■「高級西洋料理」だったカレー

カレーは今や日本人にとって国民食と言えるほど親しまれていますが、その歴史は意外にも波乱に満ちていました。実は、日本でカレーが国民食になるまでには、日本初の食品偽装事件を経なければならなかったのです。


その事件とは、1931年(昭和6年)に発覚したC&Bカレー粉偽装事件と呼ばれるものです。今回はこの事件の内容と起きた背景、そして日本のカレー文化に与えた影響を解説します。

まずは事件の背景を見ていきましょう。当時から、カレー粉はインドの料理に欠かせないスパイスでしたが、実はもともとカレー粉というものはインドにはなく、イギリスの発明品です。

イギリス人がインドのカレー料理を再現するために発明したカレー粉は、19世紀にイギリスのクロス・アンド・ブラックウェル社(以下C&B社)が最初に商品化しました。

戦前にもあった食品偽装事件。高級料理「カレー」が国民食となっ...の画像はこちら >>


C&B社のピクルスの広告(Wikipediaより)

この会社は高品質な食品を提供することで有名でした。 そのため、イギリス産のカレー粉は品質や味が高いとされており、日本でも最高級品として流通していました。

こんな背景もあって、当時はカレーというのは高級西洋料理として認知されていたのです。

■価値が低かった国産のカレー粉

一方、日本で初めて発売された国産のカレー粉は、1905年(明治38年)に大阪の薬種問屋「今村弥」が開発したものでした。

この会社は、インドから輸入されたスパイスを使って、日本人の味覚に合わせたカレー粉を作りました。

しかし当時の日本では、先述の通りカレーは西洋料理として認識されており、イギリス製のカレー粉こそが本物だというイメージが強くありました。

そのため、国産のカレー粉は、C&Bカレー粉に比べて劣っていると見られていたのです。


戦前にもあった食品偽装事件。高級料理「カレー」が国民食となった驚きの理由とは?


そんな中で起きたのが、C&Bカレー粉偽装事件でした。

これは東京の食品卸売業者が、C&B社の缶に国産の安価なカレー粉を詰め替えて販売していたことがばれて、警視庁に摘発されたというものです。

この業者の手口は、空っぽのC&B社の缶に国産のカレー粉を入れて再び封をするというものでした。偽装はかなりの長期間にわたって行われていたようです。



■思い込みからの解放とカレーの普及

この事件は大きなニュースとなり、社会的な衝撃を与えました。特に驚いたのはプロの料理人やカレー愛好家です。彼らは、C&B社の缶に国産のカレー粉が入っていても味の違いが分からなかったことにショックを受けました。

C&B社のカレー粉こそが最高級品で、国産のカレー粉は劣っているいう思い込みが打ち砕かれてしまったのです。

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食品偽装はもちろん悪いことですが、長い目で見ると、この事件は日本のカレー文化に貢献する形になったのが歴史の面白いところです。これによって「なんだ、日本産のカレー粉も十分おいしいじゃないか!」と、国産のカレー粉の品質や味が見直されたのです。

C&B社のカレー粉に劣らないことが証明された国産のカレー粉は、日本人の味覚や食文化に合わせて調整されていることも広く知られるようになり、安価でもおいしいということがはっきり分かったのです。

この事件がなければ、今では100~200円程度のレトルト形式で気軽に食べられるカレーという料理は、まったく違った形になっていたかも知れません。


参考資料
オリエンタルショッピング
カレー産業の歴史
ハウス食品
雑学ネタ帳

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

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