速器のことです。原子核物理学上の重要装置の一つでした。
原子核物理学は私たちの生活にも大きく関わる学問で、医療や農業、セキュリティなど幅広い分野で活用されていますが、1945年当時の日本にはサイクロトロンが複数台存在し、そのうち東京の理化学研究所にあったものは世界最大級のものでした。
これを製作した理化学研究所の仁科芳雄博士は、戦後サイクロトロンを使って放射性同位体を作り、各分野に活用できる研究をスタートさせる予定でした。この研究についてはGHQからも許可を得ていたといいます。
「現代物理学の父」と呼ばれ、朝永振一郎などの弟子を輩出した仁科芳雄博士(Wikipediaより)
■アメリカからも非難される
しかし1945年11月、これらの機器はGHQによってすべて破壊されてしまいます。米陸軍省の命により、数百トンある機器はバーナーで焼き切られ、すべてトレーラーで運ばれて海に沈められました。
大阪大学と京都大学にあったものも合わせて、合計4台のサイクロトロンが破壊・破棄されてしまったのです。
破壊の理由は「サイクロトロンは原爆開発に利用される」と懸念されたからでした。いや原爆落としたのはそっちだろうと突っ込みたくなるところです。
先述の通り、理化学研究所のサイクロトロンの製作には、戦時中でありながらもアメリカの物理学者の協力がありました。
これについてGHQは「サイクロトロンの破壊はアメリカ国内の科学者も同意の上である」としていました。
しかし実際は、アメリカの原爆開発に関わっていた陸軍のブリット少佐という人物が、サイクロトロンを原爆開発に関係する装置と勘違いしていたそうです。彼は陸軍長官の承認を得ないまま、GHQに対して装置の破壊を働きかけたのでした。
この破壊行為に対してはアメリカ国内からも非難の声があがり、マサチューセッツ工科大学の科学者らは陸軍長官に抗議文を送り付けています。
■科学史上の汚点
陸軍長官は、破壊命令が誤りであったことや、科学者の意見を問うべきであったことなど声明を発表し、謝罪しました。
当時最先端の研究装置であった日本のサイクロトロンの破壊は、国内だけでなく世界の科学者の間でも大きな損失となり、今では科学史の汚点とも言われています。
特に日本の物理学界は、これによって世界から大きな遅れを取ることになりました。ようやくサイクロトロンの再建が決定したころには、世界ではシンクロトロンという最新の加速器が生まれていたのです。
しかし日本の研究者は諦めず、1955年に東京大学は新たにシンクロトロンを導入した原子核研究所を創設しています。
素粒子原子核研究所が所在する「高エネルギー加速器研究機構つくばキャンパス」(Wikipediaより)
そして現在では理化学研究所の加速器を使用して113番目の新元素が発見されるなど、日本の物理学のさらなる発展が期待されています。
参考資料
- 産経新聞
- 原子力産業新聞
- GHQ史料から見たサイクロトロン破壊
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan
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