■根拠のない「船中八策」

坂本龍馬(さかもとりょうま)といえば、幕末の志士の人気投票では必ず上位に名前が挙がるビッグネームです。

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坂本龍馬

彼は土佐藩の下級武士の家に生まれながら、その才覚と行動力を活かして数多くの難問を解決しました。


幕末の志士・坂本龍馬は詐欺をも厭わなかった!?大きく書き換えられつつある龍馬の人物像


坂本龍馬と、妻のお龍の像

さらに政治面での活動だけではなく、貿易商社兼海運業者でもある海援隊を設立。商才を発揮して近代日本の基礎を築いたとされています。

しかし現在、彼の実績には多くの疑問が付されており、教科書からその名前が消えるのではないか、とすら言われています。坂本龍馬の人物像は大きく変化しているのです。

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例えば彼は、大政奉還の元ネタとなるアイデア船中八策を作り、それが後藤象二郎から山内容堂へと伝わったとされていますが、その明確な証拠は存在しません。

確かに龍馬が大政奉還後の政体構想を持っていたことは分かっています。しかし現在「伝承」として伝わっている船中八策がそれだったとは断定できないのです。

そもそも船中八策には原本も写本も存在せず、存在を示唆する同時代の史料もありません。海援隊の隊士が書いた記録書にも記述はなく、また後藤象二郎が龍馬の影響で大政奉還の案を披露したという痕跡もないのです。

では船中八策という言葉が歴史上に登場するのはいつ頃からというと、大正時代です。幕末当時はそうした言葉すら存在していませんでした。

■薩長の裏方ポジション

それから彼は、薩長同盟の締結時に仲介のため尽力したとされていますが、その役割は限定的なものだったという見方が有力です。


実際の交渉は薩長の藩士だけで行われており、龍馬は数ある調整役の一人に過ぎませんでした。小説や漫画、ドラマでよく描かれるような決定的な役割は果たしていなかったのです。

もともと、薩長同盟の締結にあたっては、同じ土佐藩出身である中岡慎太郎が主導していました。その動きを知って、龍馬も協力するようになったというだけの話です。

実際の龍馬のポジションは薩長の裏方でした。彼が西郷隆盛と関係が深かったのは事実で、薩摩藩の意向に従って行動することが多かったようです。

彼は重要な会議の段取りや日程を調整し、武器商人であるグラバーを通じて大量の武器弾薬を薩長軍のために用意するという役割を負っていました。

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室戸岬にある中岡慎太郎の銅像

そうした役割を果たすべく結成されたのが、海援隊だったのです。

■いろは丸事件の詐術

ちなみに海援隊といえば、今の時代から見れば詐欺と言われても仕方がないようなハッタリについても見逃せません。海援隊がらみでトラブルが起きた際、彼はヒーローにあるまじきペテンでその場を凌いでいます。

慶応三年四月、海援隊が借りていた「いろは丸」が、現在の岡山県笠岡諸島で事故を起こして沈没します。紀州藩(和歌山県)の軍艦・明光丸と衝突したのです。


この時、龍馬は国際法である万国公法を持ち出して紀州藩の過失を追及しました。

彼によると、いろは丸には八万両(現在の価値で約164億円)相当の銃火器や金塊が搭載されていました。それが明光丸の過失で沈んだので、国際法に基づいてきちんと賠償してほしいと主張したのです。

実際にはいろは丸側の過失もあったのですが、紀州藩は国際法に疎く、彼の巧みな弁舌に翻弄されて同額の賠償金を支払いました。

幕末の志士・坂本龍馬は詐欺をも厭わなかった!?大きく書き換えられつつある龍馬の人物像


いろは丸と明光丸が衝突した広島県福山市鞆の浦のそばにある坂本龍馬と観音像

しかし、この時龍馬は嘘をついていたことが今では明らかになっています。1980年代にいろは丸の船体が海底で発見され、潜水調査の結果、龍馬が主張した銃火器などは確認されなかったのです。

幕末のヒーローとして名高い坂本龍馬は、時に詐術を用いることも厭わない人物だったようです。

参考資料:日本史の謎検証委員会・編『図解 最新研究でここまでわかった日本史人物通説のウソ』彩図社・2022年

画像:photoAC

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