例えば平成23年(2011年)3月11日に発生した東日本大震災では、大津波によって無数の構造物がなすすべもなく流されてしまいました。
今にも崩れそうなボロ屋なら諦めもつくでしょうが、新築ピカピカのマイホームが被災してしまった時など、もう目も当てられません。
「あぁ、ローンがまだ始まったばかりなのに……」
そんな悲しみ・悔しさは古今東西変わらなかったはず。もちろん鎌倉時代の御家人たちも同じ思いに打ちひしがれたろうと察します。
鎌倉幕府の重鎮として活躍、義時・泰時らを補佐した北条時房(右)。
今回は鎌倉幕府の公式記録『吾妻鏡』より、トキューサこと北条時房(ほうじょう ときふさ)のエピソードを紹介。彼の新築マイホームは、一体どうなってしまったのでしょうか。
■せっかく建てたばかりなのに……時房の嘆き
陰。寅刻大風。巳刻風休止之後。相州新造亭顛倒。卜筮之所告。頗不快云云。
※『吾妻鏡』承久元年(1219年)11月21日条
【意訳】曇り。午前4:00ごろに強風が起こり、午前10:00ごろまで吹き荒れた。何とか風が収まると、時房(相州、相模守)の新築マイホームが吹っ飛んでしまっていた。これは縁起がよいのか悪いのか占わせたところ、結果は「すこぶる不吉」とのことである。
気象庁データによると、木造家屋が倒壊し始める風速は毎秒40メートル以上と言われており、時速に直すと144キロ。プロ野球のピッチャーが投げるスピードを全身で受け止めるような感覚でしょうか。
(ただし当時の建築技術を考えると、もう少し風速が弱くても倒壊しそうですが)
最近では令和2年(2020年)10月に猛威を振るった台風14号がこのクラスになります(瞬間最大風速は60メートル毎秒)。

暴風で吹っ飛ばされるトキューサ邸(イメージ)
ところで『吾妻鏡』では時房の家だけ倒れたように書いていますが、恐らく周囲の民家なども甚大な被害を受けたはずです。
しかし、もしそうなら「多くの家が被害を受け、時房の家も倒壊した」的な書き方をするはず。まさか、本当に時房の家だけがピンポイント倒れたのでしょうか。
あるいは『吾妻鏡』の編纂者にとって「時房の新築マイホームが吹っ飛んだ」というインパクトがよほど強かったとも考えられます。
「あぁ……せっかく建てたばかりだったのに……」
時房の嘆くまいことか。
占いの結果はやっぱり大凶。すこぶる不快ということで、その後時房に何が起こったのか心配になってしまいますね(※『吾妻鏡』にはしばらく時房に関する記述なし)。
■終わりに

トキューサ邸の復旧作業(イメージ)
以上、新築マイホームが暴風で倒壊し、その後しばらく災難続きだった(であろう)北条時房のエピソードを紹介しました。その後、時房が再建した家はさぞかし強風対策に力を入れたことでしょう。
もしNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でこのエピソードをやってくれたら、瀬戸康史さんがどんな顔で演じてくれるのか。想像するだけでも楽しみですね!
※参考文献:
- 五味文彦ら編『現代語訳 吾妻鏡8 承久の乱』吉川弘文館、2010年4月
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan