日本では、銀行のトップのことを「頭取」と呼びますが、この「頭取」という言葉自体は、銀行誕生以前に日本に使われていた言葉です。

そのルーツにあたるのが、なんと日本の古典音楽の一つである「雅楽」です。


「打ち合わせ」や「三拍子そろう」も!日本の古典音楽「雅楽」が...の画像はこちら >>


雅楽の世界では、もともと合奏において、首席で演奏する人、なかでも管楽器の首席演奏者のことを「音頭取り」と呼んでいました。あの「音頭を取る」の語源にもなった言葉です。

やがて、歌舞伎や能で小鼓を叩く3人のうちで、中央の座の人を「頭取」と呼ぶようになります。

さらに時代が下るにつれて、「雅楽において音頭を取る人」という意味から、集団やチームのトップという意味合いに変化していき、「力士をとりまとめる人」や「劇場公演などで楽屋をとりまとめる人」なんかも「頭取」と呼ぶようになっていきます。

1869(明治2)年、今の銀行の前身である「為替会社」が設立された際、出資者の代表のことを「頭取」といいました。それが程なくしてこうして、銀行において、指揮を執る人を「頭取」と呼ぶようになりました。

このように、日本語の中には、日本の伝統音楽であった「雅楽」由来のものも多くあり、普段はそのことをすっかり忘れて、日常生活で使っていたりします。

今回は、そんな「雅楽」に由来する日本語をいくつか見ていきましょう!

■「打ち合わせ」

イベントがうまくいったり、仕事の段取りがうまく進むようにするように、メンバーが話し合いを重ねる光景はよく見られます。このように、関係者が事前に「打ち合わせ」していくことは、事業がうまくいくためにも必要なステップです。

この普段からよく使う「打ち合わせ」という言葉のルーツは、実は雅楽にあります。

雅楽で使われる笙(しょう)などの管楽器、琵琶に代表される弦楽器、リズムを刻む太鼓などの打楽器などと、これらの音程やリズムを合わせるために、「笏拍子」(しゃくびょうし)と呼ばれる打楽器を打って拍手を調整することを、「打ち合わせ」といっていました。

■「かん(甲)高い」

元々雅楽の歌謡では、同じ音のオクターブ以上の音のことを「甲(かん)」、基音のことを「乙(おつ)」と呼んでいました。
「甲高い(かんだかい)」という言い方も、実は個々に由来しています。

「かん高い声」なんていうと、ちょっと耳障りな高い声のことを指してますが、反対に、基音に渋みのある独特の雰囲気があることから、「乙な声」などと表現されるようになったといわれています。

現在では、例えば、「今日の味噌汁、なかなかおつな味だったよ」なんていえば、「味わい深みのある味だった」ということになります。

■「三拍子そろう」

「あの選手は、打つ・走る・守ると、三拍子揃った好選手だ」なんていうと、重要な3つの条件や、大切な条件がすべて揃っていることを意味していますが、実はこれも雅楽起源の言葉です。

もともとは、小鼓(こつづみ)・大鼓(おおかわ)・笛(または太鼓)の3種の楽器で拍子がぴったり取れたことをいったようです。ちなみに3月3日の「桃の節句」(ひな祭り)の雛人形の「五人囃子(ごにんばやし)」はこの3人に「笛」「謡(うたい)」の二人が加わった五人になります。

さて、いかがでしたでしょうか。「雅楽」をはじめとして、日本語には、日本の伝統芸能由来の言葉がまだまだあります。これを機に是非、普段使われている言葉の由来を気にされてみても良いかもしれませんね。

参考

  • 小松 寿雄ら (編)『新明解 語源辞典』第8版(2011 三省堂)
  • 博学面白倶楽部『その言葉のおもしろルーツ』(2022 三笠書房)

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