昭和から平成初期、オカルトやUMAのブームの中で話題になっていた「ツチノコ」。全国でその目撃例が相次ぎましたが、1989年に岐阜県の東白川村が村の広報誌でツチノコを取り上げたのがきっかけとも言われています。


そんな東白川村には、お寺が一軒もありません。日本に7万5000もあるとされるお寺が一つもない自治体は、全国でここだけ。

しかし、村の役場前には「南無阿弥陀仏」と彫られた碑がたっています。

これは一体どういう由来があるのでしょうか?

今回は、日本で唯一のお寺のない自治体にある「南無阿弥陀仏の碑」から宗教の歴史を紐解いていきます。

ごいっしょうさまと呼ばれ親しまれる石碑

全国で唯一「お寺がない村」!そこに建つ南無阿弥陀仏の石碑に秘...の画像はこちら >>


村役場の前にある石碑は、高さ2.5mにも及ぶ大きなもの。「南無阿弥陀仏」と彫られた一文字ごとに一升の米が入るとされたことから「ごいっしょうさま」と呼ばれて村人から親しまれてきました。

しかし、よく見てみるとこの石碑は真っ二つに割れています。
実はこれ、割れたのではなく「割られた」のです。しかも、この石碑に手を合わせていた人たち自身の手によって。

一体何のために、この石碑は悲運をたどることになったのでしょう。

神社とお寺は別物です!という法律

その背景には、明治時代に施行された「神仏分離令」という法律がありました。


日本ではもともと、アニミズム(生物・無生物問わず全てに魂や霊が宿るという考え方)を基にした信仰が土着しており、神道と一緒になっていました。
西暦500年代になって、そこに外来の宗教である仏教が入ってきます。

世界の例を見れば、そこで宗教戦争や潰し合いが起こるものですが、日本人は神道と仏教を一緒にお参りするというハイブリッドな方法で、外来のものを取り込みました。

浅草寺というお寺の中に浅草神社があるのもその名残で、これを「神仏習合」といいます。

この文化は仏教が伝来してから明治時代までのおよそ1300年にもわたり、日本人が繋げてきた信仰の姿でした。それを明治政府は「神仏分離令」で分断します。

法律としての記載は、単に「神と仏をわける」というだけのものでしたが、政府が国の宗教を神道としたことで、仏教は悪であるという流れが生まれます。


そうして、仏像やお寺を燃やし壊してしまう「廃仏毀釈」が全国にひろまっていったのです。

壊されないために自分で壊す

全国で唯一「お寺がない村」!そこに建つ南無阿弥陀仏の石碑に秘められた歴史とは!?


破壊の手は、この山の中の小さな東白川村へも近づいてきます。

村の人たちは、毎日、朝な夕なと手を合わせていた南無阿弥陀仏の石碑、大切な「ごいっしょうさま」も、粉々に壊されてしまうのではないかと、行く末を案じていました。

そして、東白川村の人たちは、自らの手で「ごいっしょうさま」を先に破壊して、隠そうと決めたのです。

石碑の横へ回ってみると、石碑は4つに割れています。これは村の人たちが割ったものです。


「ごいっしょうさま」を割った破片は、村の中の庭石や石段の一つのように見せかけて隠したのです。

とはいえ、毎日手を合わせていたものを割るなんて、どれだけ心がいたんだことでしょう。さらには、仏教のものだとバレないように石段として、これまで信仰してきた「ごいっしょうさま」をを踏むことの悲しみは、想像を絶するほど。

しかしそのおかげで、村内のお寺はことごとく破壊の憂き目に遭いましたが、「ごいっしょうさま」は何とか廃仏毀釈の目をすり抜けたのです。

お寺のない村になった訳

全国で唯一「お寺がない村」!そこに建つ南無阿弥陀仏の石碑に秘められた歴史とは!?


「ごいっしょうさま」の歩んだ歴史を考えると、手を合わせずにはいられません。

さて、全国での廃仏棄釈の波は十年ほどで過ぎ、街にあるようなお寺は徐々に再建されていきましたが、この小さな村には再興の体力も経済力もあるはずもなく、それ以来、東白川村は日本で唯一お寺のない自治体となったのです。

廃仏棄釈の波も過ぎさった後に、散りぢりになっていた4つの破片は再び集められ、もとの場所へ戻ってきました。しかし、ここに元々あった常楽寺は破壊されて村役場になっていました。

そんな顛末から、日本で唯一のお寺のない村に「南無阿弥陀仏の碑」だけが立っているのです。

廃仏棄釈運動に壊された側としては確かに辛く苦しいものだったことは想像に難くありません。


しかし、それを経た現代、廃仏棄釈があったからこそ見える景色と学べる歴史があります。いいことも悪いことも、分断なく連綿と現代につながっていることを実感できる場所です。



強い想いのつまった「四つ割の南無阿弥陀仏碑」、まったく観光名所ではありませんが、みなさんも一度訪れて欲しいと思っています。

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