どっちが上座で下座か、ひとつ間違うだけでも喧嘩になることもあって、なかなか神経をすり減らした経験があります。
鎌倉幕府に仕えた御家人たちもそんなことがあったようで、今回は三浦義村(演:山本耕史)のエピソードを紹介。果たして、平六に何があったのでしょうか。
■実朝の直衣始に臨んで
時は建保6年(1218年)7月8日。鎌倉殿・源実朝(演:柿澤勇人)が直衣始で鶴岡八幡宮寺へ参詣されます。
直衣始(のうしはじめ)とは、公卿(くぎょう。三位以上の最上級貴族)として勅許(ちょっきょ。天皇陛下のお許し)を受け、直衣を着初める儀式のこと。ともかくハレの舞台です。
直衣始に臨む実朝(イメージ)松岡映丘「右大臣実朝」
さぁ、八幡様へ出発……と思ったら、いつまで経っても前に進みません。
「どうしたんだ?」
「それが……」
事情を訊くと、牛車を護衛する随兵の序列が定まらないと言うのです。
「三浦殿と長江(ながえ。長江四郎明義)殿が、互いに譲り合っています」
「事前に決めておかなかったのか?」
もちろん決めてありました。
「確かにそれがしは左衛門尉(さゑもんのじょう)の官職を得ているが、長江殿は三浦の古老。それを差し措いて上列(二列で随行する左側)に就くようなことがあれば、心ある者たちの非難は免れますまい」
長江四郎明義(ながえ しろうあきよし)の母は三浦義明(よしあき。義村の祖父)の娘で、義村とは従兄弟に当たります。しかしかつての和田義盛(演:横田栄司)と同じく、親子ほどの年齢差がありました。
だから年長者に先を譲りたい気持ちも解りますが、それでは朝廷から定められた序列のけじめがつきません。
なかなか出発できず、待ちくたびれる御家人たち(イメージ)
「なるほど、相分かった」
双方の言い分を聞いた実朝は、今回に限り長江明義を上列としました。
「三浦はまだ若いから、今後も機会は多かろう。しかし長江は高齢だから、これが最後になるかも知れない。よいな」
「「ははあ」」
こうして随兵の序列は改まり、実朝ご一行は無事に出発できたということです。
■終わりに
……義村申云。明義爲高年。どっちが右で左か。一見どうでもいいようですが、とかく体面が一族の勢力に影響する武士たちにとっては、序列の決定は時として死活問題にもなり得ました。難候于右云々。明義申云。義村有官之上継三浦介義澄之遺跡。尤可列左也云々。此礼節移剋。頗爲御出煩之由。大夫判官行村參申于御前。仰曰。各存穩便。尤絶感。今日御出之儀。殊所被執思食也。而義村可有後榮。明義者無前途者歟。然者令候于左。可備子孫之眉目者。行村相觸御氣色趣之間。不能重申子細。長江爲左……
※『吾妻鏡』建保6年(1218年)7月8日条
序列にうるさい御家人と、うるさがる御家人(イメージ)
現代でも序列にうるさい人がいるのは、もしかしたら彼らも武士の精神を受け継いでいるのかも知れませんね。
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」ではたぶん割愛されるでしょうが、折々に行われた儀礼の陰にこうした小ドラマが繰り広げられていたと思うと、大河鑑賞もより深く味わえることでしょう。
※参考文献:
- 五味文彦ら編『現代語訳 吾妻鏡8 承久の乱』吉川弘文館、2010年4月
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan
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