大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第2話で評判になった、男色家の平賀源内(安田顕)と、恋人で今は亡き女形役者・二代目瀬川菊之丞(三代目・花柳寿楽)。

二代目瀬川菊之丞は実在の女形役者です。
幼い頃から際立った美貌の持ち主で、江戸っ子の心を鷲掴みにしていたようです。

踊りや所作も美しく、「時代物」と江戸時代の現代ものである「世話もの」の両方を演じ、現代でも人気がある演目『鷺娘』を初演したことでも知られています。

源内と菊之丞が出会ったきっかけは定かではありませんが、ドラマの二話では二人は男色の恋愛相手というだけではなく深く信頼しあっていた仲であったことが伺えました。

※前編の記事↓


大河『べらぼう』で男色家・平賀源内が愛した実在の女形・瀬川菊之丞の生涯【前編】
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■源内の恋人・菊之丞はお江戸のインフルエンサー

大河『べらぼう』で男色家・平賀源内が愛した実在の女形・瀬川菊之丞の生涯【後編】


執着獅子 「二代目瀬川菊之丞 王子路考」

二代目瀬川菊之丞と平賀源内が恋人同士だったことは、有名な話です。当時は江戸では男色が公然と存在していました。

文人・狂言師の大田南畝(おおたなんぽ)の随筆には、

「平賀源内は遊女のいる吉原の遊郭には遊びには行かず、当時江戸の三代男色街として知られていた芳町(現在の日本橋人形町あたりか)でよく遊んでいた」

という記述が残されています。

源内は男色の戯作も手がけていましたが、仲でも有名なのが『根南志具佐(ねなしぐさ)』です。

地獄の閻魔様が美貌の人気女形の姿絵を見てあまりの美しさに一目惚れしてしまい、地獄に連れてこようと手下に誘拐させることを企む……という内容。

閻魔様に惚れられる人気女形として二代目瀬川菊之丞が実名で登場しています。『根南志具佐』の内容に関してはぜひこちらもご覧ください。

『根南志具佐』が出版されたのは宝暦13年(1763)なので、菊之丞は22歳ごろでしょうか。女形の役者としてその名を江戸中に馳せていた頃かと思われます。


菊之丞が身に付けたものは何でも大ヒット!
大河『べらぼう』で男色家・平賀源内が愛した実在の女形・瀬川菊之丞の生涯【後編】


鈴木春信「浮世美人寄せ花」菊之丞の定紋である結綿の模様が入った帯をする「路考娘」

江戸中の人気を集めただけではなく、菊之丞が舞台で用いたものは何でも大ブームとなったそうです。

菊之丞は『王子路考(ろこう)』という通名でも親しまれ、その名前をとって名付けられた路考髷(髪型)や路考櫛(髪に飾った櫛)江戸っ子たちの間で大流行しました。

さらに明和三年(1766年)の中村座での公演『八百屋お七恋江戸紫』にて、下女のお杉役で着た衣装の色「路考茶」は男女問わず、着物のトレンドカラーとして大流行したほどです。

ちなみに江戸時代は、「役者色」という歌舞伎役者の名前がついたオリジナルカラーが売れていました。路考茶は、やや渋味のある少し黄色味のある茶系です。

大河『べらぼう』で男色家・平賀源内が愛した実在の女形・瀬川菊之丞の生涯【後編】


二代目瀬川菊之丞の色として江戸っ子に流行った「路考茶」CMYK (0, 20, 70, 55)

江戸時代中期の浮世絵師で、細身で可憐で繊細な美人画で人気を博した鈴木晴信は、肉筆画を描くことは少なかったそうですが、二代目菊之丞の姿を肉筆で描いた作品を残しています。

菊之丞大人気の当時、美女のことを「路考娘」と呼んでいました。

また、ドラマにも登場する浮世絵師・勝川 春章(かつかわ しゅんしょう/前野朋哉)も、菊之丞が亡くなる数年前の演目で美女『笠屋三勝』を演じているところを描いています。

絵師たちは菊之丞を描きながらも、そのあまりの美しさに胸をときめかせながら筆を運んでいたのではないでしょうか。

大河『べらぼう』で男色家・平賀源内が愛した実在の女形・瀬川菊之丞の生涯【後編】


「岩井半知ろう 笠屋万勝」「中村のしほ 笠屋千勝」「中山富三郎 笠屋三勝」

男色愛だけではなく揺るぎない信頼関係も
大河『べらぼう』で男色家・平賀源内が愛した実在の女形・瀬川菊之丞の生涯【後編】


二代目瀬川菊之丞と平賀源内

ドラマ『べらぼう』2話で、男装の役者に扮した花魁・花の井が舞う姿に、今は亡き菊之丞の舞い姿を重ねた源内の瞳に、涙が浮かびあがるシーンに胸を打たれた人は多かったようです。

その頃、菊之丞は32歳ごろ平賀源内は45歳ごろだったとか。

現代の感覚ではまだまだこれからという年齢に感じますが、江戸時代の平均寿命は32歳~44歳くらいといわれていました。


お互いに仕事や色恋にエネルギッシュだった時代は過ぎた頃だったのでしょう。

源内は最愛の菊之丞とともに、残りの人生を穏やかに寄り添って送りたかったのかもしれません。

けれども雪之丞は先に旅立ってしまいました。

花の井花魁の舞に、恋人の亡き菊之丞の姿を重ねつつ「あの頃のような時間をともに過ごすことは、もうできないのだな」……そんな源内の切ない想いが伝わってくるような場面でした。

大河『べらぼう』で男色家・平賀源内が愛した実在の女形・瀬川菊之丞の生涯【後編】


二代目瀬川菊之丞が初めて踊った「鷺娘」鈴木春信画

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