今年の大河ドラマの主役として、何かと話題になる紫式部。もちろん『源氏物語』の作者として知らない人はいないと思います。
紫式部(土佐光起画・Wikipediaより)
しかし実はこの「紫式部」という名前は、本名ではありません。このことを知らない人は意外に多いようです。
しかも、紫式部だけではありません。大河ドラマ『光る君へ』に登場するビッグネーム・清少納言や和泉式部、さらに赤染衛門などの女性たちについても、歴史的に知られてきたこの名称はやはり本名ではないのです。
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では彼女たちの、この一般によく知られた名前は何なのかというと「女房名」です。紫式部も清少納言も、朝廷に仕えていました。いわゆる宮仕えですが、この宮仕えをする女性のことを「女房」と呼んだのです。
つまり女房名というのは仕事上の呼び名のことなのですが、これにはその女性の苗字から一文字取ったり、父・夫・兄弟や祖父などの官職の名称を組み合わせたりするのが一般的でした。
■『源氏物語』あってこその「紫式部」
では紫式部の本名は何だったのかというと、不明です。
これは珍しいことではなく、当時活躍した女性たちの本名がはっきりしているのは、皇后や中宮クラスの高い位の人たちに限られるからです。
すると紫式部という名前の由来は何なのかという話になりますね。

17世紀(江戸時代初期)の紫式部を描いた金箔をはった扇子(Wikipediaより)
実は、紫式部はもともとは藤式部と呼ばれていました。
これは、父親が藤原姓なので「藤」の一文字がつき、さらに父親あるいは兄が式部省というところで働いていたことからつけられた呼び名です。
藤式部が紫式部に変わったのは、『源氏物語』に登場する紫上にちなんだからだという説が有力です。
紫式部が生み出した『源氏物語』によって、今度は逆に作者の呼び名まで変わってしまったのだから面白いですね。
■由来が分かる人、不明の人
ちなみに、父親が式部省の役人だったという点は、歌人の和泉式部も同様です。では和泉の字はどこから来たかというと、これは夫が「和泉国」の国司だったことに由来します。
また、和泉式部の同僚の赤染衛門の場合は、「赤染」は母親の再婚相手の苗字に由来し、さらにその再婚相手の男性が衛門府という役所に仕えていたため「衛門」がついたのでした。
このように、『光る君へ』に登場する主要な人々の名前(呼称)の由来はある程度はっきりしているか、もしくは推測が可能です。
ただ、分からないのが清少納言です。清少納言と言えば、言わずと知れた『源氏物語』と並ぶ平安期の女流文学作品『枕草子』の作者ですが、彼女の名前の由来ははっきりしません。

土井光起『清少納言図』(Wikipediaより)
清少納言は苗字が清原なので、「清」がそこから取られたのはすぐ分かります。しかし「少納言」が分かりません。少納言は天皇のもとで働く官職の一種です。
よって、清少納言については本名も不明、呼称の由来も不明と、謎に包まれています。
【後編】では、さらに紫式部の娘などについても解説します。
【後編】の記事はこちら
大河ドラマ「光る君へ」の主人公・紫式部は本名ではなかった!では本当の名前は……?【後編】

参考資料:
歴史探求楽会・編『源氏物語と紫式部 ドラマが10倍楽しくなる本』(プレジデント社・2023年)
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