NHK大河ドラマ「光る君へ」、皆さんも楽しんでいますか?

劇中では妻帯描写がほとんどない藤原道兼。第1回放送「約束の月」では、結婚願望をこじらせていましたね。


しかしその後、実は叔母の藤原繁子と結婚。娘(後の藤原尊子)の存在が言及されています。

なお道兼には他にも子供がおり、その長男は名を藤原福足君(ふくたりぎみ)と言いました。

幼名から察する通り、この子は元服を迎えることなく世を去っています。

今回は平安時代の歴史物語『大鏡』より、藤原福足君のエピソードを紹介しましょう。

■いとあさましき悪童

……この粟田殿の御男君達三人ぞおはせし。太郎君は福足君と申しゝを、幼き人は、さのみこそはと思へど、いとあさましくまさなく悪しくぞおはせし。……

※佐藤球『大鏡』右大臣道兼より

【意訳】道兼(粟田殿)には三人の息子がおり、その長男を福足君と言いました。
この子は幼いころから呆れるほどの悪童だったそうです。

【コメント】何だか、のっけから不穏な感じですね。具体的には何をやらかしてきたのでしょうか。

■無理やり舞を稽古させるが……。


蛇を殺した祟りで病死…藤原道兼の嫡男・藤原福足君とはどんな人...の画像はこちら >>


イメージ

……東三条殿の御賀に、この君舞をせさせ奉らむとて、ならはせ給ふ程も、あやにくがりすまひ給へど、よろづにおこづり、いのりをさへして、教へ聞えさするに、……

※佐藤球『大鏡』右大臣道兼より

【意訳】道兼は父・兼家(東三条殿)のお祝いに、舞を披露させようと福足君に舞を稽古させました。
しかし、たいそう嫌がって万事手こずり、道兼は神仏に祈祷してまで教え込んだと言います。

【コメント】子供に芸を仕込んで宴会のウケを狙うのはよくある手ですね。しかし、そんなに嫌がるのを無理強いするのはいかがなものかと……。



■いざ本番、泣き出した福足君

……その日になりて、いみじうしたて奉り給へるに、舞台の上にのぼり給ひて、物の調子吹きいづるほどに、わざはひかな、「あれはまはじ」とて、びむづらひきみだり、御装束をはらはらと引きやり給ふに、……

※佐藤球『大鏡』右大臣道兼より

【意訳】さて当日。いよいよ福足君が舞を披露する段に及んで、演奏が始まりました。
しかし福足君は「もう嫌だ、舞なんてやらない!」と自ら装束を脱ぎ捨ててしまいます。

【コメント】ほら言わんこっちゃない。子供にできる最大限の復讐をかまされてしまいました。

■道兼は真っ青、それを見ていた道隆は……。

蛇を殺した祟りで病死…藤原道兼の嫡男・藤原福足君とはどんな人物だった?その短い生涯をたどる【光る君へ】


菊池容斎『前賢故実』より、藤原道隆。

……粟田殿、御色真青にならせ給ひて、あれにもあらぬ御けしきなり。
ありとある人、「さおもへることよ」と見給へど、すべきやうもなきに、御をぢの中ノ関白殿の、おりて舞台に上らせ給へば、……

※佐藤球『大鏡』右大臣道兼より

【意訳】さぁ大変、せっかくの祝宴が台無しです。
道兼は真っ青、周囲もざわつくばかりで下手に手出しできません。
そんな中、福足君の伯父である道隆(中ノ関白殿)が舞台へ上がったのでした。

【コメント】果たして、道隆は福足君をどうする気なのでしょうか。



■道隆、とっさのナイスフォロー

……いひおこづらせ給ふべきか、又にくさにえたへず、追ひおろさせ給ふべきかと、かたがた見侍りし程に、この君を、御腰の程にひきつけさせ給ひて、御手づからいみじう舞はせ給ひしこそ、……

※佐藤球『大鏡』右大臣道兼より

【意訳】福足君を叱りつけるのか、それとも見苦しいから連れ去ってしまうのか。
周囲が固唾を呑んで見守る中、道隆は福足君をやさしく抱き寄せ、小さなお手手をとって一緒に舞い始めたのです。

【コメント】お、とっさの機転を聞かせて、可愛らしくお遊戯を始めました。
そうですよね、子供だから難しい舞よりも、こっちの方が楽しいでしょう。

■兼家は上機嫌、一同胸を撫で下ろす

蛇を殺した祟りで病死…藤原道兼の嫡男・藤原福足君とはどんな人物だった?その短い生涯をたどる【光る君へ】


菊池容斎『前賢故実』より、藤原兼家。

……楽をまさりおもしろく、かの君の御恥もかくれ、その日の興もことの外にまさりたりけれ、祖父殿もうれしと思したりけり。父おとゞはさらなり。……

※佐藤球『大鏡』右大臣道兼より

【意訳】演奏も再開されて、道隆と福足君は愉快にお遊戯。
宴席の空気もすっかりほぐれ、兼家も大喜び。道兼(父おとゞ)は胸を撫で下ろしたのでした。

【コメント】ひとまずみんな楽しそうで、よかったですね。終わりよければすべてよし、道隆の機転に感謝したことでしょう。

■名を上げた道隆、引き立て役になってしまった道兼

……よその人だにこそ、すゞろに感じ奉りけれ。かやうに人のためなさけなさけしき所おはしましけるに、など御末かれさせ給ひにけむ。……

※佐藤球『大鏡』右大臣道兼より

【意訳】それにしても、道隆の機転は立派なこと。道隆の一族は末永く栄えることであろう。人々はそう賞賛しました。

【コメント】道隆の評価が高まる一方で、道兼は子供に芸を無理強いさせたことなど、評判を落としてしまったようです。
それにしても、つくづく不憫な道兼ですね。



■蛇を殺した祟りで病死

蛇を殺した祟りで病死…藤原道兼の嫡男・藤原福足君とはどんな人物だった?その短い生涯をたどる【光る君へ】


イメージ

……この君、人しもこそあれ。
蛇(くちなは)れうじ給ひて、その祟により、頭に物はれてうせ給ひにき。……

※佐藤球『大鏡』右大臣道兼より

【意訳】その後、福足君は蛇をいじめ殺した祟りによって死んでしまいました。
頭に腫瘍ができたそうです。

【コメント】あらら、蛇を陵(りょう)じたとはいただけませんね。
子供特有の残酷さで、無邪気に殺してしまったのでしょう。蛇も福足君も可哀想に……。

■終わりに

藤原福足君・基本データ

生没生没年未詳両親父親:藤原道兼/母親:不明(藤原繁子?)改名なし(福足君)官位無位無官死因病死(頭部の腫瘍・蛇を殺した祟り)以上、『大鏡』より道兼の長男・藤原福足君について紹介してきました。

短く悲しい生涯でしたね。楽しいことや嬉しいことなども、記録が残っていればと残念でなりません。

NHK大河ドラマ「光る君へ」には登場しないでしょうが、その存在を覚えておいていただけたら嬉しいです。

※参考文献:

  • 『大鏡』国立国会図書館デジタルコレクション

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

編集部おすすめ