■なぜ「首を取った」のか

戦国時代の武士は、倒した敵方の兵の首を切断して持ち帰るのが常でした。当時の合戦は、首の取り合いでもあったと言えるでしょう。


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それにしても、いくら敵とはいえ首を切断して持ち帰るというのは酸鼻を極めていますし、手間だってかかります。なぜわざわざそんなことをする必要があったのでしょうか?

戦国武将の生首「首級」は取り扱い注意!ランク低ければ捨てられ、死に際の形相は化粧でごまかされていた


大蘇芳年筆『徳川十五代記略』「神君大坂御勝利 首実検之図」。大坂夏の陣にて徳川家康が木村重成の首実検を行う場面(Wikipediaより)

その理由はごくシンプルです。戦国武士が敵方の首を必要としたのは、それが自分の活躍を示す最大の証拠だったからです。

いくら口頭で「相手の侍大将を倒した」と申し立てても、証拠がなければ信用はされません。恩賞にありつくには、相手方の首が必要だったのです。

これは、中国の影響とも考えられています。例えば、古代中国の秦では敵の首一つで位が一級上がるシステムがありました。

それが「首級」という言葉の由来でもあります。この首取りによる昇進の仕組みが日本にも伝わったのではないかということです。

■首級のランクあれこれ

また、人間の首に対する信仰めいた感情もあったのでしょう。

首には人の霊魂が宿るという考え方がありました。
その首を持ち帰ることは、敵の霊魂を味方に加えるという意味もあったのかも知れません。

霊魂の数が多ければ多いほど、味方の領土の豊作が約束されるとも考えられていたようです。

ところで、合戦で切断される首にはランクがありました。最もランクが高いのは相手方の大将クラスの首。次いで、武勇の高い武者の首や、母衣を着た母衣武者の首などが大きな手柄の証となったようです。

戦国武将の生首「首級」は取り扱い注意!ランク低ければ捨てられ、死に際の形相は化粧でごまかされていた


また、その合戦で最初にあげた一番首も高く評価されました。ただし、ある程度身分のある武士を倒したときに限られていました。

一方、下級武士や雑兵の首はあまり評価されなかったようです。身分の低い武士は歯にお歯黒をつけていないので白歯武者といい、歯の色によってランクの低い首級はひと目で識別できました。

また、味方の勝利が決まったあと、逃げる敵からあげた首は追い首といって評価されていませんでした。

武士によっては、恩賞の対象にならないからと取った首を捨てる者もいたようです。反対に、首を一つも取れなかった武士は捨てられた首を拾って体裁をつくろうこともあったとか。


捨てる首あれば拾う首あり、といったところでしょうか。



■平常心ではいられない「首実検」

ちなみに、戦場で斬り落とされた武将の首によって、誰が何という敵の首をあげたのかを確かめる、いわゆる首実検が行われます。



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が、その前にすることがありました。切り取った首に死化粧が施されたのです。城にはこの「首化粧」を担当する女性たちもスタンバイしていました。

斬り取った首に化粧がされたのは、それを見る殿様や重臣に不快感を与えないためです。

やはり戦国時代とはいえ、死者の生首というのは気持ちのいいものではありません。なにぜ生首には無念の表情などが表れ、すさまじい形相をしているものが少なくなかったのです。

戦国武将の生首「首級」は取り扱い注意!ランク低ければ捨てられ、死に際の形相は化粧でごまかされていた


手塚山首洗池の像

化粧された首は首台と呼ばれる台に固定されました。台の中央に突き出ている釘で、生首が転がらないようにセットするわけです。

首実検で首を見せる者は、左手に首台をもち、右手で首の髷を握りながら大将の前へ歩み出て、右顔を見せるのが決まりになっていました。

このとき、「諸悪本末無明…」といった呪文を唱えます。
それで首の主は成仏し、怨霊の崇りは消えると信じられていました。

それでも、あまりに恐ろしい形相の首にの場合は僧侶を呼んで読経させ、供養することもあったとか。

そういえば漫画『逃げ上手の若君』では、本人確認が簡単に行われるシステムがあれば武士たちも「首実検」まではしなかっただろう、という趣旨のことが書かれていました。

血なまぐささには慣れていたであろう戦国武将たちも、やはり人間の生首に対しては平常心ではいられなかったのです。

参考資料:歴史の謎研究会『舞台裏から歴史を読む雑学で日本全史』2022年、株式会社青春出版社
画像:photoAC,Wikipedia

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