今回ご紹介するのは、万葉集のとある歌。大きな権力を持つ人物から自分の娘への求婚があった大伴家持(おおとものやかもち)が、どのようにそれを断ったのか、ご紹介していきましょう。
■今回ご紹介する大伴家持の歌とは?
狩野探幽 画
今回ご紹介するのは、『万葉集』の巻の四、790番の歌です。作者は大伴家持(おおとものやかもち)。大伴家持は奈良時代の歌人・公卿であり、三十六歌仙のうちのひとりです。父親は大納言の大伴旅人。『万葉集』末期の代表歌人と言える人物です。
そんな彼の歌のうち、今回ご紹介するのは「春風の 音にし出なば ありさりて 今ならずとも 君がまにまに」というもの。現代語訳は「春風がはっきり音を立てて吹くようになったら(娘が成長したら)、心の霧も払われるでしょう。それまで、今はこのままそっとしておいてくだささい。時が来たら、あなたさまの気持にお任せいたしましょう」です。
■大伴家持の娘に求婚したのは……?
上記の歌は、大伴家持の娘に来た求婚をやんわりと断る内容です。
■大切な娘を、まだ渡したくない……!
当時は男性が15歳、女性は13歳で結婚が許されていました。そんな状況のなか、藤原久須麻呂から求婚があったとき、大伴家持の娘は12歳でした。愛妾の子どもではありましたが、愛情をかけてきた大切な娘。家持は、まだ恋を知らないような娘の気持ちを考え、結婚はもう少し待ってほしいと断ることにします。
■求婚は断る!だけど丁寧に
先ほどの歌(春風の 音にし出なば ありさりて 今ならずとも 君がまにまに)に戻りましょう「春風がはっきり音を立てて吹くようになったら(娘が成長したら)」と言って「今は待ってほしい」と求婚を断る旨を伝えています。しかし、「時が来たら、あなたさまの気持にお任せいたしましょう(あなたさまのお心のままに)」と、将来への含みを持たせています。
権力を持つ人物との結びつきを持ちたいという気持ち、または娘を大切にする気持ち、そのどちらもが大伴家持にはあったのかもしれませんね。
いかがでしたか?この記事が、みなさんが少しでも日本文化や歴史の面白さに興味を持つきっかけになれば嬉しいです。
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